41『魔女として出来る事』
今、この状況をどう打破するか。
考えるうちにも、体は地面へと向かって落下していく。
──死亡フラグ。
この状況の場合、2つのパターンが考えられる。
1つは、このまま落下してポックリ逝ってしまうパターン。
もう1つは、ラリーと別れたせいで敵に殺されてしまうパターン。
後者の方については、ラリアンがバッチリ死亡フラグを立てて去っていった。
あいつ、死亡フラグを知らないのか。しかもあの感じ、絶対私が死ぬやつ……。
それは置いといて、まずは前者の方を防ごう。
始めに起こるのを防がないと次の段階まで進めない。
えっと、さっき見た感じ、まだ底は先だから、一応少しは時間がある。
だが、そんなに長く考えられる時間でもない。
──考えなければ。
私の世界では、基本、高所落下はクッションなんかで受け止められる。
この世界でもそれは可能だろう。
でも、クッションなんか置いたらそこにいた人に迷惑だし、まず持ってもいない。
という事は、魔法か何かを使うことになるのだろうけれど、どのような方法があるだろうか。
地面を柔らかくする?
いや、それもクッションと同じく人に迷惑がかかる可能性がある。
では、それ以外の方法。
──いい事思いついた。風で落ちるのに抵抗すればいいんだ。
どういうイメージがいいか。こう、逆噴射な感じがいいか。
よし、そうしよう。
「よいしょっ」
これなら底までよく見える。地面に対して仰向けにした体を広げる。
地面が見えてきた。
もう少し。
──よし。
「上昇気流、威力抑制、キャンセル」
体が軽く浮いて、落下の威力が弱まる。
風はすぐに消すのでまた体は落下する。
この作業を何回か繰り返し、体制を変えながらも足を付けて着地する。
「ふう……」
一息ついて、周りを見回す。
誰も居ないようだ。
それにしても。
──何もない。誰も居ない。
しかも、地下の街にしては天井──天井と言っていいのかは分からない──が高い。
こんなだっただろうか。
まあしかし、ラリアンがここにいると言っていたのだし、それ以外は全く分からないので、さっさと探そう。
そうして、私は何もない広い空間を1人歩き始めた。
──約30分後。
結局、何も見つからなかった。誰も居ないし何もない。
この場所を表現するとすると、突然発生した大穴、みたいな。
私は途方に暮れ、その場でしゃがみこんだ。
一方その頃、ラリアンはと言うと、これもまた途方に暮れていた。
あんな偉そうに行け、とか言っておきながら、自分には人を助ける手段を持っていないことから目を背けていたのだ。
ラリアンに出来る事はただ1つ。
──被害の最小化。ラリアンはそれを行うために走り出した。
まずは火事をどうにかしなければ。
でも、ラリアンには火を打ち消す力がない。だが、それはラリアンに限ってはの話だ。
ラリアン以外となるとまた話は別だ。
別に、ナツメを呼び戻そうという訳ではない。
ラリアンも忘れかけていた別の方法。
──精霊。
昔、ラリアンは精霊と契約を結んでいた。
契約を結んだ精霊は少ないし、大分前の話だが、精霊は忘れん坊ではないし長生き。
今もその契約は生きているはずだ。
……と、思ったのだが。
呼んでも応じてくれない。
まあ、回復魔法や水魔法が使える奴は一番仲は良かったけど従順ではなかったからなあ。
そう思いながらも別の精霊を呼び出す。
「アミリ」
「にゃー」
手のひらに温もりを感じる。
登場、いや、出現したのは瞳の赤い黒猫。
炎魔法を使役する。
過去にアミリと名付けたその黒猫は、ラリアンの頬に自分の頬を摺り寄せてくる。
この精霊は猫を象っていて、ヒトの言葉を喋れないものの、理解することができる。
実は、ラリアンの精霊は皆猫型なのだが、瞳の色が違う。
それぞれの属性の特徴色の瞳を持っている。
「アミリ、お兄ちゃんとは最近会ってないの?」
額を撫でながら聞く。
「にゃん」
「そっか。ありがと。ねえ、アミリ、あの炎消せないよね?」
「ニャーん」
「分かった。よろしく頼むわね」
ふう、付き合いが長いとはいえ、知らないことも多い様だ。
「よし」
後ろを振り向き、自分の影を見る。
炎によりゆらゆら動く影は微かに形が歪む。
どうやら、アミリの言った事は当たっていたらしい。
影を長く見ている暇はない。
自らの影に手を伸ばし、手を突っ込む。
予想通り。
普通なら消えないはずの手は見事に影に消えていた。
影を掻き回す。
まさぐって見つけたのが、ふさふさした暖かいもの。
それを掴み上げ、影から出したうえで放り投げる。
出てきた黒いものは地面に落下し、音を上げた。
「うにゃっ」
「アマン、お前何故そこにいたんだ」
「にゃん」
「ふん。言い訳しなくてもいいぞ。分かっている。どうせ、あいつに頼まれたんだろ。まったく、お猫好なんだからな、アマンは。で、あいつは、と。おい、どら猫」
ラリアンが呼びかけると、いつの間にかいなくなっていたそいつは家の影から現れた。
漆黒の髪、それに対して透き通った水色の瞳。雰囲気はどこかナツメに似ている。
そいつは、ここに向かって歩いてきた。
「まったく、ご主人は酷いにゃん、人をどら猫呼ばわりするにゃんて、精霊を何だと思ってるにゃん、しかも、うちは精霊としても上位にゃん、人ごときの、魔女ごときのご主人が言っていい言葉じゃにゃいにゃん」
「おい、どら猫。お前、この数の炎を消せるか」
「きちんと人の話を聞くにゃん、つーか、ご主人様はにゃにがしたいにゃん、人助けにゃんてご主人の趣味じゃにゃいにゃん」
「それは言うな。さあ、消せるのか消せないのか言え」
「消せるにゃん、消せるにゃんけど、ご主人は他にも言いたいことがあるんじゃにゃいのかにゃ」
「分かっているのなら、頼む」
「了解にゃん」
そう言って、そいつは駆け出して行った。
数メートル進むと猫の姿になる。
そう、あいつも猫型精霊、先程の猫たちの兄弟だ。いや、姉妹でもある。
そこはどうでもいいのだ。
猫は、炎を踏む度にそれを消していく。
あれ程の芸当をラリアンには出来ない。
たたたん、と猫は炎を消しながらどこかへ消えていった。
本当はまだしてもらいたいことがあったのだが、まあ仕方のない事だろう。
もう一匹を呼ぶか。
「おーい、アミンー」
「にゃんっ」
空間から、黒猫が飛び出してくる。
瞳の色は透明のようで光を反射する。色は無いに等しい。
この子は、回復魔法を使う精霊。
力は弱いが、兄妹の中でいちばんやさしい。
「アミン、傷ついている人がいっぱいいる。助けてきてやってくれ」
「にゃん」
アミンは、直ぐ近くで倒れている人のもとへ駆け出して行った。
さて、もう1つ。
「おい、皆。起きているだろう?私を助けてくれ。傷ついている人たちをひとまとめにしてほしい。傷ついていなくても、避難誘導を頼む。場所は、そうだな。今私が立っているところにしよう。さあ、よろしく頼むよ」
言い終わり、これでラリアンに出来ることはほぼやった。
ラリアンは、自分の言った命令を自らにも課すべく、街を走りだした。




