48『ナオトの望むもの』
「あの宝石はこの、≪地下の街≫の核のような物です」
そう、クエストの依頼者は言った。
彼は、この街の長らしい。
「宝石は、大きい物1つと小さい物がいくつかあって、それが1か所に集まることにより宝石は完全なものになります。
「今回、私がこのクエストを依頼したのは、宝石の保管場所に問題があったからです。
「実は、小さい宝石と大きい宝石は近くにあってはいけないんです。
「宝石が完全なものになったら?ごめんなさい。我々もよく分かっていないんです。
「ただ、先程言ったように、宝石はこの街の核でもあるので、盗まれてしまうと重大な何かが起こってしまうことは予想されます。
「核の意味ですか?そう言えば、まだ説明していませんでしたね。
「この街は、ある、1つの力によって形成されました。それは、あの宝石による力です。
「伝承によると、あの宝石は、かの≪魔女≫が生み出した物となっています。
「お心当たりがあるんですか?ほうほう。力のある街を……。そうなんですか。私も初耳です。
「とにかく、あの宝石が無くてはこの街はいずれ崩壊してしまうでしょう。
「と言っても、今はまだ大丈夫です。
「あの宝石の欠片が残ってますから。それが無くなったらもう終わりなんですけどね。
「ええ。その人達もいずれそれに気付くでしょう。
「だから、その前に、お願いがあるんです。欠片を集めてきてはもらえないでしょうか?
「ありがとうございます。
「では、今から欠片の場所を印した地図をお渡しします。
「この地図を参考に向かってください」
渡された地図には印が4つあった。
そこで、私達全員で全てを回るには時間がかかってしまうので、分担して作業を行うことになった。
私とルイが屋敷、ラリアンがダンジョン、直人が街中だ。
もう1つは集まり次第全員で行くことになっている。
欠片が全て集まると何が起こるか分からないからだ。
私とルイは早速大豪邸に向かった。
汚名返上しなければ。
直人は焦っていた。
今までで直人には1つもいい所がない。
ラリアンらと敵に向かっていった時は気絶してしまったし、ニンフとの戦闘も、明日香に助けられてしまった。
今度こそ何かしなければ明日香に見捨てられてしまうかもしれない。
それだけは嫌だ。
そんな思いに駆られながら、直人は街の中を駆け巡っていた。
地図上にはある程度の位置しか載っていない。
しかも、東西南北も書かれておらず、一体どこへ向かったらいいのか分からない。
それに、今は街中大混乱。
中央に空いた大穴も捜索を妨げている。
何度も人とぶつかりながらも直人は地図を睨んで場所を探していた。
『ごめん』
ふと、昔の記憶が蘇る。
苦い思い出だ。
明日香に告白して振られてしまった時のこと。
後に続く言葉は、あんたの事は恋愛対象として見れない、だっただろうか。
その後日は放心して、何にも手がつかなかった記憶がある。
例え、OKであっても同じような状況になるだろう事は容易に想像できるのだが。
直人は明日香にとって特別な何かで在りたかった。
だからこそ、共に転生してきた世界での躍進を目指す。
そうすれば明日香の心に、自分という存在が在り続けられるかもしれない。
――明日香が思いを寄せる、あの人と同じように。
「藤谷さん、藤谷さん?」
「え、あ、はい」
誰だろうか。聞いたことがあるような声だ。
「私ですよ、女神です。お久しぶりですね」
「ああ、女神さん」
女神の姿は見えないが、大方、よくある天の声というやつだろう。
何の用だろう。
『お手伝いしましょうか?夏目さんの役に立ちたいんでしょう?』
「それは……」
『良いんですよ。遠慮しなくても。夏目さんの役に立ちたいのは私も同じですから』
「じゃあ、お願いします」
──俺は明日香の役に立ちたいのかもしれない。
それには、女神様の協力は必要不可欠なのかもしれない。
そんな軽い考えで女神様に協力してもらう事は、危険だったのだと直人は後から気付くことになる。
「藤谷さんは、夏目さんとはどのようにお知り合いになったのですか?」
「明日香と?えーっと、家が近くだったんですよ。それで、親も仲良かったんで俺らが記憶ない時からずっと一緒ですね」
「へえ。理想の幼なじみ像ですねえ」
「そんなもんじゃないですよ。何でか俺、明日香には嫌われてたし、避けられてたから、2人とも恋愛に発展するようなことは無かったですしね」
「なかなかマンガのようには上手くいかないものなんですねえ」
「そうですよ。あれは甘い幻想です。あれに希望を抱いちゃいけないんだ」
と、過去の自分を振り返る。
明日香は結局最後まで自分の事を好きになってくれなかった。
どうしたって俺は嫌われたままだ。
「それを今から挽回するんだから、そんなに落ち込まないでくださいよ」
「分かってますよ……」
階段を上り、上った先にあった扉を開く。
女神が言うにはこの部屋に宝石の欠片があるらしい。
「あれか」
部屋の中には小さな箱がひとつ、ポツンと置いてあった。
何の配慮もなく、無造作に。
近寄り、箱を開ける。
「あった」
これでミッションは達成だ。
直人は宝石の入った箱を取上げウエストポーチの中にしまう。
屈んだ体制から立ち上がり、ドアの向きに翻る。
とここで、事件は起きた。
バランスを崩してしまったのだ。
自分の平衡感覚がおかしくなる。
そのまま倒れ込み意識を失う寸前で、気付く。
何かを囁かれている。
静かに、内緒話をするかのように。
最後に、はっきりと声が聞こえた。
「ごめんなさい、藤谷直人さん」




