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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第一章 『自分探しの旅』
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15/102

15『響く音に光は』

「いや、形が分からないと作れなくてな」


すっかり、勘違いしていた。

あんなに自信満々にしているものだから、すぐにでも作れるのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


「形、分かんないの?」


「何となくしか覚えていないんだ。楽器ってほら、複雑な形をしているだろう?」


「そうだけど……」


確かに私自身、楽器の形を思い出そうとしても上手くできない。

記憶って、意外とあやふやなんだなあ、と思いつつ、助言する。


「ラリアンが思い出せないんだったら、長く楽器に触れてきたであろう人に聞けばいいんじゃない?」


「ああ、そうか。……ご老人、貴方の記憶を少し貸しては貰えないだろうか」


老人は、少し沈黙した。何かを考えているらしい。


「話を聞くと、あなた方は私の記憶を頼りにしている様ですね。しかし、私も楽器に触れたのは随分と前の事でしてね。はっきりとは覚えていないんですよ」


「それでも良いんです。私達の記憶よりはましかと」


「はあ」


私の言葉に老人はあまり納得していなかった様だが、私はラリアンに、何かをする様に手で促す。


「では、失礼」


そう言うと、ラリアンは老人の手を握る。

目を瞑って何かを唱えている始めた。

それもすぐに終わり、机の上にゴトッと何かが落とされた。


「出来たぞ」


「わあ」


机の上に置かれたのは、光り輝く楽器だった。

ーー成功だ。


「これって、何の楽器?」


「……おお」


老人は、私の言葉も聞こえない程、その楽器に感動している。

その楽器に手を触れ、胸に抱き、感嘆の声を漏らした。


「これは……。すごい。本物の様だ」


老人が、少しこちら側に戻ってきた様なので、再び声を掛ける。


「あの、この楽器は?」


「トランペットと言います。正しく鳴れば、高らかに美しい音が鳴るはずです」


そうか。形は完璧でも、鳴るかどうかはまた別問題なのか。

ついでに、この楽器の事も思い出した。

確か、よく聞く楽器だ。


「鳴らしてみてください」


老人は、黙って楽器を構える。

そのまま頬を膨らませ、老人は身体に力を入れた。

問題なく、楽器はその老人の思いに応え、その音を鳴らした。


「わあ。すごく綺麗な音」


「ルイ、もっと聴いてみたいの」


「そうだな。是非、この家から出て吹いてくれないだろうか。この街の人も応えてくれるかもしれない」


「分かりました」


私達は老人の家を出、噴水の広場に戻った。

老人は、しゃんと背筋を伸ばし、楽器を構える。

向いている方向は沢山の家が立ち並んでいる。


すぅっ。


そう、息を吸う音が微かに聴こえると、美しいトランペットの音色が街中に高らかに響いた。

ひどく美しい曲だった。

聴いた事はないけれど、どこか優しさを感じ、心までも包んでしまう様な、そんな曲。

その音色が聴こえる間、私の中の時間はゆっくりと進んでいる様に感じた。

けれど、それを長くは感じなかった。

曲が終わると、ああ、終わってしまった、と言う悲しさを私は感じた。

恐らく、ラリアンやルイも同じ気持ちだったはずだ。

2人共、目を閉じて、その音を感じていた。


私は、自然と涙を流してしまった。老人も、空を向いて涙を流している。

その音色と、老人を讃えて、私は拍手をし、それにラリアンとルイも加わる。

3人だけの拍手だった。


しばらく声が出なかった。

これなら、街の人達も感動して、家から顔を出して拍手をするのではないか。

しかし、そうはならなかった。


──曲が終わってもなお、街は静かだった。


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