37『立ち向かう決意』
テレポートした先は見たこともない場所で、妙にひらけていている上に、私達以外は誰も居なかった。
どうしてそんな場所に、と思うかもしれないが、一応ある程度予測して絞り出した結論だ。
決してテレポートする場所に失敗したわけではない。
私が跳びたかったのは、誰も居なくて広い場所。
つまり、ここはまさにその通りの場所だったという訳だ。
理由は巻き込みたくないから。
私達がどこにどれだけ逃げたって、あいつは必ず追ってくる。
それを感じさせるだけの威力を、あいつは持っていた。
そして、それを持っている人物を私は1人しか知らない。
──カオスと名乗った政府の幹部。
多分、先刻のあいつも、同じような類のやつだと私は思っている。いや、そうとしか思えない。
ならば、私はあいつを倒したい。
正直、勝てる気はしないが、ナツメは大切な人たちを守る為、もう1つの≪脅威≫に立ち向かう決意をしたのであった。
「ルイ!さっき何の魔法掛けてたの!?」
すぐに訪れるであろうあいつの警戒をしながら、脇の中にいるルイに気になっていた事を質問する。
「魔法……っていうか、お願い、なの。ルイと、お姉ちゃんを守ってって」
「そっか」
ルイの言い方からすると、それが本当に効くものなのかどうかは分からないが、ルイを信じる。
私も何か対策を講じねば。
攻撃魔法を仕掛けておく?いや、どこに現れるか分からない。
防御魔法は不得手だ。あまり使ったことがない。
他は、ルイの使える罠魔法。
私も、工夫すれば使えるようになるはずだ。
よし、それにしよう。
──自分の周りに罠を仕掛ける為には。
私でも知っている初歩的な罠といったら、もうあれしか思いつかない。
イメージをするには、しにくいかもしれないし、やりやすいかもしれない。
でも、やってみないと分からない。
私は、目を閉じてそれを作るイメージをした。
目を開くと、来る気配がした。
大丈夫。きっと大丈夫。対策はしたんだから。
ナツメは、ルイを抱えながら敵を待った。
「おや?こんな所に来たんだ。意外だね。もっと見つかりにくい場所にでもいるのかと思った。まあ、いいよ。僕も戦いやすいから。よし、じゃあ今から行くね」
唐突に、そんな声が聞こえた。あいつだ。
つい、逃げたくなってしまったがここはもう立ち向かう他無い。私は、全身を緊張させ、いつ現れてもいいように身構える。
「やあ、お久しぶり。元気してた?」
まるで、そこにいるのが当たり前かのようにそいつは現れた。
私は、そいつを睨みつけ、直ぐに目が合う。
ナツメは根負けしそうになったが気を張っていたのも相まって、目は逸らさずに済んだ。
だが、後ろに引かざるを得ない状況ではあった。
何故なら……。
「ああ。すまないね。この魔法は割と不便なんだ。その人の位置に跳ぶ場合、その人が動いてないと凄い近い所に着いちゃうんだよ。ま、その方がいいんだけどね」
そう、そいつは私の、ど真ん前にいた。
それも、何もしなくても肌と肌が触れ合ってしまいそうな位の。
幸い、顔がめっちゃ近くて危険、という状況にはならなかった。
「君はとても小さいんだね。何歳なんだい?二桁さえ入っている感じがしないけど?でも、それにしては大人びた口調だったよね。あ、いや、君の声も名前も聞いたことないな。君の名前は何だい」
初めて私に話す出番が回ってきた。
どちらを答えればいいのだろうか。
いや、どちらも答えよう。
「歳は知らない。名前は……ナツメ。ただのナツメ、あなたは?」
「そうか。ナツメ、というんだね。ふーん。そっかそっか。いや、ごめんね。人伝いに聞いたことがあった気がしてね。ああ、そうだ。君が名乗ったんだ。僕も名乗らないといけないね。でも、僕には名乗る名前が無いんだ」
「でも、呼びにくいから」
「ううん、どうしようかな。じゃあ、こうしよう。――僕の名前はない。僕の中には混沌が広がるだけ。君で勝手に名前を付けてくれていいよ」
――混沌。
それで思い出した。
カオスは、和訳すると混沌。
こいつと、カオスには何らかの繋がりがある。
いや、今は仮説の段階だ。
そう信じ切ってはいけない。
そして、急に無理難題を出されたことに文句を言いたい。
何で私があんたなんかに名前を付けないといけないんだよ。
秘かに突っ込みを入れ、真面目に考えてみる。
何がいいんだろう。
思いつかないなあ。
てきとうにつけよう。
えーっと?
数字ぐらいが適当かな?
ワン?ツー?スリー?
うーん。
「じゃあ、ワンで」
一応、呼びやすい名前にした。
一番名前として語呂がいい気がしたのだ。
「じゃあ、僕の名前はワン。そのほかもそう呼んでもらうことにするよ。まあ、名付け親である君はもういないだろうけど」
「ふ。そん時には私はもう死んでるってわけ。面白い事を言うわね。負けないわよ」
「僕もさ。君に負ける気はしないよ」
そう言い終えた後、ナツメは気付いた。
――こんな近くに居たらせっかく掛けた罠使えないじゃん。
と、いう訳でナツメは場所を離れることを考えた。
だが、露骨に罠を避けるしぐさをすると気付かれてしまう。
それに、ルイを抱えているのだ。
ひとまず、こいつと距離を置きたい。
「よいしょっと!」
ナツメは、体を風で包んで跳ぶ。
少し浮いたので、自然の風に乗る。
後ろに跳んで着地。
ワンとは30メートルは離れた。
そこで、ナツメは考える。
考えられる時間は今しかない。
罠に引っ掛かった後どうするか。
敵に何が有効なのか。
そもそも、対人戦闘すらあれからまともにやっていないのだ。
ナツメには戦い方が分からない。
そこが、ナツメとワンの圧倒的格差だった。
それもナツメは理解している。
だが、もうどうする事もできない。
そう考えている内に、ワンはもう動いていた。
「逃げたのはいいけど爪が甘いね。僕を迎え撃つ準備か、もう1度逃げるかしないと」
「……っ!」
ワンが、跳んでやってくる。
罠には引っ掛からなかった。
これでナツメの勝算はない。
でも、ナツメは考え続けねばならない。
殺されたくないし、死にたくない。
折角新しい人生を貰ったっていうのにそれを台無しにするわけにはいかない。
ナツメは即座に判断し、ルイを抱えていない方の左腕を横ぶりで前方に向かって振った。
風が発生する。
それをワンは大袈裟に避けようとする。
よし。今のはマナを使わない引っ掛け。
ワンが避けた所に向かって次は蹴り。
ヒット。
多分そんなにダメージは入らなかったはずだ。
でも、動揺させる事はできる…筈だ。
その隙を狙って火魔法。
形作る暇は無かったので型という型はない。
それでも、相手の服を焦がす事は出来た。
ワンがそれに一言。
「やるねぇ。君にしては」
「どうも」
本当は返事を返す心の余裕は無いのだが敢えて余裕がある様に見せる。
火は有効。
次は大きい形で。
だが、ナツメにも欠点があった。
今まで無詠唱でやって来たが大型魔法となるとそうも行かない。
イメージでの補填が出来ないのだ。
しかも、大型魔法の詠唱には時間がかかる。
それを唱えられる程の暇は無いし、大型魔法の呪文すら覚えていない。
ラリアンさえいれば。
何とかなったかもしれない。
ナオトがいれば、呪文を唱えられたかもしれない。
でも、どちらもここには居ない。
自分たちでやるしかないのだ。
ルイにも何か頼んだほうがいいだろう。
でも、ルイに何ができるか。
正直、ルイがまともに戦えるとは思っていない。
だってそうだ。
まだ子供だ。
ルイにも未来がある。
ここで万が一傷付いてもらっては困るのだ。
そこでナツメは決断した。
一瞬で辿り着いたこの作戦を、ワンに悟られないようにルイに伝える。
「ルイ。今からルイを安全な所にテレポートさせる。だから、ルイは逃げて」
「駄目なの」
「ううん。駄目じゃない。私は大丈夫だから」
「違うの」
「だから……」
「お姉ちゃん。ルイの話を聞いて」
「え?」
ルイが半泣きだ。
私が頑固だったのがいけなかったのだろうか。
でも、ルイを助けるにはこれしかないし……。
「テレポートは、自分以外の誰かだけ跳ばすことは出来ないんだよ」




