26『懐かしい味』
「俺?俺はね、明日香のかれ……むぐっ」
そいつの口を塞ぎ、レストランの外に連れ出す。
途中店員さんに止められたが、そんなの気にしている場合ではない。
「もう、明日香ったら強引だねぇ」
「あんたが余計なこと言おうとするからでしょ」
「そう?余計じゃないと思うよ?だって、事実だし、あの人たち、俺の仲間になるわけでしょ?」
「は?事実無根だし。何言ってんの。つか、なんであんたこっちにいんの?」
彼氏などと嘯いているが、彼氏ではない。
何度も告白されては振っているのだが、どうにもいうことを聞かない。
一応、幼馴染という関係ではあるのであまり無下にできないでいる。
冷たくしていたつもりではあったのだが、いつまでも離れようとしないのでそのままにして置いたらこうだ。
というか、こンなところまでついてくると思わなかったし、思えなかった。
「俺?俺さあ、明日香死んだの凄い悲しかったわけ。で、轢かれたからこっちに来た」
「は?ざっくりし過ぎてわからないんだけど」
「んー?そう?どこを詳しく知りたい?」
「はぁ。もういいよ。別にあんたの事なんか知りたくないし」
深くため息をつき、奴の顔を一瞥した。私と違って姿は前の世界と変わらない様だ。
憎らしいことに整った顔立ち。髪色は日本人特有の黒。瞳の色も黒だ。
何を考えているのかよく分からないのが私を余計イライラさせる。
そう言えば、こいつの名前を思い出せないことを思い出した。
何だったか。
うーん。
「明日香、久しぶり過ぎて俺の名前忘れてるでしょ?」
「なんっ……」
「顔にそう書いてある」
「ええ」
そんなつもりは無いのだが……。
「俺はね、藤谷直人だよ。思い出してくれた?」
「ナオト……か。うーん。まあ、ちょっと?」
確かそんなような名前だった気がする。
長らく呼んでいないのですっかり忘れていた。
これからは奴を直人と変更しよう。
「もう、そっけないなあ。ところで、明日香のお友達の名前教えてくれない?」
「いやだよ。……知りたければ自分で聞けば?」
「あ、そっか。そうする」
「……あっ。まっ」
行ってしまった。つい、いつもの調子で返してしまった。
出来ればラリアン達には会わせたくなかった。
あいつのことだから、絶対余計なことをするし、勝手に意気投合して仲間にされてしまいそうだ。
だから、非常にまずい。私はこれから平穏な冒険をしたかったのにこのままだとあいつに崩されてしまう。
それを阻止するべく、店内に戻ろうとすると、邪魔が入った。
『夏目さーん、こんばんは。元気してましたか』
「はぁ」
再びため息をつく。
『あら』
「何でこのタイミングで出てくるんですか」
『そりゃあ、伝えないといけないことがあったからですよ。駄目でした?』
「今は駄目です。というか、いつでも駄目です」
『そう言わないで下さいよ~』
何でまた嫌いな奴に会わないといけないのか。それに、伝えたい事とは何だ。
もしかして、あいつと関係してるんじゃ……?
『用件を伝えますね。私、先程仕事をしてきました。その仕事はですね……!』
「そう言う前置きはいいです。時間無いので」
『相変わらずの冷たさですね……。……どうでした?私のプレゼントですよ!』
「はぁ。やっぱりそうですか」
『あ!気づきました?』
はぁ。
もう一度、心の中で深くため息をついて状況を整理する。
取り敢えず、直人がここに来たのは女神の差し金だということは分かった。
「それで?なんでわざわざそんなことしたんですか?」
『言ったじゃないですか、プレゼントだって。良かれと思ってしたんですよ。嫌でした?』
「勿論」
この嫌な気持ちを簡潔にはっきりと即急に伝える。
『あら、そうですか』
全然気持ちを分かってもらえてなさそうなので、思いっ切り女神を睨む。
『やだやだ。そんな顔しないで下さいよ。別に、私も最初からこうしようとしたかった訳じゃないんですよ?ただ、あの人が……』
「言い訳無用です。取り敢えず、あなたは引っ込んどいてください。戻りますから」
『分かりましたー』
女神の気配が消えたのを確認すると、急いで店内に戻り先程まで座っていた席の方を見る。
どうやら、完全に間に合わなかったらしい。
あいつはもう既に私が座っていた席の隣に椅子を勝手に用意して座っている。
そして楽しく談笑までしてくれちゃっている。
ラリアンもルイも笑顔の為止めるのは何か忍びない。
「それで明日香がさー……」
これはもう完全に手遅れだ。
挙げ句の果て、私の話に発展してしまっているではないか。
「お前!」
全力で走って直人に緊迫し、すかさず胸ぐらを掴んで怒りを抑えて静かに言う。
「何の話してんの」
「え?明日香の話」
「何故そうなる」
「まあ、成り行きで?というか、いいの?2人、びっくりしてるよ?」
横を見ると、2人とも目をまん丸く見開いている。
この状況をどう説明しようか。
このまま直人をぶん殴りたいが、店内では無理だ。
腕を下ろして、仲良しの振りでもするか。
いや、そうすると余計勘違いされて、面倒なことになってしまいそうだ。
ひとまず、苦笑いをし、手を離す。
「あはは……」
どうしようか。
この状況で何を言っていいのか分からない。
どうしたらいいかしばらく悩んでいると、ルイが口を開いた。
「お姉ちゃんは、お兄さんと仲良し、だよね?、なの」
その質問は一番されたくなかった。何と答えればいいのか。
まあ、今のところ1つしかないようだけれど。
「あははー、うんー仲良しー」
私は薄笑いをしてルイに応える。直人もルイを向いて笑う。直人はきっと、私と同じ作り笑いではないだろう。
勿論、そんなこと嘘だ。
直人の方はそう思ってはいないだろうが、私からしたら今は嘘をついたとしか言えない。
嘘をついた罪悪感は無くもないが、焦りの方が強い。
正直、この方法が当たっているのか分からない。
仲良くないと答えてもその後どう説明すればいいのか分からないし、反対に今のように仲いいと答えてもその後どう来るのかは読めない。
まあ、これからが面倒になるのは確実だった。
「そうか。良かった。急に走ってきて喧嘩が始まりそうだったから驚いたよ。フジヤ君に、ナツメとは仲が良いと聞いていたから」
「そ、そうだねー。驚かせてごめーん」
「明日香は分かんないけど、俺は喧嘩する気なんて無かったよー。俺が怒った事なんて無いしね……いっ」
余計な事を言うので足を踏んでやる。これでしばらくは静かになるはずだ。
さて、どうしよう。
何とかいい方向に話を進められないだろうか。
取り敢えず、話を変えようとしてみる。
「えっと、じゃあ、食べよっか」
「あ、ああ。そうだな。ナツメはまだそれを食べていないからな」
「うん?」
まるで自分達は食べたかのような……。
「ああ。ナツメが戻るのが遅かったからその間に食べたんだ。すまないな、待てなくて」
「ごめんなさいなの」
「あ、そうなの。じゃあ、私パパっと食べちゃうね……」
知らなかった。
折角美味しいプリンを共感できると思っていたのに残念だ。
それもこれもあいつのせいだ……と直人を一睨みし席につく。
「いっただきまーす」
プリンに入刀し掬い上げられたプリンのかけらを口に含む。
「美味しいっ。これなら何度も食べに来たいかも」
「ほんと?俺にも頂戴」
「はい、って、あんたにはやらないけど!?」
「ええー」
あまりにも感動したせいで、無意識に直人なんかにあげてしまうところだった。
直人に取られる前に完食し、息をつく。
「あー、夏目。やったな」
そうラリアンに言われて気付く。
ラリアンのデザートは確かプリン以外のよく分からない何かだったはずだ。
美味しいと言われて食べたくないはずがない。
「ごめん……」
「いや、いいんだ。どうせまた来るんだろう?」
ラリアンの優しい微笑みにハートを奪われそうになりながらも、何とか言った。
「うん。また来ようね」
このやり取りをする間、何故か直人は終始不機嫌そうな顔をしていた。
「おやすみ」
「おやすみなの」
「おやすみなさい」
あの後一息つき、落ち着いて皆床に入った。
あいつの件は、この宿と別の部屋に止めたことで落ち着いた。
これからは何とかあいつをどうにかする方法を考えなければならない。
1時間ほど前に、女神を呼び出して女神の言おうとしていたことを聞き出した。
どうやら、直人がここに来た経由だったらしい。
正直、必要のない事とはいえ、気になってはいた。
静かに耳を傾けると、女神は丁寧に説明してくれた。
『あの子、藤谷直人君は道路に飛び出して半ば自殺的な感じで死んだんです。始めは地獄に送られました。
自殺者は地獄へ行くんです。そこで私は頼まれました。鬼さんたちに、です。
鬼さんたちは、彼が何かを言っているのだけれども、王が不在なので何と言っているのか分からない、と。
そこで私は彼を迎え、話を聞きました。そしたら、夏目さんの知り合いだというじゃないですか。
しかも密接な。私はその時すでにあなたに嫌われていたのでこれはチャンス、と思いました。
どうにかして地獄の王を説得し、彼の転生が決定しました。そこで、私は頼まれました。
転生ではなく、転移ということにしてほしいと。
私はその願いを聞き、死体を復活させて彼をこの世界に転移させました。
無事に彼は転移し、あなたと出会ったのです』
ここで、女神の話は終わった。
ほぼ要らない話だが、まあなんとなく分かったのでよしとしておく。
思い出していると眠くなってきた。
静かに、私は夢の扉を開いた。




