21『変わりたい』
「普通、街の外で暮らす人はいないんだ。何故なら、街を1歩外に出ると、そこはモンスターが闊歩する無法地帯だからな。だから、そんな危険な場所に家を建てて永住しようなんぞ考える人はそうそういない。だから、私は気になったんだ。この人が何故、どうして、危険を冒してまで街の外に住んでいるのかが、な」
「へえ」
なるほど、この人はレアケースなのか。
まだこの世界について全然知らないから、こういう場合もあるのかとばかり思っていた。
「変に思うのも仕方ありません。でも、私はここに出てくるしか生きる方法はなかったのです」
「どう言うことですか?詳しく教えてください」
もしかしたら断られるかも、と危惧しかけたが、どうやらその心配はないようだった。
「長くなりますが、良いですか?」
もしかしたら彼女は、悩み相談をするように、初対面の私達に今までの自分の思いを打ち明けたかったのかも知れない。
「私は、生まれた時から、魔法が使えなかったんです」
「ちょっと待て、そんなことがあるのか?」
「ちょっとラリアン、雰囲気壊さないでよ」
「いいんです。はじめは皆さん、同じような反応ですから。……たまにいるんですよ。生まれつきでマナのオドへの変換がうまく行えない体を持った人が。そのせいで、私は周りの人に、家族にまでも忌み子として蔑まれてきました」
よほど、辛かったのだろうか、彼女は服の袖をきつく握っている。
それもすぐに弱めたのち、再び口を開いた。
「でも、私は女神を呪ったりはいたしません。女神様はいつもお美しく、我々に平等に人生を配分なさってくださっていますから」
そこで、彼女は一呼吸置いた。
まさかここで、女神の名前が出てくるとは想っていなかった。
彼女の言う女神が私の知っている女神なのかは定かではないが、もしそうだとしたら勘違いだ、と私は論じたい。
「その証拠に、私は私の望む素敵な人生を送れています。魔法が使えなくても、この仕事は出来るんです。……この仕事に出会ったのは、終学校の卒業間際のことでした」
彼女は昔を思い出すように話し始めた。
「周りのみんなが深学校への進学や魔法学校への入学を選ぶなか、私はまだ進路が決まっていませんでした。
けれど、職場体験としてある農家さんのお宅へ伺った時、私は光を見ました。
彼らはとても幸せそうに仕事をなさっていたのです。
彼らは魔法が使えましたが、魔法が当たり前に使える人たちに劣等感を抱いていた私を、快く歓迎してくださいました。
それも、私がこの仕事にのめり込むひとつの要因だったかも知れません。
その後、私は彼らに憧れ、この道を一心に目指しました。
学校はありませんから、全て独学で。
街の中で行いたくはありませんでしたので、街の外でこの仕事をすることにしました。
そして今、私はここにいます」
彼女は淡々と語っていたが、その人生は壮絶だったはずだ。
周りに蔑まれ、普通の生活もままならないまま、やっと自分に合った仕事を見つけた。
これを言うと、彼女に断固否定されるだろうから言わないが、私は彼女のような生き方が羨ましい。
今までくよくよ生きたままだった自分を殴りたいぐらいだ。
今も昔も、私は変われていない。
この世界に来てからも、本質的には何も変わっちゃいない。
変わりたい、と心の底から想っているくせに、実行できてはいない。
──だから、羨ましい。
自分らしい生き方を見つけている彼女が。
「なんだか、勇気をもらいました。初対面のあなたに。私は、もう少し前を向いて歩けそうです」
「良く分かりませんが……。こんな私が役に立てたようなら良かったです。さあ、寝ましょう。あなた方が向かっていると言う地下の街はすぐそこです。早めに出れば、昼までには着くでしょう」
「そうだな。もう寝て、早く起きないとな」
「うん……。そうだね」
私は、いつの間にか眠ってしまっていたルイの頰を撫で、寝室まで案内してくれると言うアグリについて行った。
その背中は、私にはどこか誇らしく見えた。
青い空の下で、私達はアグリの家を旅立とうとしていた。
「どうも、ありがとうございました。ご馳走までいただいた上に、泊めてくださって……」
「いえ、こちらもお世話になりましたから」
「では」
「また、どうか機会があったらいらっしゃってください。ご馳走を用意して待っておきますから」
「ええ、是非」
彼女に手を振り、前方を向く。
横にはラリアン、下にはルイがいる。
「よし、あとちょっと、頑張るぞー!」
「「おー!」」
今度はちゃんと返事が返ってきた。
《地下の街》とは、一体どのようなところなのだろうか。
私の中で期待が一気に膨らんだ。




