11『守られるだけ』
「でもさあ、僕って人を出迎えるには、少し人数が少な過ぎやしないかい?この前は総動員で出迎えてくれたじゃないか。あ、もしかして、避難の準備してる感じ?それとも、もう寝てる?まあ仕方ないよね。もう夜だもん。まあいいや。僕は君がこの場にいれば十分だし」
カオスは早口でそうまくし立てた。
その言葉に対して、誰も何も発さない。
なんと返していいか分からない、というのもあるが、あのオーラと勢いに皆、圧倒されているのだ。
その沈黙を破るのは、同じく彼。
「君はいいよね。僕にはない特別な力を持っているんだ。全く、羨ましい限りだよ。あー、羨ましい羨ましい。奪いたいんだけど、さっき言った通り、そうもいかない。さあ、君達が来ないなら僕から行くよっ」
カオスは手を燃やしたかと思うと、いきなり私に突進してきた。
それにひどく驚いてしまい、私は動けない。
「……っ」
「せいっ」
私が息を詰めるのと同時にラリアンが腕を勢いよく振る。
なので思わず、突進してくるカオスを殴るのかと思いきや、そうではなく、その腕はラリアンの横、私の首のスレスレに、振られ止まった。
「わっ」
その指先に驚いたこともあるが、あとひとつ驚いたことがある。
私とカオスの間にレンガで出来た低めの壁が発現したのだ。
そのレンガの壁は突進してきていたカオスの拳を受け止め、ゴッと音を鳴らしてからその形を崩した。
「何!?」
「ナツメ、驚いている場合じゃないぞ。油断するな」
「ごめんっ」
一回の攻撃を防げたのはいいものの、まだ攻撃があるだろうことは私でも予想できる。
「お姉さんっ、フォス・アスピダ!」
「ふぉ、フォス・アスピダ!」
ルイに指示された通り、意味の分からないまま術式を叫ぶ。
すると、眼前に小さな光が出てきて密集し、不思議な形の障壁を生む。
「……っ!」
魔法は何度見ても不思議で、驚きが止まらない。
しかし、当たり前のように私以外の誰も驚いた様子は全くない。
「ふんっ」
カオスは鼻で笑うと、私を守っていた障壁をその拳であっけなく破った。
「わっ」
「ミキリ・スコタディ・トゥリイパー」
次はリナンの声だ。カオスの拳のすぐ前に黒い穴が発現するも、彼は腕を引っ込め、少し後ずさる。
「うーん。厄介だなあ。ねえ、一旦、僕とナツメくんだけにするってのはナシかなあ?」
「ダメだ。お前とナツメ、サシで戦わせる訳にはいかない。これで納得してくれ」
「まあ、分かってはいたよ。分かってはいたんだけどね……」
それから、カオスは愚痴のような言葉を続ける。
もうほとんど独り言のように喋っているので、私には聞き取れない──故にセリフとしても起こせない──。
そしてそれに呆気にとられるていると、カオスは不意に動き出した。
ふらふらふらふらとこちらに近寄ってくる。私もそれに合わせ、後退りする。
「……僕は君を殺さなくちゃいけないんだ……。……主の命令なんだ……。僕は君をっ……」
急に言葉が途切れたかと思うと、カオスは再び勢いよく拳を私に向かって突き出してきた。
なんとか反射で避けきり、次に予想される攻撃を避けられるようにカオスからなるべく距離を取る。
「ははは……。意外と反射神経いいんだね……」
「……」
言葉が途切れ途切れなので、疲れているのかと思ったのだが、そうでもないようにも見える。
狙った獲物は確実に捉える、とでもいうかのように、眼はギラギラと輝いているし、攻撃の軸はしっかりとしているからだ。
なぜそんな風に喋っているのかはよく分からない──わかる訳も無い──。
そんなことより、
──今のは危険だった。
ギリギリで避けれたのはいいものの、次あのように攻撃が来たらと思うと、背筋が凍りそうになる。
「お姉さん、ルイの手は離さないで、なの」
「あ、ごめん」
ルイは駆け足で私の方に近づいてきて、私の手を握りなおす。
先程の攻撃による回避でいつの間にか手を放してしまっていたようだ。
ルイの小さな手を再び感じながら、彼女に聞く。
「ルイ、なんか作戦ある?」
「うーん。まだ何にもわかんないの」
「そうだよね」
作戦は、ある程度相手のことを知ってから立てるものだ。
これだけ相手の情報が足りないと、攻略方法も分からない。
「ナツメ、一旦その場から離れろ。狙われているのはお前だけのようだしな」
「でも……」
「お前はこの世界に来たばかりだ。何も出来ないんだったら、守られるだけしていればいい。私はお前を守るために来たようなものだしな。それに、離れていてくれた方が守りやすい」
何故、私がこの世界に来たばかりだということを彼女は知っているのか。
そう疑問に思ったはものの、別の思いによってその疑問は掻き消えてしまった。
──そうだ。私はまだ何も出来ない。
でも、何かしたい。私のせいでこいつが襲ってきたのなら、余計だ。
何かないか。何か……。
「いいから、逃げろ。離れてるだけでもいいんだ。頼む」
「……」
言い返したくても、出来ない。
彼女の思いがその表情からもよく読み取れてしまうからだ。
──どうして、そんな顔をするの。
私は彼女のその切ない表情を見つめながら、黙り込む。
「頼むよ」
もう一度、彼女から声が掛かる。
これだけ頼まれて断る人が、どこにいようか。
──それに、私は意気地なしだ。
「……分かった」
私は少しずつ後ろへ歩きつつ、カオスの様子を眺める。
今は何故か静観しているようだが、またいつ攻撃してくるか分からない。
「ルイは……?」
「ルイは一番近くでお姉さんを守るの」
「ありがと……」
私は自分の情けなさに意気消沈しながらも、ルイと手を繋いだまま、その場を離れる。
それを確認したラリアンは、カオスの向かい側に立った。その背後にリナンやマスターも構える。
「迷惑かけてすいませんっ!」
離れながらも、彼らに声をかける。
彼らはこちらを振り向くと、苦笑いをした後真剣な表情に戻し、向き直った。
──格好いいな。私もあんな風になれたら……。
「お姉さん、ぼーっとしないで」
「あ、うん」
ルイに引っ張られながらも、私は戦闘から一時離脱した。




