35『三日月』
「これ可愛いー」
私は、月のモチーフのついた髪留めを見ていた。
──三日月だ。
この世界にも、月という概念はある。
ただ、そこに行こうと考えた人は今までに1人もいないそう。
勿論、月があるならば星々もあり、夜地上に出るとキラキラと光り輝いている。
探してみると、私の知っている星座も見つけることができる。
地球ではないのに何故月や星座が見れるのかは分からない。
でも、私は何となく昔を感じることができて、嫌いではなかった。
この髪留めは、今の私の服装にも合うと思うのだが、つばの広い魔女帽を付けているため、髪を留めても見えない。
買おうかどうか、うんうんと悩んでいると、ルイが話しかけてきた。
「こうすればお姉ちゃんも付けられるよ!」
どうやら、ルイは私が何に悩んでいるかが分かったらしい。
別の髪留めを付けて私に見せてくる。
ルイの髪留めがついている位置は、おでこの辺りではなく、顔の横。
どうやら顔の横に垂れている髪を留めているようだ。
──確かに、あれなら帽子をかぶったままでも見えるように付けられそうだ。
ルイに礼を言って、その髪留めを買うべく手に持ち、値段なんか気にするもんかと息巻いてレジに向かう。
店員に髪留めを渡して財布を出す。
「8万リアンです」
「ふぇっ!?」
確か、ルイのブーツが5万リアンだったはずだ。
小物でこんなにするとは驚きだ。
しかし、背に腹は代えられない。
財布から紙幣を8枚取り出し、渡す。
「どうもありがとうございます」
店員さんの営業ボイスを聞いて、商品を受け取りその場を離れる。
貯金する、とか豪語したくせにすぐに散財してしまった。
このことを言ったらラリアンは怒るだろうな、と彼女の怒り顔を想像し身震いする。
いや、でも、欲しい物を買っただけだ。
お金なんかまた貯めればいい。
すぐに思考スイッチを切り替え、ルイの元へ戻る。
「おかえり、なの」
「ただいま。ルイは買えた?」
「うん!なの。でも、もうお小遣いがちょっとしかないの」
「私も、後5万しかない」
ラリアンが経理を行うにあたって、ルールが1つ増えた。
それは、私が提案したお小遣い制。
クエストで得たお金をある程度生活のために残してから、分配。
ルイは5万、私は10万、ラリアンと直人は0。
2人は自ら要らないと言った。
クエストを行えばすぐにお金はたまる。
そのお金を使って、いつの日かに家を買うことになった。
それぞれのお小遣いから寄せ集めたお金を、だが。
そのクエストを行うにあたって、直人はまだ経験が足りないので、今はラリアンと武者修行の旅に出ている。
私達も、買い物が終わったらあらかじめ受けてあるクエストに行く予定だ。
今回のクエストは難易度低めのダンジョンクエスト。
ルイも戦闘に参加できるようにするため、ラリアンに短剣を作ってもらっている。
軽いが攻撃力が高く、壊れにくい。
ラリアンの物凄い想像力を介して作られた逸品だ。
ルイは暫く、これを使うことになるだろう。
私も、ラリアンにちょっとした荷物を持たせられた。
多分使わないので、その話は割愛させてもらおう。
取り敢えず、店を出てダンジョンに向かう。
そのダンジョンは、洞窟型ではなく廃屋型だった。今度は地上ではなく地下の一角にある。
クエスト内容は、赤の宝石を探せ。
あの小さい廃屋のどこがダンジョンなのか分からないが、多分探せば見つかるだろう。
やる気スイッチをいれて廃屋の扉を開ける。
──どうやらモンスターの類はいないようだ。
念の為全体を確認してから、中に入り、ルイもそれに続く。
散らかっているどころか完全に廃れているこの部屋から、小さい宝石を探すのは大変だ。
「ルイは、右の方を探してみて。私は左を探すから」
「分かったの」
持ち場について、その現状を確認する。
埃も溜まっている上に蜘蛛の巣も張りまくりだ。
手袋無しでは触りたくない。
どうしよう、と悩んでいると何故か私に付いて来ていたルイが言った。
「はい、なの」
「ん?」
ルイが手渡してきたのは粗末な軍手。
これがあれば気が楽になりそうだ、と思いながらも疑問が生じる。
「これ、どこにあったの?」
「クエスト受けた時に受付のお姉さんからもらったの。お姉ちゃん、先に言っちゃったから」
そう言えば、一瞬呼び止められた気がする。
ルイは何も言っていなかったので気にしていなかったが、そうか、そんなことがあったのか。
迷惑をかけてしまった。
「ごめん……」
「いいの。ルイは別に気にしないの」
「ありがとうね」
手袋を装着し、準備万端だ。
「よーし……やるぞ!」
「おー!なの」
まずは机の上から、適当に埃を払ってそれらしい物を探す。
──数十分後。
「あったの!これっぽいの」
その声につられて、ルイの下に寄ると、確かにそれらしい物があった。
いかにも高価なものが入っていそうな宝箱。
その手の定番として、鍵穴が付いているようだが。
「これは鍵を探さないといけない系かな?」
「ううん。それは別にいいの」
「ほえ?」
「だって、ルイ、鍵、開けられるもん、なの」
妙に読点が多いその言葉を聞きながら私は思った。
──ルイも充分チートなんだよなあ。




