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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第一章 『自分探しの旅』
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20『街の外で暮らす人』

「ひっ」


着くとそこでは、狼たちが羊を蹂躙していた。何度見ても見慣れるものではない。

愛する羊たちを守るためにも、なるべく被害を最小限に留めなければ。

しかし、数が尋常でない。


今までは3匹ほどを相手とすることが多く、何とか追い返すことができていたのだが、今回は桁が違う。

圧倒的な数の多さにマグリは冷や汗をかきながら後ずさりをした。

──いや。これぐらいで戸惑っている場合ではない。

どうにかして、追い払わないと。

自分が傷ついても、この子達だけは守らなくては。


「せいっ」


今まさに羊に食らいつこうとしている奴に細剣を突き刺す。

鮮血が噴き出し、頰に付くのが分かった。

それでもマグリは剣を振るのを止めなかった。


「はあっ、はぁ……」


羊たちの悲鳴が、狼たちの唸り声が、マグリの心を削っていく。

やめて、やめて。これ以上、傷つけないで……。

そう思っていた刹那、奇跡は起きた。


「ラ……ニ…グ…ロ──!」


微かに聞こえたその声を掛け声に、前方頭上に巨大な光の柱が立った。

同時に、狼たちの呻き声が辺りに広がる。

マグリは、訳も分からず空を見上げるが、光の柱の影は少しも残っていない。

残るのは、地に這う狼たちだけだ。


「あなた方は……」


狼たちの死骸の向こう側に、3人の人が見えた。

その3人は、マグリには女神のように見えた。






「大丈夫ですか?」


私は、血まみれになって立ち尽くす女性に歩み寄った。

狼たちは居なくなったのに立ち尽くしたままなので、心配になって、彼女の目の前で手を振る。

すると、彼女はハッと目に焦点を戻し、こちらを向いた。


「大丈夫です?」


聞こえていなかったようなので、もう一度聞く。

今度はちゃんと聞こえたようで、女性は口を開いた。


「すみません、ありがとうございます」


「いえいえ」


「何かお礼をさせてください」


私は別にいい、と思ったが、ラリアンとルイはそうでも無いようだし、お腹が限界なので、私はありがたくお礼をしてもらうことにした。


「じゃあ、ご飯を頂けませんか?」






「はぁー、あったまるぅ」


木で出来たマグカップの中に入ったココアのような液体が冷えた体を温める。

ルイも、口にヒゲをつけ幸せそうな顔をしている。


「本当に、ありがとうございます。こんなにご馳走して貰っちゃって」


「いえ。私の方も、助けてもらいましたから……」


女性は、俯いて答える。

ご飯も食べていないし、どうしたのだろうか。折角助かったのに。


「食べないんですか?」


「あ、大丈夫です。どうぞ食べてください」


「そんな!こんなに沢山、私達だけではいただけませんよ。それに、あんな事があったんですから、食べないと」


女性は少し迷った後、私が差し出したスプーンを受け取った。


「では……」


女性が少し食べた後、私はタイミングを見計らって彼女に話しかけた。


「あの、お名前は何て言うんですか?」


「ぁあ、……マグリと言います。姓はありません」


「マグリ……さん、ですか。いい名前ですね」


変わった名前だ。でも、いい名前でもあると思う。

この世界では、今まで聞かなかった名前ばかりだ。

世界が違うのだから当たり前かもしれないが。


「あなた方は?」


アグリが聞き返してきた。


「私の名前は、ナツメです。この子は……」


「ルイナなの!ルイって呼んでなの!」


私が紹介する前にルイが元気よく自己紹介をする。お決まりの文句は欠かさない。


「と、こっちは……」


「ラリアンだ」


こちらは一言だけのようだ。

全ての自己紹介が終わり、マグリの復唱が続く。


「ナツメさん、ルイちゃん、ラリアンさん、ですね」


彼女の確認に私達は笑顔で返す。


「どうも、この度は本当にありがとうございます。あなた方が助けて下さらなければ、被害は甚大おろか、私も命を落としていた事でしょう。本当に、感謝しかありません」


「いえ。私達もこうして歓迎して下さったので、お互い様です」


「そんな……」


マグリさんは、謙遜して両手を顔の前で振る。


「ところで、マグリさんはここで畜産業をなさってるんですか?」


「ええ。ここで動物たちを育てて各街に出荷しています」


「へえ、じゃあ、あの羊たちも毛を刈って……?」


「ええ」


──大変だ。

いくら私達が助けたとはいえ、それまでに殺されてしまった羊たちも少なく無いはずだ。

もう少し早くきていれば、と悔やんでも悔やみきれない。

よほど驚きを隠せていなかったのか、彼女はかばうように言った。


「大丈夫です。あの子たちは、もう毛を刈った後ですから……」


私には、そう取り繕う彼女が嘘をついている様にしか見えなかった。


「でも、愛していたんでしょう……?」


その問いに、彼女は言葉を発さず、悲しい笑みを浮かべて頷いた。

やはり、先程からのこの物悲しい彼女の態度は、これからきていたに違いない。

何か力になれたらいいのだが……。


「あなたは、いつからここで動物を育てていたんだ?」


「ちょっと、ラリアン?」


いくらなんでも、それは態度がなっていないだろう、注意しようとしたが、それをマグリさんが止めた。


「10年ほど前です。初めは鶏しか飼っていなかったのですが、慣れていくうちに増えてきて」


今の状態です、と彼女は続けた。

振り返れば、羊も多くいたし、この小屋に来る道中も牛や山羊、豚などもいたはずだ。

しかし、ここには彼女1人しかいない様だが……。


「1人で切り盛りしているのか?」


「ええ、まあ。便利な魔導具も沢山ありますからね」


「大変じゃないのか?街の中でもないから、モンスターもしょっちゅう来るだろう?」


「大変ですよ。でも、やりがいも多くて。今まで続けられてるんです」


ラリアンの質問に、マグリが答えていく。

このままではラリアンの詰問状態だが、マグリ自身はそんなに嫌そうな顔をしていないので、様子を見守る。


「どうして街外に出てまでこれをやろうと思ったんだ?」


「それは……」


ついにマグリが嫌そうな顔をしたので、私が間に入る。


「ラリアン、どうしてそんなに聞くの?」


「いや、ちょっと、気になったのでな」


「どして?」


「珍しいんだよ。唯一と言ってもいいかもしれない」


「何が?」


私の純粋な疑問に対して、ラリアンが一息置いて答える。


「街の外で暮らしている人が、さ」


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