2『原初の層』
『世界は、突然現れました。夜空を飾る星々と、様々な生き物たちとともに、原初の世界は出現したのです』
そんな声とともに、キラキラと輝く光たちが颯爽と現れ、色々なものを形作っていく。
それを見届けていた私は、感慨に包まれる。見せられているものの意味も、見せられているものが何かさえも分からないのに、ただそれに魅せられていた。
世界の創造は続く。
『世界には始め、人間はおりませんでした。神はおそらく、考える者の誕生を恐れたのでしょう。しかしそうにも関わらず、何故か魔女を生み出しました。魔女は魔法を使い、世界と共存します』
唐突に場面が移動し、見るものが宇宙空間から草原へと変わる。
それからみるみるうちに木が生え、生き物が生まれ、突如人の形を象った者が現れる。
血のような真っ赤な目をした魔女と呼ばれたその者は、風を生み出し雨を降らせて火を灯した。
『魔女は、ずっと一人でした。言葉は喋れるものの、考えることのない生き物では物足りません。そしてある日、人間を生み出しました』
一人でいた魔女が腕を大きく広げると、光が舞った。
光は人の形になり、やがて集落が生まれ、人間世界は形成される。
『魔女はしばらくの間、幸せに暮らしていました。しかしやがて人間世界が発展していくにつれて、人間たちはお互いに争い合うようになります』
──。
『魔女がいくら止めても、人間たちは争うことをやめようとはしませんでした。魔女は憎悪し、悲観し、不安になり、その争いを自ら終わらせてしまおうとします。しかし、人間は争いをやめませんでした。魔女も争いに巻き込まれたことにより、その右目を失います』
人間たちに揉みくちゃにされた魔女は、人間の刃に貫かれ、鮮血を迸らせる。
『魔女の悲しみは、世界に禍として残ります。そして魔女は人間を元に戻すことを諦め、再び独りになりました』
場面は移り変わり、紫色の大地で魔女は塔を建てる。
『魔女は、人間を生み出した自分を呪い、世界が生まれた記憶を無くしました。そして魔女が空白を生きる間に、新たな世界は創造されます』
──あっ。
視界は魔女からどんどん離れていき、やがて世界は移り変わる。
『原初の層は、ここで終わります。さあ、お目覚めください。私とはここでお別れですが、世界の層はまだまだ続きますよ。層が全て終わった時にあなたがどんな風になっているのか、今から楽しみですね』
聞き覚えのあるようなないような声が消えると、私は目を覚ました。
今までの景色はやはり夢だったらしい。
しかしどうにも──。
「夢だけど、夢じゃないみたい」
不思議な夢が心残りになりながらも、私は白い床に手をついて立ち上がった。
見回すと、先程までは無かったはずの階段が上に続いている。
その階段に近づきながら、私は呟いた。
「それにしても、変なところで目覚めちゃうだなんて。──魔女は、どうなっちゃったんだろ」
「もしかしてこれ、夢じゃない……?」
突如現れた階段を登った私は、また新たな部屋に辿り着いた。
それからまた意識を失い、『夢』を見た。
今度もまた不思議な夢だった上に、妙に夢じゃないようだった。
今度はあの声はしなかったが、また不思議な体験をしたのだ。
『僕らで、世界を創造しよう』
『私は世界なんてどうだっていいっ! 今生きているみんながこれ以上死なずにいられるならっ……!』
『ユーは、分かってない、だけなの。あの子の、気持ち。分かって、あげようと、してないのも、ユー、なんだよ』
『私はっ、平民だわ! だけれど、夢を見てしまった。平民でないような夢を見た。なら! 平民であり続けようとは、思わないわ!』
『星は、いつでもどこでも私たちを見てる。世界が変わっても、見てくれていると信じているから』
『愛してる! 今ここで死んでも! 私はあなたのそばで生き続ける! だから、殺して! あなたに殺されるのなら、私は──!』
夢の中の世界で観た、聞いた、映像、台詞が脳内で繰り返される。
知らない世界のはずなのに、知らない夢なはずなのに、懐かしい気配を感じた。
その気配が何なのか、私は遂に分かり得なかった。
「もう一回、階段を上れば、答えが見つかる……?」
これが、夢なのか夢ではないのか。
もう、考えることをやめてしまいたかった。




