15『響く音に光は』
「いや、形が分からないと作れなくてな」
すっかり、勘違いしていた。
あんなに自信満々にしているものだから、すぐにでも作れるのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
「形、分かんないの?」
「何となくしか覚えていないんだ。楽器ってほら、複雑な形をしているだろう?」
「そうだけど……」
確かに私自身、楽器の形を思い出そうとしても上手くできない。
記憶って、意外とあやふやなんだなあ、と思いつつ、助言する。
「ラリアンが思い出せないんだったら、長く楽器に触れてきたであろう人に聞けばいいんじゃない?」
「ああ、そうか。……ご老人、貴方の記憶を少し貸しては貰えないだろうか」
老人は、少し沈黙した。何かを考えているらしい。
「話を聞くと、あなた方は私の記憶を頼りにしている様ですね。しかし、私も楽器に触れたのは随分と前の事でしてね。はっきりとは覚えていないんですよ」
「それでも良いんです。私達の記憶よりはましかと」
「はあ」
私の言葉に老人はあまり納得していなかった様だが、私はラリアンに、何かをする様に手で促す。
「では、失礼」
そう言うと、ラリアンは老人の手を握る。
目を瞑って何かを唱えている始めた。
それもすぐに終わり、机の上にゴトッと何かが落とされた。
「出来たぞ」
「わあ」
机の上に置かれたのは、光り輝く楽器だった。
ーー成功だ。
「これって、何の楽器?」
「……おお」
老人は、私の言葉も聞こえない程、その楽器に感動している。
その楽器に手を触れ、胸に抱き、感嘆の声を漏らした。
「これは……。すごい。本物の様だ」
老人が、少しこちら側に戻ってきた様なので、再び声を掛ける。
「あの、この楽器は?」
「トランペットと言います。正しく鳴れば、高らかに美しい音が鳴るはずです」
そうか。形は完璧でも、鳴るかどうかはまた別問題なのか。
ついでに、この楽器の事も思い出した。
確か、よく聞く楽器だ。
「鳴らしてみてください」
老人は、黙って楽器を構える。
そのまま頬を膨らませ、老人は身体に力を入れた。
問題なく、楽器はその老人の思いに応え、その音を鳴らした。
「わあ。すごく綺麗な音」
「ルイ、もっと聴いてみたいの」
「そうだな。是非、この家から出て吹いてくれないだろうか。この街の人も応えてくれるかもしれない」
「分かりました」
私達は老人の家を出、噴水の広場に戻った。
老人は、しゃんと背筋を伸ばし、楽器を構える。
向いている方向は沢山の家が立ち並んでいる。
すぅっ。
そう、息を吸う音が微かに聴こえると、美しいトランペットの音色が街中に高らかに響いた。
ひどく美しい曲だった。
聴いた事はないけれど、どこか優しさを感じ、心までも包んでしまう様な、そんな曲。
その音色が聴こえる間、私の中の時間はゆっくりと進んでいる様に感じた。
けれど、それを長くは感じなかった。
曲が終わると、ああ、終わってしまった、と言う悲しさを私は感じた。
恐らく、ラリアンやルイも同じ気持ちだったはずだ。
2人共、目を閉じて、その音を感じていた。
私は、自然と涙を流してしまった。老人も、空を向いて涙を流している。
その音色と、老人を讃えて、私は拍手をし、それにラリアンとルイも加わる。
3人だけの拍手だった。
しばらく声が出なかった。
これなら、街の人達も感動して、家から顔を出して拍手をするのではないか。
しかし、そうはならなかった。
──曲が終わってもなお、街は静かだった。




