19『道中』
「さあ、行きますか」
日がまだ完全に出ていないうちに、私達は早速出発することになった。
早めに行かないと食料がもう底を尽きてしまっているからだ。
まだ起きていないルイを背負って家から出る。
「ナツメ、大丈夫か?何なら私がマナを使って……」
「大丈夫。あれ、結構神経使うんでしょ?」
あれ、とはラリアンが魔法を使わずに人を動かしたことだ。
どうやらあれは、気体中に満たされているマナを操作することで物を動かせる様になるらしい。
それも、便利なものではないらしく、ひどく集中力を使うとのこと。
「すまないな」
「いいのいいの。ルイは軽いんだから」
ルイを背負い直し、ラリアンに笑いかけた。
「さあ、急ぐぞ。もう少し先に森があるから、昼になるまでに着きたいぞ。でないと、朝も昼も飯抜きだ」
「よしっ。ご飯のためにも頑張るぞー!」
おー!と言う声を期待していたのだが、残念ながらラリアンは何も言わずに先へ歩いて行ってしまった。
慌てて駆け出し、ラリアンの後を追う。
「ちょっと待ってよぉ」
「ふぅ」
──これからまた、仕事だ。
温めた牛乳を飲みながら、目を覚まさせる。
朝は目覚めがいいと自負しているが、やはりこれがないと締まらない。
ぱぱっと朝食を食べ終え、立ち上がる。
外に出ると、ひんやりとした空気が肌を刺した。
ここら辺もそろそろ冬だ。そろそろ森に行って薪を取りに行かなければ。
「よしっ」
手袋を着けた手で頬を叩き、気合を入れる。
──今日もまだ始まったばかりだ。
「くしゅんっ」
ルイが口を押さえてくしゃみをする。
「あれ?寒くなった?」
露出している肌が少し冷えるので、手で腕をさすりながら横を見た。
「確かに、少し冷えるな。ここらはそろそろ冬なのか?」
「どゆこと?」
「この世界は、……くしゅんっ、季節は、くしゅ、地域ごとに違うの、っ。今までは、秋の季節の地域にいたからっ、まだ寒くなかったの。……くしゅん」
「もう、ルイったら。あったかくしなきゃ。ちょっとラリアン、なんか出せないの?」
ルイは、何度もくしゃみしながら説明をしてくれたが、とにかく寒そうだ。
ノースリーブワンピースを着たルイの腕には寒イボが立っている。
「すまんな。さっきも言ったが、私の魔法も万能じゃないんだ」
「だ、大丈夫なの。自分で何とかできるっの」
そう言うと、ルイは少し背中を丸めて手を握りしめる。
すると、ルイの角から光が出始め、ルイの体を包んで消えた。
「すんっ。……あったかくなったの」
ルイは鼻を吸って、こちらを見て言った。
「何したの?」
「なんかね、ツノからオドをぶいーって出して、包んだの。マスターが教えてくれたんだよ」
「へえ、便利ね」
「でもね、ルイだけしかあっためられないの」
ルイが上目遣いでこちらを見た。
どうやら私の発言から、私もルイの角を使って温まりたいのだと勘違いしてしまったらしい。
「大丈夫よ、私は我慢するから」
「やはり、早めに地下の街に着かないとな。この寒さにも、空腹にも耐えられなくなってしまう前に」
「あれ、でも、もう少し遅くても良さそうなの」
「「ん?」」
ルイがポツリ、と言った。
──日が落ちる。
そろそろ一日も終わりだ。
夜は一層寒くなるから早く小屋に戻らないといけない。
いつもなら、すぐに戻るのだが、今日は違った。
違和感がするのだ。この先起こることに恐怖を感じている。そんな気が。
後ろ髪を引かれながら、マグリは羊たちのいる場所を離れた。
小屋に戻ると、いつもと変わらず、灯りの点いていない部屋が待ち構えていた。
壁をたどって、明かりを灯す魔道具の電源を入れた。
一つしかない椅子に座り、一息つく。
これからまた、夕食を作って食べないといけない。
本当ならすぐに寝たいが、食べないわけにもいかないので、立ち上がって台所に向かった、その時、メェェェェ、と言う、愛羊の悲鳴が聞こえた。
──嫌な予感が当たった。
マグリは外に出て、扉のすぐ横に立て掛けられていた細剣を手につかんだ。
今もうすでに、羊が何匹も死んでいるかもしれない、そう思うと気が気でならなかった。
マグリは、ひたすら野を駆け抜け、羊たちのいる場所に向かった。




