28『やらなければならないこと』
「何でお前何かに頼らないと行けないんだ!」
「あれ?困ってるんじゃなかったの?」
「……」
直人はこちらの心情など知らずに無邪気に言い放った。
正直なところ、アタッカーがいてくれるのはありがたい。
私自身も自身も、体を張ってまで前には出たくないし、これからのことを考えると私達パーティに直人は必要だった。
でも、それを簡単に認めるわけにはいかない。
私は直人が大嫌いだ。
貸しを作りたくない。けれどやはり……。
「あれ、明日香迷ってる?大丈夫だよ。俺はタダで助けてあげるから。その代わり、明日香達の仲間にしてよ」
「……」
本来なら、そんなものはいらない、と言ってあげたところだ。
しかし今はそれを言うことを、ラリアン達の視線によって阻まれている。
彼女たちを裏切るような真似はしたくないし、出来ない。
別に、無理矢理彼女達の意思を無視して直人を追い返すこともできはするのだ。
それを、私の心が許してくれない。
心のどこかで、彼女達に嫌われたくないと思っている。
今まではそんな事は無かった筈なのに。
「明日香は何で迷うの?明日香にとって俺は必要な存在だと思うし、俺だって明日香が必要だ」
そんなのは勘違いだ。少なくとも私には直人は必要ない。
……もう聞きたくない。
何も考えたくない。
そんな思いからか気付けば、口から勝手に言葉が漏れてしまっていた。
「……っ。もういい。好きにすれば」
「どうも」
目の前が真っ暗になった。
未来が見えなくなった。
私の進みたい未来には確実に歩めなくなった。
どうしたらいいかなんてもう考えられもしない。
ただ流れるように生きるだけだ。
――昔のように。
「あれ、明日香どこ見てんの?」
「……っ」
突然視界に直人の顔が写り、びっくりして彼を突き飛ばしてしまった。
直人は少しふらつき、私を怪訝そうに見つめる。
「ごめっ」
思わず謝ってしまった。
直人の怪訝そうな表情なんて、初めて見た。
だから、怖かった。
「……明日香が謝るのなんて珍しいね。どうしたの?」
「……」
やっぱり、謝るのは失敗だった。
いつも通り、冷たく接してればいい話なのだ。
耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。
「ねえ、明日香。もう倒したよ。帰らないの?」
「あ……」
振り返ると、罠にはまっていたはずのカマキリボスの姿はなく、穴も消えていた。
どうやら、一瞬で倒してしまったようだ。
それより、気になることがある。
こいつは、このことを見計らっていたかのように現れた。
どうしてそうすることができたのか。
私はそれが気になって仕方がなかった。
でも、それを言い出すわけにはいかない。
聞く意味がない。別に、忘れてしまえばいい話だ。
「ああ、そうだ明日香。俺が何でここに来れたのか気になるよね?聞く?」
「別に」
「ふーん。……じゃあ、言っちゃお。俺、明日香にどうしても仲間にしてもらいたくてつけてたわけ。このダンジョン内で1回見失ったんだけど丁度見つけた時に困ってて。それで、ここで恩を売っとくのもいいよなーって思って」
「……下心ありありじゃん」
「あは、そうだね。で、俺の実力分かってもらえた?」
「……」
ダンジョンのボスでも一瞬で倒してしまった。
その実力は認めるべきだろう。
でも、私はそれを簡単に口にはしない。私自身のプライドが許さない。
「言わないってことは、認めてもらえたんだよね?」
「なっ……」
んでそういうことになる。
そう言いそうになったが、あながち間違っている訳ではないので、異を唱えるわけにはいかない。
「はは。はっきり言ってもらえなくてもうれしいなあ。俺もやっと明日香に認めてもらえる時が来たのかあ。長かったなあ」
「うるさい」
「明日香は素直じゃないね。それで?……これから俺は仲間ね。断ってもらうわけにはいかないよ。これは俺と明日香との間の決定事項。もう決められちゃったことなんだから」
「嫌だっていったら?」
やっとまともに言葉が返せた。
動揺し過ぎてなかなかまともに言葉が出なかったのだ。
「もちろん、断る余地なんて明日香には与えない。断る権利は今の明日香には、ない」
「……」
駄目だ。
やっぱり、この圧には耐えられない。
ラリアンとルイが私を見つめてくる視線を感じた。
その時彼女達がどんな顔をしていたのか、私には分からなかった。軽蔑されるのが怖かった。
しばらく黙っていると、直人が切り出してきた。
「分かってくれたみたいだね。それじゃ、これからよろしく」
そう言って、直人は手を差し伸べてきた。
私は自分の手を上げようとしては下げ、上げようとしては下げを繰り返す。
そして結局、私はその手を掴むことは出来なかった。
ラリアンとルイが見つめる中、私は完全に腕を下ろし、顔を下に向けた。
「ごめん」
私は、下を向いたまま、口パクで呪文を唱える。
――テレポート。
私は、直人の手を取ることができず、逃亡の道を選んでしまった。




