40『私には出来ない』
「つまり……」
「つまり?」
「光魔法下で闇魔法を使うことは不可能なんだ。但し、条件付きでな」
ラリアンは、そう言い切った。
私は大して驚かなかったが、ラリアンがすごく真剣に言うため少し戸惑った。
ワープは使えなくても問題ないとは思うのだ。
使えないのならば別の魔法を使えばいいだけだし、ワープが物凄く重要な訳でもない。
だから、彼女がそんな風に言う理由が分からなかった。
それを読んだかのように、彼女は言う。
「それが、私にとっては物凄く重要な事なんだ。私は闇魔法の使い手。つまり、闇魔法を使う私は役に立たん、という事だ」
「でも、ラリアンには創世魔法があるでしょ」
「いや、あれは殆ど戦闘には使えんのだ。物凄い集中力を要するし、オドも使う。使えるのは精霊魔法、と言いたいが、この状況だと精霊は応えてくれんだろうな」
「……そっか。じゃあ、使えるのは私だけって事?」
「いや、そうでもないぞ。フジヤ君は頑張っていたし、ルイも防御なら他の誰よりも心強い」
「ん。良かった。それで?敵はどんな奴なの?」
「分からない。私も、ナツメが戦ったという黒い奴しか見ておらんのだ。もう1人の方はフジヤ君に任せていたから」
「うーん、じゃあ、敵味方の区別は難しいか」
「そういうことになるな」
敵が分かったら、気付かれないうちに大きめの魔法でもぶっ放そうと思ったのだがそうはいかないようだ。
まあ、直人が戦ってるんだったらすぐにわかるだろう。
「もうすぐ着くぞ」
前方を向くと、以前と少し違っているものが見受けられた。
──大穴。
私が開けたあの落とし穴の数倍はあった。
それも、地下の街の面積の半分はあるんじゃないかというぐらい。
「ラリアン、これどうしたの?」
「後で説明する。それより、驚きすぎて私の呼び方を間違えているぞ。私の呼び名はラリーだ。ラリアン、とは決して呼ばないようにしてほしい」
「あ。ごめん」
ラリアンはそれ以上何も言わず、私を抱えたまま穴の中へと入っていった。
穴の中は酷いありさまだった。穴の底はまだ見えない上、深く深く進むごとに各階層での惨状が目に見える。
それらはここに起きた悲劇を語っていた。
「あ……」
「見るな、ナツメ。今はこれに目を向けるべきではない。大丈夫だ。この人たちは立派な冒険者でもある。こういう事だってあるとすぐに割り切って対応できるさ。助ける必要はない。彼らだって、自分たちの命より、街の安全を願っているはずさ。1つの命を優先するべきではない。下手したら街1つ消え去ってしまうのだから。来たばかりのナツメには分からないかもしれないがな」
「……」
どうして、ラリアンはそんな冷静でいられるのか。
この惨状を見ても?
私には無理だ。これを見ると、吐き気しか生まれない。
血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。
傍らには、人。その隣にも人。
そんな所もあれば。
燃え盛る炎。あちらこちらで炎が、踊り狂っている。目も当てられない。
別に、私は情が深い訳ではない。
だからと言って、助けないという選択肢を選べないほど、冷酷でもなかった。
ラリアンに抱えられたままでも、何とか救いの手を差し伸べようと、呪文の詠唱を始める。
「広範囲効果、回復促進、魔力還元率上昇」
「ナツメ」
私が唱え終わるとラリアンはこちらを見もせずに、声を掛けてくる。
「ラリーは、どうしてそんなに冷静でいられるの。こんなにみんな傷ついているのに。どうして?」
「それは……」
「私には、出来ないよ。ラリーみたいに、みんなみんな無視して別のことをするなんて。絶対に、出来ない」
「無視している訳ではない。優先すべきことを思う通りに行っているだけだ。それが出来ないのは、仕方がないさ。ナツメは、まだ冒険者としての経験が浅い」
「でも、ラリーだって、この世界には来たばっかりじゃない。いくら創造者だからって今の時代に適応している訳じゃないでしょ?」
「それはそうとも言えるかもしれない。けれど、私はこの世界をずっと見ていた。それだけで十分だ」
一向に譲る気はない様だ。だからと言って私も譲る気はない。
それを伝えるべく、再び口を開く。
「……分かった。ラリー、連れてきてくれてありがとう。ここからは私1人で動くよ。だから、降ろして」
「……っ」
ラリアンが驚いたような顔をする。
やっと表情が変わった。どうやら、ようやく彼女の意表を突くことができたようだ。
私は言葉を続ける。
「あ、あそこに丁度良さそうな所があるよ。あそこなら降ろしやすいんじゃない?ねえ、早く降ろしてよ。ね?簡単でしょ?降ろすだけだよ」
「……何を言ってるんだ」
「あれ?分かんないの?私は大丈夫だから、早く降ろしてって言ってるんだよ?」
「はあ……」
言い過ぎただろうか。
ラリアンの表情が驚きから呆れに変わる。
「どうしたの?」
「もう、ナツメは本当に予想外な行動を取るね。あいつが気に入ったのにも納得がいくよ。分かった」
ラリアンは、どうやら、何かが吹っ切れたらしい。すっきりした顔をしている。
何があったのだろうか。
「私が行くよ」
「え?」
「だから、ナツメが行くくらいなら私が行くと言っているんだ。ナツメは大丈夫なんだろ?」
「え、本当に言ってるの?」
「ああ、そうさ」
「……ありがと」
彼女の中で何があったのかは分からないが、その思いを無下にするほど私も強情じゃない。
ラリアンの配慮を受け止め、街を救うために動くべきだ。私は、覚悟を決める。
「さあ、ナツメ。離すぞ。丁寧に降ろしている暇はないからな。異論ないか?」
「うん。大丈夫。離して」
「さらばだ、ナツメ。後で会おう」
ラリアンは、超かっこいいキメ台詞を放って私の体を離した。
落ちていく私とは逆に、上昇していくラリアンの姿を見送りながら、私は考えた。
この死亡フラグを、どうにかしなければなるまい、と。




