12『夢から目覚めて』
「みんな、危ないっ!」
私は不吉な予感がして、みんなを守るためにカオスに近づいた。
──何の策もないくせに。
近づいた後、カオスの手の中で何かが閃いた。
その輝きが大きくなると、ひどい熱気が私の顔の近くの空気を焼いた。
「ナツメ!」
「お姉さん!」
「ナツメさん!」
「嬢ちゃん!」
──ああ、私は何て役立たずなんだろう。
「……はっ」
突然、目が覚めた。
朝の陽光が、私の寝ぼけ眼に直接差し込む。
今はこの暖かさでさえも息苦しい。
「お姉さん、起きた?」
「あ……」
横を見ると、心配そうに見つめるルイの顔があった。
「私……」
「大丈夫?汗がひどいの……」
言われて、布団から手を出し自分の頬を触ると、確かに少し汗ばんでいた。
悪い夢を見たせいだ。いや、あれは夢というより現実の回想のようなものか。
「大丈夫だよ。少し悪い夢を見ちゃって……」
「悪い夢ならルイも見たの!こうやって、お化けがブワーって!」
ルイは顔の前に両手をだらんとたらして少し舌を出す。
悪い夢のお化けだとは思えないほどの可愛い仕草だ。
「あは、それは怖いねえ」
「うん!怖かったの!」
ルイは、怖かったと言っている割には明るい笑顔をしている。
──本当に怖かったのだろうか……。
「あ、そんなことより、お姉ちゃん、行こ!」
「え?」
「朝ごはん!リナン姉が作って待ってるの!」
そう言いながらのルイに腕を引かれて部屋の外へ出る。
廊下には、ご飯のいい香りが漂っていた。
同時に、お腹が鳴る。
「リナン姉のご飯、めっちゃ美味しいんだよ!なの」
「楽しみー!」
私の心からの叫びと同時に、再びお腹が大きく鳴った。
「あの、私あの時、状況がよく掴めなかったのですが、あの人って何なんです?」
朝食を食べ終えて落ち着いてから、リナンに向かって話しを切り出す。
因みに、ラリアンとマスターは私用があるとかで今この場には居ない。
リナンは指先を軽く頰に当てると、口先を尖らせながら言った。
「あの人は、政府軍の一人だと思われます。あの強さからすると、恐らく幹部かと」
「幹部!?ってどういうことですか」
驚いてみたはいいものの、政府軍というのがどういうものなのかがよく分からない。
政府の軍隊であることは確かだろうが……。
「政府は、世界存続のために軍隊を置いています。あまり詳しい情報は存じませんが、最近は各街に赴いて調査を行なっているそうですよ。その調査というのが、その街が必要か否かを決めるものなんだとか」
「へえ。なんか、曖昧な立ち位置なんですね」
「そうなんですよね」
不意にルイの方を覗くと、つまらなさそうにジュースを飲んでいた。
確かに、子供にはつまらない内容かも……。
「でも、昨夜の人はなんか違った感じでしたよね?なんか、私を狙っているような……」
「ええ。私も驚きました。てっきり、ナツメさんは何か知っていると思ったのですが……」
「私がですか!?私は何も知りませんよ。だって私、この世界に来たばかりですし」
「そうですよね。何だったんでしょう……」
二人でうーんと唸る。
すると、その沈黙をルイが破った。
「そんなことより、ルイはもう旅に出たいの。旅に出たらきっと、そのことも分かるかもなの」
「ええ、もうですか!?」
「確かに、旅に出たら何か分かるかも……」
リナンが悲鳴をあげるのをよそに、ルイの意見に頷く。
「ちょっとナツメさん!?」
「ごめんなさい、リナンさん。私、折角この世界に来たから、早く色々みて回りたいんです。時間は有限ですし……」
それに、この街に止まったままだと迷惑をかけてしまうかもしれない。
「でも……」
「私は賛成だぞ。旅は出てなんぼだ」
突然、低音の女性の声がギルド内に響く。
「あ、ラリアン。おはよう」
「ああ」
──ああって何だ。
と思いつつ、背後に立つラリアンと、首を回して目を合わせる。
「魔女様も……」
「大丈夫だ。ナツメも、幼子も、私がついている。危険には及ばないさ」
「そうですけど……」
ラリアンに説得されつつも、リナンはまだ解せぬ顔をしている。
「私は、心配なんです。ルイはまだ子供ですし、ナツメさんはまだ慣れていません。もう少しここにいてからでも……」
「大丈夫だと言っているだろう。私の力を舐めてもらっちゃあ困るな」
「それは……」
確かに、ラリアンの力は偉大だった。
何もないところから物を生み出し、自在に操る。
他の誰にも真似出来ない芸当だ。
「リナンさん、私達、大丈夫ですよ。まだ私に関しては未熟と言わざるを得ませんが、ルイは頼もしいですし、いざとなったらつよーいラリアンもいます。心配ありませんよ」
「うー」
リナンはそのまま悩むような表情を続けていたが、しばらく経つと、思い切るように首を振った。
「分かりました。でも、こちらの条件は絶対に呑んでもらいますよ。いいですか?」
「はい。分かりました」
旅に出れるなら、条件なんてなんてことない。
私はそれなりの覚悟と意志を持って首を縦に大きく振った。




