56『封印の時』
「ナツメ!大丈夫か?」
「うん。それより、今のは……?」
「ああ。やっとやれたと思ったんだがな、体が透けたと思ったらいきなり飛んだんだ」
ラリアンも、ワンが何をしたかどうかは分かっていないらしい。
朽ちる、と言っていたから死んだのは確実だが、それも次の言葉で怪しくなった。
それより重要なのは、最後の言葉。
「封印の時ってなに……?」
「……さあな。私も聞いたことがない」
念の為、直人の方も振り向くと、彼は激しく手を横に振った。
「お、俺が知ってるわけないじゃん」
「ですよねー」
棒読みでそう言ってから、気付く。
「あらんことを、という事は、ワンは何かが封印されるのを望んでるって事だよね?てことは……」
「ワンの意思は政府の意思でもあるだろうから……」
「政府は何かの封印を望んでるって事だな」
順繰りで言葉を繋げ導かれたのは、予測したとは言い難い結論だった。
結論を出した本人でさえも私同様、よく分かっていないのか、私の疑問を直人が代弁する。
「つまり、どういうこと?」
「分からん」
ラリアンが即答したので、ノリでズッコケそうになる気持ちを抑えて、口を開く。
「取り敢えず、この話は終わりにしない?情報が少なすぎるし、ワンはまた会うようなことを言っていたから、そのうち分かると思う。心配だから、今は街に戻ろう」
「分かった」
「おけ」
「ルイ!大丈夫だった?」
街の中で、男の人達と話しているルイを発見し、声を掛ける。
すると、ルイは振り向きざまに顔を輝かせて言った。
「お姉ちゃん!あいつはどうしたの?」
「やっつけちゃったよお」
ルイの頭を撫で、にんまり顔で答える。
すると、すでに輝いていた顔がもっと輝く。
──ま、眩しい。
「じゃあ、大丈夫だね!」
「どうしたの?」
ルイの、脈絡の感じられない言葉に、疑問を抱く。
「あのね、あいつが来たってことは、またあの宝石が狙われるってことだと思ったの。だから、おじさん達に宝石を持って隠れててってお願いしてたの」
「おお。ルイは、お利口さんだねえ」
再び頭を撫でられて、ルイは嬉しそうに笑っている。
ルイはいつも、少し大人びているようで子供っぽいところもあって、そこがいい。
「そっか。宝石どうしよう。──さん、宝石を隠すいい場所はありますか?」
ルイの頭から手を離し、おじさんの方を振り向いて質問する。
おじさんは少し悩んでから、
「思いつきませんねえ。元の場所に戻すのも少し……」
「そうですよね」
元の場所に戻すのは危険だ。
強いて言えば、最後に行ったあの場所なら比較的安全なはずだが、あそこも完全に安全とは言い難い。
しかし、どこかに隠さないと、またあいつらが襲撃してこないとは限らない。
「ならば、私がその場所を作ろうか?」
「──すごい……」
「こんなの、朝飯前さ」
そう嘯きながら、ラリアンは私の肩に体を預ける。
どうやら、オドの使いすぎで力が抜けてしまったようだ。
それも仕方ない。ラリアンは今、この街にとってとても重要で重大なことをしてのけたのだから。
「ありがとうございます!」
首長だというその人は、他の街の人達と共に私達に向かって頭を下げた。
それに私は胸の前で手を振って答える。
「いいんですよ。この街の為ですし」
「おい」
そこに、ラリアンが下から鋭い目線を向けて来る。
どうやら、私がやった風に見えるのが不満らしい。
「いいでしょ、別に。ラリーはこの街の為にやったんでしょ?」
「まあそうだが」
ラリアンが拗ねたように目を逸らし、そこに愛らしさを感じる。そんなことを言うと怒られるに違いないので、少し微笑むだけに済ませ、横を向いたラリアンに声を掛ける。
「ありがとうね。オドギリギリまで使ってくれて。ラリアンが居なきゃきっと、この街はまた襲われてたに違いないよ」
「別に、ナツメが言う事ではないだろう」
「でも、私も困ってたし?この街守りたいし?」
「まあいいさ。このくらい。私はすぐに回復するが街の人の命は有限なのだからな」
「うん」
ラリアンは、自分の身を顧みずにこの街を守る為に動いてくれた。
お陰で、放置されていた地下の街の1番底の穴を埋められた上に、その穴内に宝石を封印することが出来た。
これでもう宝石はしばらく使うことが出来なくなってしまったが、襲撃されて奪われる心配もなくなった。
ただし、襲撃されないわけではないので、完全に安心とは言えない。
そこはもう私達がどうこうできる問題では無いので、首長たちに話し合ってもらう事にした。
そろそろこの街を出ないといけないので、その話し合いの顛末を確認する事は出来ないが、きっと何とかなると私は信じているし、そうする事しか出来ない。
──私はちっぽけで何もできる事はないのだから。
「ナツメ、この街を出るのか?」
「うん。本当は、行きたくないのだけれど」
この街は、始まりの街と同様、いた期間はすごく短かったのだが、思い入れはある。
しかし、時間もそうない。色々気になる事はあるし、こう何度も襲われてじっとしてはいられない。
原因を絶たないと。絶たなければ、始まりの街も地下の街もいつまでも狙われ続け、滅びてしまうかもしれない。そうはさせない。
「ホントに、明日香は変わったよね」
そんな私の決心を読んだかのように直人はそう言ってきた。
そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。
それに、変わったってどう言う事だ?
「前より、ずっと明るい顔してる。別人みたいだよ」
「そうかな?」
別人みたい、と言われると大げさなような気もするが、確かにそうかも知れない。
以前生きていた時は、こう言う風に誰かのために努力したいと思う事なんて無かった。
振り返ってみれば自分でも、変わったな、と思うことがある。
何が原因なのか。そんなこと、言わなくても分かる。きっと、あの声とあれのせいだ。
少し笑ってから、直人に向かう。
「私は、きっと元からこうだったんだよ。違ったのは、あの人達のせい。……そうでしょ?」
「そうかもね」
直人も微笑してから、空気を読んだのか黙っていたラリアンとルイが口を開く。
「次はどこの街に行くの?」
「そうだな。少し遠いが……、お待ちかね、《中央の街》へ行こうか」
「おお」
中央の街といえば、私達が目標としている街だ。
「どんな街なの?」
「政府の本部があるのはもちろん、この世界で一番広い街で、沢山の人が集まっているんだ」
「おーっきい建物もいっぱいあるって聞いたの!」
「「へえ」」
2人の説明に私と直人は同時に感嘆詞を述べる。
抽象的な事しか聞けなかったがそれはきっと、後のお楽しみなのだと言う事で解釈しておく。
「いつ出ようか」
「もう少しだけここにいないか?少し、やりたい事があるんだ」




