第54小節
目覚めた。
目覚めたときそこが自分の部屋ではなく、ホテルの部屋でもないことがわかった。
そこは見知らぬ病院の大部屋で、わたしはベッドの上にいた。
ほかの3つのベッドは空いていた。
窓の外は真っ暗だった。
わたしは半身を起こして状況を把握しようとした。
だんだん思い出してきた。
演奏会の途中でわたしは意識をうしなった。
その事実にわたしは愕然とした。
そのときドアがあいて、母が入ってきた。
母を見た瞬間にわたしは泣きだしてしまった。
母は笑って、ベッドのわきの椅子に座った。
「ふうちゃんちょっと太ったわね」
と母はいった。
「太ってないよ」
とわたしは泣きながらいった。
「だって、アレルギーが出たんじゃないかって先生いってるわよ。気を抜いて何でもバクバク食べるからよ」
「バクバクは食べてないもん」
「何食べたかおぼえてる?」
「ううん」
「食べたことは食べたのね」
「食べた」
「じゃあ、それかもね」
「だってアレルギーなんかないもん。何か海の匂いがして、それからおかしくなったんだもん」
「その海の匂いがよくわからないって先生悩んでいたけど、食べ合わせが悪かった可能性もあるらしいから、そっちのほうかもね」
「そっちのほうだもん」
「とりあえずお薬が効いたんだからそういうことなのよ」
「そうだよ、そうそう」
わたしはそれからもしくしくと泣いていた。
母はうんうんとなぐさめてくれていた。
ひととおり感情の波が通りすぎるとわたしはようやく泣きやんだ。
「何時いま」
わたしは聞いた。
「3時すぎたところね」
「おとうさんは?」
「心配ないってわかって帰ったわ」
「車できたの?」
「そうよ」
「おとうさんだいじょうぶかな」
「途中サービスエリアで仮眠とるっていってたからだいじょうぶよ」
「ごめんね」
「いろいろはじめてのことが重なってストレスもあったのかもしれないわね。働くのはじめてだったから」
「まじめにやってたのよ」
「聞いた。支配人の方に」
「でも迷惑かけちゃった」
「そうね。つづけられる?」
「うん。つづけたい」
「うん。無理だけはしないでね。ふうちゃん、がんばりすぎてからだが追いついていかないことだってあるんだからね」
「うん」
「明日の演奏会は、ってもう今日ね。今日の演奏会は休んで下さいって、支配人の方が」
「そうしたほうがいいかな」
「そうしたほうがいいわね」
「うん」
母の微笑みは何よりも効くくすりだった。
いつでもどんなときでもそばにきてくれて、味方でいてくれる。
ストリングスのようにわたしをつつみ、ひきたてて、日々をスムーズにしてくれている。
わたしは安心したら、やはり母がいうようにからだが悲鳴をあげていたのか、ここ最近なかった眠気がおそってきた。




