31『おかえりなさい』
どうすればいいのか分からないまま、街を放浪とする生活がここ2日続いた。
そして、何も進捗はない。
当然だ。
直人自身、何もする気が無いからだ。
探しても、無駄骨なのはすでに分かっている。
だから、何もしないし何も出来ない。
それで何が解決するわけでもないが、何をすればいいのかもわからないのでは仕方がない。
直人は何を食べる気も起きず、ただあてどもなく街を歩いていた。
その中で、自然に出来るようになってしまったことがある。
──この街の地形を覚えてしまった。
街に定住している訳でもないのにバスガイドさん並みに案内できる自信がある。
どこに美味しそうなレストランがあるだとか、明日香の好きそうな洋服屋さんがあるだとか。
何でも知っているような気分だ。
本当は何も知らないくせに。
……最近、自分では前向きな思考なつもりだったが、いつの間にか後ろ向きに変わってきている。
そんな自分が嫌いだ。
明日香の前では無理してでも笑顔でいるくせに、1人になるとすぐに無になってしまう。
いつからそうなってしまったのか、よく分からない。
でも、純粋な気持ちで笑顔になれていないことは確かだった。
早く明日香に会いたい。
今の直人の頭にはそれしかなかった。
ナツメが失踪してから早5日。
なんの手掛かりも見つからず、ラリアンは始終もやもやした気持ちでいた。
理由は簡単。
今すぐにでも探し出せるくせに探せないこの状況がやるせないのだ。
でも、ナツメの親友であるフジヤ君に言われては仕方ない。
そう思ってはいるのだが、ラリアンはその約束を破ろうと何日も何日も考えては止めてを繰り返していた。
しかし、今日はもう限界だ。
今すぐにでも呪文を唱えてナツメを探さなければ。
ナツメほどの魔力であればきっとすぐに見つかるはずだ。
ラリアンは有言実行、すぐに魔力探知を行おうとしたが、その時出来事が一変した。
ラリアン達のいた部屋に、ナツメが現れたのだ。
女神に会ってからすぐ、私はラリアン達の泊まっているはずの宿屋へ向かった。
というより、女神の一声ですぐにラリアン達の部屋までついてしまった。
私は、扉の前に立ち、自分の中にきっとあるはずの勇気を呼び起こしていた。
隣にはもう女神はいない。
1人で全て行わなければならないのだ。
──大丈夫。
今までだってずっと1人だった。
今更そんなことを気にする必要もない。
私はドアノブを回し、立ちふさがる扉を開いた。
「明日香……!」
今微かに、明日香の気配がした。
すぐ近くにいる。
どこだ。
斜め後ろ、感じるところを振り向くとそこはラリアン達の宿屋だった。
今すぐにでも行かなければ。
そう、思っているのだが、足が動かない。
ここ最近の疲労と、突如襲った安心感で全身の力が抜けてしまったのだ。
直人は、膝を地面について、近場の木にもたれて少しの間眠りについた。
明日香にすぐに会えないことを悔しく思ったが、疲労には抗えなかった。
「お姉ちゃん!」
ルイナは、今まで読んでいた本を投げ出し、ナツメに飛びついた。
懐かしい匂いだ。
ほんの5日しかたっていないのにとても久し振りにあったように感じる。
ルイナはナツメの腹に顔を擦り付け、ナツメがそこに存在していることを再確認した。
暫くの間そうしていると、頭の上にナツメがそっと手を置いて、ぎこちなく頭を撫でた。
その手つきがなんだか嬉しくて、ガバッと顔を上げた。
「……!」
ナツメが驚いたのを見て、にこっと笑う。
「おかえりなさいなの!」
「……ただいま」
ナツメも微笑み返し、頭を撫でる手を下ろそうとした。
「駄目なの!」
「え?」
「頭、そのまんまがいいの」
「あ……うん」
ナツメの手を頭の上で押さえ、下ろそうとする手を動けなくする。
その手を離すと、ナツメは止めなくても撫でてくれるようになった。
そして再び、一言。
「お姉ちゃん、おかえり」
「ただいま。ごめんなさい」
それが彼女の帰還を喜ぶ、ルイナの胸中を表すたった一つの言葉だった。
「ナツメ、心配したんだぞ」
ルイの迎えから数分後、ラリアンが私に長らく感じていただろう言葉を掛けた。
その言葉に一瞬喉が詰まったが、何とか笑顔のまま応じることができた。
「……ごめんね。心配させて。私は大丈夫だよ」
「そうか。良かった」
ラリアンの厳しかった表情が一瞬で安堵に変わった。
よほど心配していたのだろう。
私は申し訳なさを感じながら再び謝罪の一句を述べた。
「本当に、ごめん。私の過去の事情で2人に迷惑を掛けちゃって。もう大丈夫だから」
「いいんだ。私達には謝らなくても。心配はしたが、ナツメは必ず戻ってきてくれると信じていたからな」
ラリアンが、本当に、と疑いたくなる言葉を言ったが、すぐに言葉を続けたせいでツッコミを入れることは出来なかった。
「それより、フジヤくんが心配していたぞ。探してきた方がいいんじゃないか?」
「……そうだね。探してくる」
本当は、会いたくなくて、探しに行きたくなかった。
でも、みんなにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
私は重い足を無理やり引っ張りながらも宿屋を飛び出した。
「あす……か……」
夢の中に、明日香が出てきた。
暗闇の中でうずくまってなく彼女に、直人は手を差し出す。
その手を明日香がとる瞬間、目が覚めてしまった。
──この先は、夢の外で見ろってことか。
明日香の笑顔が見たい。
夢の続きを見るために、直人は立ち上がった。




