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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第一章 『自分探しの旅』
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43『異空間の先』

異空間の先は、まだ異空間だった。

水の中を泳ぐ要領で、そのまままっすぐ進む。

異空間に先はない。どうやら、適当にただひたすら前に進むしか選択肢はない様だ。


異空間と言えば、沢山の形があると思うのだが、この異空間は某猫ロボットのタイムマシンの置いてあるあの場所に似ている。ぐにゃぐにゃと曲がった時計は無いのだが。

そんなザ・異空間のこの場所が、ワープものとして異例であるのが、目指す先にある光がないこと、だ。

これは極めて異例であると言えよう。そのせいで現在、私も非常に混乱している。


異空間であるこの場所に左右はあるのか、そもそも方向があるのか。異世界初心者である私には到底考えがつかなかった。

因みに、後で聞いてみたところ、そもそもこの異空間は着く場所が決まっていて、どこに進もうが特に問題は無いらしい。重要なのは、ワープの間の過程、らしいが、私にはよく理解ができなかった。


暫く泳いでいると、異空間に終わりが訪れる――ような気がした。

案の定、異空間の中から外の景色が見えるようになった。

出てからすっころぶ事が無い様に、しっかりと直立しその景色を眺める。


誰かと誰かが戦っているようだ。1人は黒く、1人は金色。

もうひとつ、あった。

倒れる人、それを虐めて笑う人……。


ぼやけていて見えにくいが、それぞれが誰なのか、私にははっきりと分かった。1人知らない人がいるのは、増えたという敵なのだろう。

その中から1人を選択し、私は異空間から抜け出す。


「直人!」


自分の物ではなくなってしまったのではないかと思うぐらいの思考が、私の中を駆け巡る。

――直人が傷つけられている。その事実が、私の心を深く抉った。

駆けながら、直人に向かって両手を広げる。


「ヒールっ!」


途端、直人の体が光に包まれる。私の認識では、最上級の回復魔法を使った。

ただ、直人はまだ傷つけられている。蹴られ、殴られても、直人の体はピクリとも動かない。

そのことに恐怖を感じ、傷つけている方に対してナツメは一矢放った。呪文なしの最上位──。


その炎の猛撃により、敵の動きは一瞬だけ止まった。

もうすぐで敵は炎に焼かれる。

そう思った瞬間、敵の懐から出された何かにより、その一撃は見事に消え失せてしまった。


「何……が」


敵の懐から出たのは、小型ナイフ。

そんな物で私の渾身の一撃は消えてしまったのか。

あまりもの衝撃に動揺を隠すことができず、行動に隙が生まれる。


その隙に敵は、私の懐まで近づく。

構えられたナイフは今にも刺さりそうだ。

こちらを見上げた敵の顔は、恐ろしい形相で笑っていた。瞳は完全に堕ちている。


「シールド!」


咄嗟に、身を守る盾を作り、ナイフの進行方向に構える。

お陰で、ナイフは左胸辺りでそれに衝突し、動きが止まった。

だが、その一撃で盾は砕け、一瞬にしてナイフは心臓を目指して突き進む。


その一瞬だけで十分だった。私が右に回避するのと、ナイフが左腕をかすったのはその直後の事だった。


こんな時に自分の体の俊敏さにありがたく思う。体力がないのだけが欠点だ。

それでも、前の体はヘタレでのろまだったから、俊敏なだけありがたい。


ナイフのかすった腕を触ると、皮が少し切れていた。出血はしていない。

痛くもないので、掠り傷は回復せずに意識を傷から敵に移す。


敵は、ナイフを持った手をだらんと下げて、姿勢も覚束無い。

背骨が曲がり、両膝も、内側に折り曲がっているせいか身長が低く見える。

それなのに、頭だけはこちらを向いていて、恐ろしさを倍増させる。

どうやら敵は、しばらく動くつもりはないらしい。

応戦の体制をとりながら、敵の様子を探る。


「あなたは誰。ここに何しに来たの」


そう問うと、敵の表情は一気に笑みに変わり、見開かれた眼はだらんと下がり、逆に口角はグイっと上がる。

その笑みに、私の体は震え上がった。

手がカタカタと震える。これは恐怖ではない、武者震いだ、と自分に言い聞かせながら、手を強く握りしめる。


「アタシの名前はニンフ。ここには素敵な香りがしたから来たのヨ」


聞いたことのある名前だ、と思った。

この世界でではない。前の世界で、少し聞いたことがあるぐらい。

それがどういう意味だったか、どういう名前だったかは覚えていない。


ただ、ニンフという名前の敵が、恐ろしく強いという事ぐらいわかる。


「アナタがアスカね。アナタを待っていたノ。ソコの子が使えなくなっちゃたカラ」


そう言ってニンフが見たのは、傷ついた直人だった。

直人はまだ軽装備で、攻撃されると大分ダメージが高かったはずだ。

一応回復はしたつもりなのだが、全回復とはいかなかったらしい。

見えるところ全てに何らかの傷がついている。服の中にも大量にあるだろうという事は容易に想像できた。

一番目立つのは、綺麗な顔に付いた打撲痕だ。

その傷に自分が殴られたかのような思いを抱きながら、私は言葉を返す。


「何故私なの。何で直人を傷つけたの。私達は何もしていないのに」


「アナタは質問ばかりなのネ。ま、いいケド。言ったでショ、素敵な香りがしたッテ。ソノ匂いを辿ってきたラ、アナタのお仲間に遭遇したのヨ。ま、アナタにあって分かったワ。アナタがアタシの求めてた子だっテ。サァ、アタシを満足させてヨ。ソシタラ、アタシはスグに帰るカラ」


どこか外国人めいた喋り方に動揺を覚えながら、私は考える。

ニンフの目的は私。つまり、直人にはもう用がないという事になる。

それはとてもありがたい事なのだが、1つ問題がある。


私が逃げようとすると、ニンフは必ず直人を人質にとろうとするだろう。

逃げるつもりはないが、いつでも簡単に人質に取ることができるというのは非常に大きなリスクだ。

──直人を取り戻さなければ。


私は、意を決して直人を救出することにした。

私なら何でもできる。そう信じて、直人の周りのマナを操作する。

まだ感覚は掴めていないが、何とかできそうだ。


実はこの間、ラリアンにマナの使い方について教えてもらったのだ。

その時は、まだ魔法というものについてよく理解がなかった。


 「あれ?魔法が発動しないよ?」


 「ナツメ、もしやオド切れじゃないか?少し疲れてるだろ」


 「うん。ちょっと息切れしちゃってるけど……」


 「だろうな。最近分かったのだが、どうやらナツメは体内に摂って置けるオドの量、つまり魔力が少ないようなんだ。オドは生命力だからな、だからナツメの持久力も少ない」


 「へえー。あれ?でも、大規模な魔法使えるよ?」


 「それはまた原理が違うんだ。普通の人がオドを使って魔法を発動するのに対してナツメは違う。ナツメは空間に漂っているマナを使って魔法を発動することができる」


 「つまり?」


 「ナツメは、マナを使った戦闘をした方がいいという事だ」


 「へえー、めんどくさいね。それで?マナを使う、にはどうすればいいの?」


――空気を物体に変えるイメージで発動する。それがラリアンの言った方法だ。

今回は物体じゃないが、イメージは変わらないだろう。


「ワープゲート、ワープ」


直人の倒れている地面に闇の空間が出現し、直人を吸い込む。成功していたら、直人はラリアンの近くに移動したはずだ。失敗していたら、分からない。多分一生見つからない。

ひとまず、不安要素は消した。後は思いっきり戦うだけだ。


「アラ、意外とアナタは考えが落ち着いているのネ。関心関心。ジャ、やろっカ」


そう言い終えた瞬間、ニンフが思いもよらぬスピードで接近してくる。

──私の俊敏さを舐めないでよね。

私は、突進してくるニンフの逆を突くために、避けるのではなく、反対にニンフの懐に突っ込む。


「なッ」


「ふふ。やぁりぃ」


懐に突っ込んだのはいいが、私にはニンフのようにナイフを持って戦うようなことは出来ない。

ならば、自分のできることをするまでだ。

自らの拳を突き出し、ニンフの腹を殴ろうとするが、そう上手くは事は運ばなかった。


「──え」


突然、自分が何をしようとしているのか分からなくなってしまった。

突き出した拳は何にも当たらず空を切る。

その勢いのままに私の体は前に倒れた。


動けない。動かせない。何も考えられない。

まるで自分の思考がブラックアウトしてしまったようだ。


「ごめんネェ、あまりこの手は使いたくなかったのだけれド、思ったよりアナタが楽しませてくれそうだったカラ、本気出しちゃッタ。サア、頑張ってアタシに抗って。抗った先にキット何かがあるカラ。ネ?」


倒れたままの体を動かせないまま、私は涙を流した。

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