第5話 結婚招待状と離縁届
「こちらと、こちらでは、どちらが幸福に見えるかしら」
モナが二枚の白い紙を並べた。
王都最大の婚礼店。その一階にある商談室には、朝の光が満ちている。
窓辺には白薔薇。
壁には金糸の刺繍。
机の向こうには、結婚を三か月後に控えた若い女性が座っていた。
「幸福に見える紙、ですか?」
女性は二枚を見比べた。
「ええ。結婚式の招待状は、内容より先に紙が届くでしょう。だから紙の方が、新郎新婦より先に幸福そうな顔をしなければいけないの」
モナは黒い喪服の胸元へ、白い花を一輪差している。
結婚を祝っているのか、死を悼んでいるのか。
客は少し迷った後、左の紙を選んだ。
「こちらでしょうか。光に当てると、真珠のように見えます」
「よい目をしているわ。王侯貴族の婚礼にも使われる最高級紙よ。少々お値段は張るけれど、夫婦喧嘩をしても招待状だけは捨てにくい」
「縁起がよいということですか?」
「紙が高いということよ」
モナは笑顔で注文票を開いた。
その一階の真下。
窓のない地下室では、リズが同じ紙へ離縁成立証明を書いていた。
《サラ・ヴォスとヴォス公爵との婚姻関係は、先行婚姻の確認により失効した》
紙の表面には、真珠のような光沢がある。
上の階では人を結ぶ招待状となり、地下では人を引き離す証明書となる。
使われるインクも同じだった。
「もっと安い紙ではいけませんか」
カイが尋ねた。
リズは文字を書きながら答える。
「公爵家の認証所へ提示する文書です。粗悪な紙では、偽造を疑われます」
「偽造した婚姻を根拠にした書類が、紙質のせいで偽造を疑われると?」
「そのとおりです」
「意味が分かりません」
「制度には分かります」
カイは返す言葉を探した。
その間に、彼の首元へ白いレースが当てられた。
「二番目の方が似合うな」
背後に立つ仕立屋が言った。
モナの一人目の元夫だった。
年齢はモナより少し上に見える。首に巻いた採寸紐と、耳に挟んだ針が、身体の一部のように馴染んでいた。
カイはレースを外した。
「なぜ私へ花婿用の襟を当てるのですか」
「上に客がいる。地下室から監査服の男が出てきたら怪しまれるだろう」
「だから花婿に見せる?」
「監査官よりは自然だ」
仕立屋は別のレース襟を持ち上げた。
「顎を上げろ」
「必要ありません」
「一番目より三番目だな」
「聞いていますか」
「首が長いから、幅が狭い方がいい」
カイの抵抗は、採寸上の意見として処理された。
地下室の中央には、王都の地図が広げられている。
公爵邸。
婚礼店。
西門。
河岸。
三つの道に、色の違う糸が張られていた。
サラは旅装へ着替え、地図の前に座っている。
昨日までの淡い水色のドレスではない。灰色の上着と、飾りのない長いスカート。袖の傷が見えないよう、右腕には厚い布が巻かれている。
隣ではノアが、店の徒弟用前掛けを着て紙を折っていた。
胸元には、昨日作った赤い結び目。
店と仕事道具だけが彼を認識する、細い所属の印だった。
「正門と北門には、公爵の私兵がいるでしょう」
サラが地図を見つめる。
「父の屋敷へ向かう街道にも、すでに人を出しているはずです」
「ご実家には向かわないわ」
一階で客へ微笑みながら、モナが答えた。
声は床に埋め込まれた伝声管を通り、地下へ届いている。
モナは上で婚礼相談をしながら、下では逃走計画を指揮していた。
「西門も使わない。花嫁が逃げるなら街道だけれど、元公爵夫人が逃げるなら川よ」
「川には水上検問があります」
リズが伝声管へ言う。
「船主へ話はついているわ」
「いつの間に?」
「二度目の結婚生活で」
地下室の奥から、大柄な男が手を上げた。
上着には潮の匂いが染みついている。
モナの二人目の元夫、船主だった。
「河岸までは婚礼用品の運搬馬車。そこから荷船へ乗せる」
船主は地図の青い糸を指でなぞった。
「検問所には、東部の式場へ花を運ぶと申告する。荷札も積荷も本物だ。夫人には花箱の裏へ入ってもらう」
サラが箱の大きさを見た。
「呼吸はできますか」
「花よりは長くもつ」
「比較対象が不安です」
カイが言った。
また別のレース襟を首へ当てられる。
「四番目だな」
仕立屋が呟く。
「二番目で決まったのでは」
「動いた時の見え方が違う」
「私は動いていません」
「だから分からない」
カイはレースを外そうとした。
仕立屋はその手を払い、襟の端へ待ち針を打った。
「証拠を扱う監査官が、首元を触るな。刺さるぞ」
「あなたが刺したのです」
「証拠は?」
カイが黙った。
リズは地図の上へ、もう一本の糸が置かれていることに気づいた。
白い糸。
婚礼店から南の教会を通り、河岸へ向かっている。
「この経路は?」
地下室の隅で、司祭服の男が手を挙げた。
モナの三人目の元夫だった。
柔らかな笑みを浮かべているが、片手には酒瓶、もう片手には聖印がある。
「私の担当です」
「逃走に教会を使うのですか」
カイの声が硬くなる。
「違法な通行証へ聖印を押すなら止めます」
「押しませんよ」
司祭は心外そうに言った。
「サラ夫人は現在、婚姻関係を失った直後です。教会法上、心身の保護を申し出る権利がある。私が作るのは、正規の一時保護申請です」
「申請先は?」
「私の教会です」
「申請の審査者は?」
「私です」
「利益相反では」
「神は異議を述べておられません」
「神の返答を証拠として提出してください」
司祭は酒瓶を持ち上げた。
「今夜、訊いておきます」
カイは額を押さえた。
「証拠隠滅は認めません。虚偽の通行証も、文書の破棄も、監査院への報告妨害もです」
「もちろんよ」
伝声管からモナの明るい声がした。
一階では、客が招待状の文面を選んでいるらしい。
「新婦側のお名前を先に置く形式と、新郎側を先に置く形式がございます。どちらになさいます?」
「彼の家が伝統を重んじるので、新郎側からお願いします」
「承知しました。船は西の河岸から第三水門へ。検問が入ったら二度鐘を鳴らして」
地下の船主が頷いた。
客は気づかない。
「封筒の内側には花模様を入れられますか?」
「もちろん。薔薇、百合、蔦模様からお選びいただけます。司祭は南教会で保護申請を受理して。原本は教会に残し、副本だけ夫人へ渡すこと」
司祭が酒瓶を置き、帳面へ書きつける。
「金の縁取りもお願いできます?」
「追加料金で承ります。仕立屋は夫人の上着の裏へ身分証を縫い込んで。外から触って分かる厚さにしないでね」
仕立屋はカイの首から五番目のレース襟を外し、サラの上着を手に取った。
モナの声は、最初から最後まで変わらない。
犯罪計画も追加料金も、同じ接客口調だった。
「招待状は何枚になさいますか?」
「百二十枚です」
「逃走に同行する人数は?」
「三人です」
サラが答えた。
一階の客が、怪訝そうに訊き返す声がした。
「三人?」
一瞬、地下室が静まった。
伝声管は、一階と地下をつないでいる。
モナが上の客へ話したのか、地下へ話したのか。
「試し刷りが三枚です」
モナは一拍も置かず答えた。
「百二十枚に加えて、色味の異なる試し刷りを三枚お付けします」
「ああ、そういうことでしたか」
「ええ。人生を変える紙ですから、念入りに選びませんと」
地下室で、カイが伝声管を睨んだ。
「今の運用は危険です」
「無料の改善提案は受け付けていないわ」
「監査上の指摘です」
「では書面でお願い」
「その書面が証拠になるでしょう」
「だからお願いしているの」
カイは反論しながら、六番目のレース襟を当てられた。
*
招待状の試し刷りが完成したのは、昼前だった。
真珠のような白い紙に、金の文字。
百二十枚の招待状は、白い薄紙で包まれ、銀の紐をかけられた。
同じ頃、地下ではサラの書類も完成していた。
離縁成立証明。
教会への一時保護申請。
使用人に対する処罰命令を無効化するための異議申立書。
サラ本人の財産目録。
逃走先を特定されないよう、地名の記載は最小限にした。
それらも同じ白い薄紙で包まれ、銀の紐をかけられた。
二つの包みは、大きさまでほとんど同じだった。
「なぜ同じ包装にしたのですか」
カイが尋ねた。
首には、最終的に七番目のレース襟が残っている。
本人は外したつもりだったが、仕立屋が後ろで留め直していた。
「婚礼店だからよ」
モナが地下へ降りてきた。
「店から出る品物が、茶色い事務袋に入っていたら不自然でしょう」
「区別できる印を」
「付けてあるわ」
モナは二つの包みを指した。
一方の銀紐は、完全な左右対称の蝶結び。
もう一方には、片側を引けばすぐにほどける小さな輪が隠れている。
ノアが作った結び目だった。
「こちらがサラ夫人の書類です」
ノアが、ほどける方を指した。
「急いで出す時に、紐を切らなくていいようにしました」
「よくできました」
モナが言う。
「結婚招待状も、それくらい簡単にほどけた方がよいのでは」
カイが言った。
「招待状は簡単にほどける必要がないの。結婚生活と同じよ」
「あなたは四度ほどいていますね」
「だから紐に詳しいの」
階段の上から、店員が顔を出した。
「奥様。お客様がお帰りです。お包みを」
「ノア、招待状を上へ」
モナが命じる。
同時に、船主が地下室の扉を開いた。
「運搬馬車が着いた。夫人の書類を先に積むぞ」
「リズ、逃走用の包みを船主へ」
二つの包みが、同時に持ち上げられた。
ノアが右から。
リズが左から。
階段前で、収容院から派遣されていた事務官が通路を空けるため、木箱を動かした。
木箱の角がリズの腕へ当たる。
二つの包みが宙で触れた。
銀紐が絡む。
リズは一方を掴んだ。
ノアももう一方を抱える。
「こちらです」
ノアが包みを交換しようとする。
「私が持っている方が離縁書類です」
「違います」
「結び目を確認しました」
「それは招待状です」
「左右対称ではありません」
「上から見れば同じです。でも、ここの輪が――」
階段の上から、客の声がした。
「何か問題でしょうか?」
リズとノアの動きが止まった。
若い女性が店員の後ろから階段を覗き込んでいる。
注文を終えたはずの、招待状の客だった。
視線がリズへ。
次にノア。
そして白いレース襟をつけたカイへ移る。
女性の表情が変わった。
「カイ監査官?」
カイも相手を見た。
「監査院の方ですか」
「記録管理室で働いております。昨日、局内でお見かけしたばかりなので」
女性はカイの監査服を見る。
その上に、不釣り合いな花婿用レース襟。
次に、リズが持つ包みへ目を向けた。
「こちらで何を?」
「証拠の――」
カイが答えかける。
モナが前へ出た。
「婚礼衣装のご相談よ」
「監査官が?」
「監査官も結婚するわ」
「しません」
カイが即答した。
女性の眉が上がる。
モナはカイの袖をつねった。
「恥ずかしがっているの」
「事実を訂正しています」
「婚約者の方は、そちらの戸籍官ですか?」
女性がリズを見る。
収容院で聞かれた言葉が、頭をよぎる。
こちらはご家族ですか。
あの時、リズとカイは同時に否定し、別々の親族関係を名乗った。
今回は親族ではなく、婚約者に見られている。
「違います」
リズとカイは同時に答えた。
声が揃った。
女性は、ますます不思議そうな顔をした。
「では、なぜお二人で地下の試着室に?」
「私は書類を届けに」
「私は証拠保全のために」
答えは揃わなかった。
モナが笑顔のまま二人の前へ立つ。
「ご安心ください。お客様の招待状はこちらです」
モナはノアの持っていた包みへ手を伸ばした。
ノアが一歩引いた。
「そちらは違います」
リズが抱えている方を指す。
「今、入れ替わりました」
客の顔から、婚礼相談中の柔らかさが消えた。
監査院職員の目になる。
「包みが入れ替わったのですか?」
「中身は確認します」
カイが言った。
「ここで開封を」
リズは止めようとした。
サラの離縁書類を監査院職員の前で開けば、リズとモナのつながりだけでなく、逃走計画まで疑われる。
だが、招待状へ犯罪書類が混ざる可能性を残したまま客へ渡すこともできない。
カイは二つの包みを机へ置いた。
「結び目で区別しているのですね」
「はい」
ノアが前へ出る。
「招待状は、両側を引いてもほどけません。もう一つは、右の輪を引けば開きます」
「どちらですか」
ノアは迷わず、リズが持っていた包みを指した。
カイが右側の輪を引く。
銀紐が一息にほどけた。
白い薄紙の間から、《離縁成立証明》の文字が覗く。
リズは息を止めた。
監査院の女性からは、カイの身体が壁になって見えていない。
カイはすぐに紙を伏せ、包み直した。
もう一方の紐は、左右を引いても締まるだけだった。
開封すると、金文字の招待状が現れる。
女性は一枚を手に取った。
自分と婚約者の名前を確認する。
「間違いありません」
「ご不安を与えてしまい、申し訳ございません」
モナが深く頭を下げる。
「お詫びに封筒の内張りを無料で最高級へ変更いたします」
「いえ、そこまでは」
「招待状は、一生に一度かもしれない品ですから」
モナは微笑んだ。
自分は四回作ったことを、一言も付け加えなかった。
女性は招待状の包みを受け取った。
店を出る直前、もう一度地下室を振り返る。
リズ。
ノア。
花婿用のレース襟をつけたカイ。
そして、カイが急いで伏せたもう一つの白い包み。
彼女は何も尋ねずに帰った。
紙の取り違えは起きなかった。
証拠も渡らなかった。
だが、監査院の記録管理職員は見た。
婚姻原本偽造を報告したばかりのカイが、モナの婚礼店の地下にいたこと。
リズと一緒に、招待状ではない白い書類を隠したこと。
後に訊かれれば、正確に証言できる人物が一人増えた。
「追いかけますか」
リズが尋ねた。
カイは女性が出ていった扉を見た。
「何のために?」
「今日見たことを、忘れてもらうためです」
「それを証拠隠滅と呼びます」
「口止め料を払うだけなら」
「買収です」
「記憶違いだと説明を」
「偽証の教唆になります」
リズは黙った。
モナは満足そうに頷く。
「よい監査官ね。結婚するなら、このくらい融通が利かない方が財産を守れるわ」
「しません」
カイはレース襟を外した。
今度こそ床へ置く。
仕立屋が拾い、再び彼の首へ当てた。
「外した時の形も見たかった」
「もう帰ってください」
「私の店ではない」
*
サラの逃走馬車は、正午を少し過ぎて婚礼店の裏口を出た。
側面にはモナの店名。
荷台には白薔薇、百合、布、箱詰めの食器。
誰が見ても、式場へ向かう婚礼用品の運搬馬車だった。
御者台には船主。
隣には仕立屋。
司祭は教会で保護申請を受理するため、別の道から先回りしている。
サラは荷台の奥に作られた空間へ入り、その隣にリズが座った。
ノアも行くと言ったが、職能限定仮登録では店の敷地外へ出られない。
店の扉は、ノアを徒弟として認識する。
だが都市門も、河岸も、荷船も、まだ彼を人として数えない。
「必ず戻ります」
サラはノアの手を握った。
「あなたの正式な戸籍を作る方法を探します」
ノアは少し迷った後、首を振った。
「奥様が決めないでください」
サラの顔が止まる。
「僕も、どういう名前で登録されたいか考えます」
昨日までなら、サラが保護者として彼の身分を決めていた。
それは必要なことだった。
それでもノアは、初めて得た自分の仕事場で、自分の名を自分で選ぶと言った。
サラは手を離さなかった。
ただ、握る力を弱めた。
「分かりました」
「まだ、分かっていないと思います」
ノアが言う。
サラはわずかに笑った。
「では、分かるまで待ちます」
馬車の扉が閉じた。
リズは暗い荷台の中で、白い書類の包みを膝へ置いた。
カイは店に残った。
監査院の事情聴取を受けるためだ。
逃走へ同行すれば、彼が報告した犯罪とサラの移動を直接結びつけることになる。
彼は最後まで反対した。
証拠を燃やすな。
経路を偽るな。
公的な保護申請の原本を残せ。
そして、危険があれば逃げずに止まれ。
最後の指示だけは、リズには守れそうになかった。
馬車が進む。
大通りを避け、婚礼店の仕入れ道を使う。
公爵の私兵を乗せた馬が、遠くの交差点を通り過ぎた。
こちらへは目を向けない。
花を積んだ婚礼馬車へ、逃亡中の公爵夫人が乗っているとは考えなかったらしい。
第一の角を曲がる。
第二の検問を通る。
荷札は本物。
積荷も本物。
嘘なのは、花の奥に人がいることだけだった。
「このまま河岸まで行けます」
サラが囁く。
声には、期待より恐怖が強い。
逃げられると思った瞬間ほど、人は捕まった時を想像する。
リズは白い包みへ手を置いた。
「河岸で船へ移れば、公爵の命令は届きにくくなります」
「届かなくなる、ではないのですね」
「記録上は、まだそこまで保証できません」
馬車が南教会の前へ差しかかった。
ここで司祭の保護申請を受け取り、そのまま河岸へ向かう予定だった。
教会の鐘が一度鳴る。
船主が手綱を緩めた。
道の中央に、人が立っていた。
灰色の教会書記服。
胸には正式な婚姻記録を扱う者だけが着ける銀の筆章。
私兵ではない。
公爵家の使用人でもない。
その男が掲げているのは、教会の《婚姻関係確認命令》だった。
魔法を帯びた紙が光り、馬車の車輪へ命令を伝える。
《停止》。
車輪が石畳へ固定された。
馬が驚いて前脚を上げる。
船主が手綱を引いた。
荷台の箱が揺れ、白薔薇が床へ落ちる。
サラの顔から血の気が引いた。
「公爵の人ですか」
リズは答えなかった。
男の声を知っていた。
法の矛盾を訴えるたび、静かに聞いてくれた声。
リズの考えが正しいことを認めた後、必ず規則の側へ戻っていった声。
馬車の外から、男が告げる。
「教会婚姻局です。サラ・ヴォス夫人の移送を停止してください」
船主が荷台を振り返った。
「知り合いか」
リズは膝の上の書類を握った。
白い紙の端が、指の中で歪んだ。
教会婚姻書記セド。
かつてリズと結婚するはずだった男が、馬車の正面に立っていた。
「リズ」
セドは荷台の壁越しに、そこにいるはずのない彼女の名を呼んだ。
「君が正しいのかもしれない」
昔と同じ言葉だった。
リズは、その次に何が続くかを知っていた。
「でも、この婚姻は教会が確認する」
停止命令の光が強くなる。
「サラ夫人を、公爵邸へ戻してもらう」
第5話をお読みいただき、ありがとうございます。
結婚を知らせる招待状と、婚姻から逃れるための書類。まったく反対の役割を持つ二つの包みは、同じ高級紙と銀の紐で作られていました。取り違えは防げましたが、監査院へつながる新たな目撃者が残っています。
そして、サラの馬車を止めたのはヴォス公爵の私兵ではなく、リズの過去を知る教会婚姻書記セドでした。正しいと認めながら、最後には必ず安全な規則を選ぶ男を前に、偽造した記録を真実として守り抜けるのでしょうか。
次話では、存在しない先妻の記録と、ヴォス公爵本人の「先妻などいない」という真実の宣誓が正面から衝突します。真実を語ったはずの公爵を、リズの嘘が《聖印偽証》へ変える時、カイは彼女が越えた新たな一線を目撃します。
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