14『音楽の街』
「ルイ、疲れたの。休みたいの」
「私も……。もうダメかも」
「頑張れ、もう少しだ」
「もう少しって……。何も見えないじゃん」
何の目的もなく歩いて数時間、もう足が棒だ。
これは一体いつまで続くのだろうか。
終わりさえ見えないのに。
今から数時間前。
寂れた街だ。
音楽の街というから、明るくて、音楽の溢れる街なのだとばかり思っていたが、どうやらそうでは無いらしい。
通りに人は誰一人としていないし、建ち並ぶ家にも生活感は全く無い。
「おかしいな」
ラリアンが、ボソッと呟く。
どうやらラリアンも私と同じことを考えていたらしい。
「音楽の街は他のどの街よりも明るい街だと、そう聞いていたんだ。なのにこれはまるで……」
廃れた街だ。
私が想像したその先を、ラリアンは口にしなかった。
どうしようか。この街に少し留まろうと思っていたのに、この様子では泊まるところもなさそうだ。
「どうする、ナツメ?次の街へはすぐだが、ここは諦めてそこに行くか?」
「ううん。もうちょっとここにいてみたい」
「そうか。じゃあ、この街のギルドを探そう」
さて、この街にギルドがあるのか。少し審議が必要かと思ったが、意外とすぐにギルドらしき建物は見つかった。
「お邪魔しまーす」
誰もいないようだ。
受付口にさえもいない。
「一旦出よっか」
さあ、困った。この街の手がかりが全く無い。
せめて宿屋があればいいのだが、ここまでの道でそのような看板の出た建物は無かった。
そのせいで私達は路頭に迷うことになった。
「駄目だ……。もう歩けない」
私は、足の痛みに耐えられず、思わず座ってしまった。
そこは噴水のある広場で、噴水から水は出ていなかったが、人がいたなら賑やかな場所であっただろう事が想像できる。
「ふう……」
ようやく念願の休息を得る事が出来、私は非常に満足したのだが、何故かラリアンは立ったままだ。
「お姉さんは座らないの?」
私と同じく、座っているルイが投げかける。
「ああ。一度座ると立てなくなるからな」
いや、お前も疲れとるんかい。と言うツッコミをどうにか脳内再生で留め、改めて誘う。
「そう言わずに、座ったら?今休憩しとかないともう出来ないかもよ?」
「しかしだな……」
全く、強情なやつだ。
私は呆れ半分、強情なラリアンの腕を引き、ルイとは反対側に座らせる。
「うわっ」
すると、案外すんなりと座り、もう立ち上がらなくなってしまった。
ラリアンはプルプルと体を震わせているがそれだけで、もう立ち上がろうとはしていない。
「ほら、ラリアンも疲れてたんじゃない」
「うっ」
「いいんだよ。恥ずかしがらなくて。どうせ、少し休憩したらまた歩くんでしょ?休憩しないともたないよ」
「そ、そうだな……」
ひとまずラリアンが納得したようなので、足の疲れが取れるまで足をブラブラさせて待つ。
しばらくそうしていると、何だか向こうから人が歩いてきているように見えた。
幻覚かもしれない。そう思って目をこするもその人は消えない。
それに、近づくにつれて形がはっきりとしていく。
どうやら、老人のようだ。
「やあ、旅人の方かな?」
何と、驚くことにその老人は話しかけてきた。
私は驚きつつも、逃す訳にもいかないのですぐに返事を返す。
「はい!ご老人は?」
「は、は。ご老人、ですか。すっかり私も老いましたな。私はこの街の者ですよ。旅の方は、この街にはどうして来られたのですか?」
「中央の街を目指してここに寄らせてもらったんです。けど、人は全然いないし、宿屋も無いしで……」
そこまで言うと老人は察したように言葉を続けた。
「困っておられるんですな。なら、私の所へ来てはどうですかな?うちは広くてですね、部屋も沢山余ってるんですよ。しばらくならお泊めすることも可能ですよ」
「わあ!是非、伺っても良いですか?」
「ええ、もちろん。どうぞ、こちらです」
そう促されて老人の後をついていく。
優しい人がいてくれて良かった。
それにしても、不思議だ。今まで人は全然いなかったのに今になって突然……。
「こちらですよ」
どうやら、もう着いてしまったようだ。
見ると、一人暮らしでは余してしまうのでは無いかと思うほどの一軒家がそこにはあった。
豪邸、と表現するにはまだ小さいが、並みの一軒家よりは大きいふうに見える。
中に入ると、よく掃除されているのか、全く汚らしさを感じないリビングが広がっていた。
「ここにはおひとりで?」
「ええ、そうです。家内も数年前に天に召されましてね」
「それは……、御愁傷様です」
「いえ」
そこで会話は途絶えてしまったが、私達は客間らしき部屋に誘導された。
ソファーに座り、一息つくと、老人が昼食を出してくれたのでそれを有難く頂く。
「どうですか?お話でも」
老人は、ほのかな笑みを浮かべた。
「あ、はい」
「……旅の方も気になったことがお有りでしょう?」
揃ってうなづくと、老人は顔の皺をより一層深くして続けた。
「この街は静かすぎる。そう、ここに来られた方は皆様仰られます。同じく、私も常々そう思っております。でも、それには理由があるのです。
そう、老人は遠い昔の事を思い出すかのように語り出した。
昔はこの街も、他の街に負けず劣らず、賑やかな街でした。いつでも音楽に溢れ、活気に溢れていました。
しかし、それはある者によって壊されてしまいます。
ええ、政府です。政府は私達の街を意味のないモノとして規制しました。
街に音楽を流す機器は取り除かれ、楽器も全て没収されました。
以後、街の者の活気は失われ、やがて誰も家から出なくなりました。
物音すら立てず、ひっそりと皆、暮らしているのです。
それから50年経ち、私も老いてしまいました。
もう、この街が活気を取り戻すことは無いでしょう。
少し長く話し過ぎてしまいましたね。これで話は終わりです」
「政府は、どうして規制してしまったのでしょうか?」
「さあ、事実関係は私にもよく分かりません。その時はまだ幼かったものですから」
そんなにも前から政府は厳しく街を取り締まっていたのか。
どうしてなのかは聞いてみないと分からない、か。
「それで、どうしてご老人は家から出てらっしゃったんですか?」
「ああ、日課なんですよ。毎日あの噴水の辺りを散歩しておりましてね。別に、家から出ないだけであって、出てはいけないと言う決まりはないんですよ」
「そうなんですか」
どうしようか。この老人に泊めてもらえる、と言われたとはいえ、この街で何もできないのだったら長くいる意味はない。
明日にでもこの街を出るか。
「ルイ、この街の人を助けたいの」
「え?」
ルイが突然、おかしな事を言い出した。
「ルイ、この街の人を元気にしたいの」
「ルイ、さっきまでの話を聞いていたのか?」
「そうだよ。無理だよ」
「でも……」
ルイは、一度に攻められたせいか、今にも泣きそうな顔をしている。
でも、言っている意味がよく分からない、としか言いようがない。
だって、無理なものは無理なのだ。私達に介入する隙はない。
「ルイ、私達は何もできないんだよ。政府の決めた事だもん。私達にはどうしようも無いの」
「でも、ルイは助けたいの。こんな寂しい街、嫌なの」
ルイは、下を向いたまま、そう言う。
ルイの意思はできるだけ尊重したいけれど、どうしようもない場合もあるのだ。
そういう事を、年上として教えてあげなければ。
そう思っていても……。
「どうしようか。ラリアンは、どうすればいいと思う?」
「ナツメ!?」
ルイには弱いのだ。
ラリアンはひどく驚いたような顔をしたが、私は笑って返す。
「やってみようよ。私も、街が寂れてるのは嫌だよ」
「そ、そうだな。ナツメがそう言うなら……」
そうして、この街に来てから約4時間、私達は寂れた街を救うこととなった。
「でも、どうするの?楽器や機器を取り戻すことは出来ないでしょ?」
私達はそのまま、老人を交えて客間で真面目に話し合いをしている。
老人は基本、私達の話し合いには参加してこないし、私達がこの街を助ける、と言っても黙ったままだった。
何か違和感を感じるが、今はそれどころじゃないので話を続ける。
「でも、楽器をもう一度作り直すことは可能なんじゃないのか?」
「あ、そっか」
ラリアンが最もな返答をする。
確かに、元が音楽の街なのだから、楽器を作る工場ぐらいはあるはずだし、ラリアンの創世魔法で作ることだって出来るはずだ。
「楽器工場はないんですか?」
老人に尋ねる。
「昔はありました。けれど、もう稼働していないので動くかは……。それに、資源ももう無いんです」
老人は寂しそうに言う。
そうか、それは枯渇問題だ。
肝心の資源がないのでは工場が動いても作る事は出来ない。
もう、ラリアンの魔法を頼るしかないか。
「ああ、やって見せるさ」
私の思考を読み取ったのか、ラリアンが突然、かっこいいセリフを放つ。
「よろしく!」
ルイも老人も理解しかねている様だったが、私達2人はそちらをよそにガッツポーズをし合った。
ところが、ラリアンが突然、耳を驚かす事を言ってきた。
「気合を入れたところ申し訳ないが、楽器ってどんな形をしているんだ?」




