36『地下の地下』
ルイがその箱を開けたところ、確かに赤い宝石は入っていた。
だがしかし、その見た目はクエスト提示したものと遥かにかけ離れていた上に、小さかった。
多分、この宝石はフェイクで本物は別にあるんだろう、というのが私達が出した結論だ。
その為、まだどこかにあるであろう本物の宝石を探すため、捜索を再開する。
それからまた数十分後、状況が変わった。
「あれ?なんかキーンって音しない?」
「ホントなの。するの。耳が痛いの」
「うーん」
原因が分からず、戸惑っていると、先程と違う状況に至った原因を思い出した。
宝石だ。
服のポケットから先程の赤い宝石を取り出し、耳を近づけてみると、確かにそこから音が発せられていた。
しかも光っている。
いくら宝石を触ってもその音と光は収まらず、あたふたしてルイに駆け寄る。
すると、音も光も収まった。
「あれ?」
また先程までいた場所に戻ると音が鳴りだし、光りだす。
どうやら宝石は、私が今立っている場所の何かに反応しているらしい。
特に周りには何もない。
あると言えば、私の足の下に汚れた絨毯が敷いてあるだけだ。
まさか、この下に何かあるのか。
「ルイ!そこら辺の物一式退かしてもらえない?」
絨毯の上に置いてあるものを退かしてもらい、絨毯を引っぺがす。
そこで、現れたのは床下収納の扉。
いや、地下への入り口だろう。
地下の街で地下の入り口とかどうかと思うが、そこら辺を気にしている場合ではない。
そこにも何故かかかっていた鍵を解き、現れた階段を降りる。
「暗いの……」
「大丈夫。私もいるから」
一度こけたらずっと転がってしまいそうなくらいに長く続く階段だ。
しかし、幸いにも階段に終わりはあった。
石の階段が打って変わり、土の地面となる。
ここは、どこだろうか。
てっきり、どこかの広場に出るだろうとばかり思っていたが、さすがにそうではないらしい。
ルイと手を繋ぎながら前へと進む。
「モンスター、いないの」
「そうだね」
確かに、こんな場所なら絶対にいるだろうモンスターが今のところ出現していない。
てっきり私は、ここが本来のダンジョンなのだと思っていたが、そうではないのか。
疑問を拭いきれないまま、時々曲がる道を進む。
歩いたのが一体何分か分からなくなったころ、違和感はさらに強くなった。
宝石がより一層強く光りだしたこともあるし、もう1つ別の事もある。
何故か金貨が落ちていたのだ。
誰の金貨か。
それとも、別の何かか。
もう少し先には、青い石が落ちている。
ルイはそれを拾って眺めた。
「これ、とっても強いモンスターがたまに落とす鉱石なの。ここにはモンスターいないのに、何で……?」
その話は初耳だが、確かにと思った。
このことを踏まえると、先程の金貨もモンスターからのドロップ品だと考えることもできる。
一体何故、モンスターのいない場所にそんなものが落ちているのか。
また疑問を1つ置き去りにして私達は前進した。
今度は、行き止まり。
いや、正確には行き止まりではない。
2メートルは軽く超える扉が立ち塞がっているのだ。
そこで私は、ある考えに思い至った。
「もし、先に誰かがここを通っていたら……」
そうならば、今までの疑問も払拭できる。
その誰かがここに出るモンスターを全て倒していたのだとしたら、ここにモンスターがいないことについても頷ける。
しかし、それがドロップ品の落ちてる理由にはならない。
先程のレアアイテムやらお金は私が拾ってバッグに入れたが、特にトラップが仕掛けられている訳でもなかった。
アイテムはもう少し落ちていたが、初めてお金を見つけてその後だ。
つまり、そこまではしっかり拾っていたことになる。
じゃあ何故拾わなくなったのか。
分からず、悩んでいるとルイが言った。
「持てなくなったら、拾わないの……」
ルイも同じことを考えていたのか、私の思考と直結する言葉を言う。
確かに、持てなくなったら拾えない。
どれ程ドロップしたのかは分からないが、容れ物が満杯になると拾えないのはさすがに分かる。
すると、もう1つ疑問が生まれる。
先に言った誰かの人数だ。
人数が多ければ多いほど持てる数は増えるはず。
ということは、人数は少なめ。
その人達もここにクエストをしに来たのか。
そうでないとあんな廃屋にわざわざ行こうと思わないだろう。
今はとにかくクエスト達成だ。
思考を停止、消去させてからルイに声を掛ける。
「行こ」
「うん、なの」
自分の拳より何回りも大きい取っ手を両手で握りしめ、力を込めて押すと、中から光が漏れ出して来た。
ルイの手を引いて中に入り、扉を閉め直す。
中には誰も居ないようだった。
そのうえ、そこにいるはずのボスモンスターさえもいない。
「何もいない……」
「違うの。奥に1つ、大きい魔力が、あるの。でも、モンスター、じゃないの」
ルイは、声を震わせながらそう言った。
ルイも驚くほどの大きい魔力が1つだけある。しかしモンスターではない。
つまり、それだけの魔力を持った人。
もうボスモンスターはその人に倒されてしまったのか。
だとしたら、その人はあり得ないほど強い。
1人でボスモンスターを倒せるほどの実力。
もう、どうしたらいいのか分からなくなった。
私はその場で思考を停止させてしまったが、ルイはしきりに何かを喋っている。
いや、唱えているのか。
何かは分からない。
ただ、話しかけられる雰囲気ではないことは確かだ。
──どうする。
近づいて敵とみなされ戦闘に陥りでもしたら、こちらの負けは確実だ。
でも、悪い人だと確定したわけでもない。
ここはいっそ話しかけてみるか。
未だ見えないその人を確認するため、私は前進したが、ルイは付いてこない。
どうやらまだ何か唱えているらしい。
数メートルほど進むと、10メートルほど先に何かが見えた。
人型。いや、人だ。でも、黒い。全体が。
あの時、戦ったカオスとは正反対の色。
そいつからは、負の感じが漂ってくる。
──危険だ。逃げなければ。
そう認識した時はもう遅かった。
そいつが振り返り、言ったのだ。
「おや?誰かいるみたいだ。まあ、珍しくもないか。だって、ここはクエストダンジョンだもんね。そうかそうか。じゃあ、この赤い宝石はクエスト達成のための鍵か。ふーん。まあ、これがクエストに必要なものだろうとなんだろうとあげないけど。それで?君は、君達は僕にどうして欲しい?君達にとって僕という存在は邪魔なはずだからね。でも、僕も君達が邪魔だ。僕の本能が君達は邪魔な存在だと訴えている。──僕は何だっていいよ。死んで欲しい?殺して欲しい?まあ、前者の方は絶対に無理だと思うけど。じゃあもう君たちを殺す他無いか。君たちは死ぬ覚悟をするんだね。今すぐに」
やけに独り言の多い奴に、色々勝手に決められて、勝手に殺されそうになっている。
頭のおかしい人、としか表現できる言葉が思いつかない。
何故そんな奴がここにいるかも分からないし、何者なのかも分からない。
が、危険だということはすぐに読み取れた。
あいつはやばい。
私はじりじりと後退し、振り返ってルイを目視する。
今すぐに彼女を連れてここを出ないければ。
そうでないと今の私達に未来は無い。
私は、相手に背を向けないように後ずさりしながらルイの下へ向かう。
着いたことを確認し、ルイを抱えた。
彼女も何も言わずされるがままになっている。
「あ、もしかして逃げる気?諦めた方がいいよ。だって、僕の前で逃げられた人なんて1人もいないんだから」
「……っ」
私は、ありったけの意思と力を詰め込んで、叫ぶ。
「テレポート!」




