46『ラリアンさいど』
「馬鹿だなあ。そんなんじゃ僕はやられないよ? 君はさあ、あのおチビちゃんから聞かなかったの?」
ラリアンが突進していく中でも、ワンは余裕を見せる。
受けない自信があるのかそれとも他に何か策があるのか。
取り敢えず、やってみなければ分からない。
懐に潜り刃を突き刺す。
しかし、その刃は腹を突き抜ける事は無く、虚しく空を切るのみだった。
原因は、ワンが突如後ろへ飛びずさった事による。
「お前、余裕だったくせに逃げるんだな」
「……」
ラリアンの挑発に対してワンは何も返さない。笑みを保ったままだ。
何故、彼は当たっても構わないかのような素振りをしていたのに、攻撃を避けたのか。
ラリアンは、予想外の事があったのだと推測する。
なら、もう少し挑発すればぼろを出すかもしれない。
全く喋らない可能性もあるにはあるが。
「お前、攻撃仕掛けないんだな」
「……」
「もしかして、これが怖くて私に近寄れないのか?」
ラリアンは手中のナイフを振り回す。
「……」
ワンの笑みがスッと消える。
返事は返ってこないが、これは当たりだろう。
そう思っていると、意外にも向こうから返事が来た。
「どうやら君は僕と相性が悪い様だ。出来れば逃げたいのだけれど、そういう訳にはいかない。向こうでは彼女が頑張っているからね。何とか勝たしてもらうよ」
「やっと喋ったな。じゃあ、勝負とさせてもらおうか。――≪創世の魔女≫ラリアン・ユークラウス参る」
「――ははっ。君、あの伝説の魔女の1人なんだ。……まあいいや。僕の名前はワン。かの魔女様と対戦できることをうれしく思います。それじゃあ」
ラリアンは、刃渡りが物測り程しかなかった刃を、カタナと呼ばれるラリアンの足の長さ程ある物に変化させる。
カタナは杖の次にラリアンは使っていたことがある。
最近は全然使っていなかったから分からないが、それなりの腕はあるつもりだ。
「せいっ」
カタナをワンの肩口から斜めに振り下ろす。
しかし、彼の動きは素早く、当たらない。
刃の向きを変えそのまま上へ振り上げる。
それも当たらなかったが、ラリアンは諦めずに同じような動きを繋げる。
ワンは避けるだけだ。
攻撃は仕掛けてこない。
焦っているのかと思ったが、そうではないようだ。
「君さあ、他の魔女の行方、知らない?実は僕達、世界創世の魔女のこと探してるんだけどさ、なかなか見つからないんだよ。見つけたのは、君が初めてさ」
ラリアンは引き続き攻撃しているが、ワンは避けながら話しかけてくる。
「もう、危ないなあ。僕が話しかけているっていうのにいつまでも攻撃を続けて、さすがの僕も疲れてしまうよ」
そう言いながらもワンは疲れた表情を全く見せない。
まるで幽霊を相手にしているみたいだ。
「質問に答えてよ。そのままでいいからさ」
「お前に答えることは無い」
「酷いねえ。まあいいさ。答えさせてみせるから」
それ以降、ラリアンのラッシュは途切れた。
ワンが盾でラリアンのカタナを止めたからだ。
いや、少し違うようだ。よく見ると、カタナは盾に吸い込まれている。
盾は闇魔法で作成されているようで、この闇は吸い込む力を持っているらしい。
少し厄介だとラリアンは思ったが、そんなことは無いようだ。
盾はすぐに消えてしまい、ラリアンのカタナは盾から開放される。
刀身は無事。
再び生成する必要はなさそうだ。
「へえ……。僕の闇でも君の闇は消えないんだ。じゃあ、もうちょっと本気出さないといけないのかな?」
「ふっ」
カタナはいきなり解放されたため、盾に向かっていた力がそのまま下に向かっていく。
ライアンは前方に倒れこみそうになったが、何とか踏ん張り刀を返す。
とうとうカタナは命中しワンの洋服を切り裂く。
「くそっ」
ワンはすぐに後ろへ飛び退く。
その胸から腹にかけて、綺麗な直線のカタナ傷が付いている。
どうやらカタナは、上手くワンを仕留められたようだ。
「ひどいなあ、僕の身体に傷をつけるだなんて。もう、僕の一張羅が破れちゃったじゃないか。全く、君は本当にひどい事をする」
ラリアンはカタナを一振りし、少々吸い込んだと思われるワンの血液を振り落とす。
ラリアンは次こそは討つべしとカタナを構えなおした。
「いやあ、君にはかなわないよ。まさか、こんなにも僕と相性の悪い人がいるなんて。しかもそれがかの有名な魔女様とはね。感服したよ。まあ、目的は達成されたようなものだし、僕はそろそろ退散しようかな……、おや?君のその武器、少し小さくなったかい?どうやら僕のコレが少しは効いているみたいだね」
そう言って、ワンは彼の一張羅だという黒いロングコートの前裾を掴む。
「その服になにか仕掛けでもあるのか」
「さあ、それは言えないね」
ワンの言う通り、カタナは少し短くなっている。
見た感じ、全体的に小さくなっているようだ。
どういう事だろうか。
変換されたオドがマナに変わるにしてはまだ早いし、折れた訳でもなさそうだ。
ワンは言えないというが、あの服に何か仕掛けがあるのだろう。
「いやあ、君のオドは本当にすごいよ。何度も言うようだけどね、本当に驚いたんだよ。僕の一張羅がこんな風に傷つけられることはなかったものだから」
「よほどの綺麗好きなんだな」
「まあね。と言うより、この服が汚れたくないって言っていたようなものなんだけどね」
「どういうことかな?」
「君は知らなくてもいい事さ。さ、僕はもう帰るとするよ。さっき帰るって言ったのについ、話を伸ばしてしまった」
そう言いながらワンは地面にワープゲートを展開し、その足はゆっくりとゲートに吸い込まれていく。
「おいっ。お前らは何のためにこの街を破壊したんだっ」
「そのうちわかるさ。君たちならきっとね」
ワンの体は肩上まで吸い込まれ、頭だけが見えるようになる。
ラリアンは彼を追おうと走るが、いかんせん足が遅く間に合いそうにない。
「どうしてっ、どうして、お前らは!」
「全く、君は質問が多いね。僕はもう答えられないよ。帰って、これを直さないとね」
「あっ」
ワンの姿が完全に見えなくなってしまう。
しかし、それでもなお彼の声は聞こえる。
「心配しないでも大丈夫さ。またすぐにでも会えるんだから。君たちが会いに来なくても僕たちが会いに来る。そういう運命なんだ。運命には抗えない。君たちも、僕たちもね」
そう言って、ワンはワープゲートの中に、どっぷりと消えていなくなってしまった。
ラリアンは彼が消えた地面の上に立ち尽くした。




