そして、わたし達の音は響き続ける 第14話
体感では一時間、実際には二分もしていないだろうけど頭を抱えてうなだれていた。
涙まで出そうになったけど、どうにかこらえて顔を上げると叉音ちゃんが心底心配そうな顔をしながらおどおどとしていたので、作り笑顔で安心させようとしたけど口角を上げるので精一杯だった。
「勘違いさせるような事言ってごめんなさい」
「いやいや、勝手に勘違いしたわたしが悪いから気にしないでいいよ」
とは言ってみたけど、そもそもいつもの叉音ちゃんならあんなに唐突に「好き」なんて言うイメージが無いし、そのせいで勘違いをしてしまったから腑に落ちずモヤモヤとしている。
「『好き』って言ってくれたのは嬉しかったけど急にどうしたの?」
「前に、響の家に初めて行ったときに響に『わたしのこと好きでしょ?』って聞かれて、本当は好きだったのに恥ずかしくて答えられなかったのがずっと気になってたから……本当にごめんなさい」
「ああ、そっか……」
そういえばそんなやりとりをしたような記憶がある。
あの時はわたしに他のバンドに出てほしくないと言ってくれた叉音ちゃんがかわいくて、ちょっと困らせてみたくなったから言ったんだけどまさかそれが自分に返ってくるとは……
叉音ちゃんが「好き」と言ってくれた理由は分かったけど、意図せず一世一代の告白をしてしまったわたしの心はいまだに荒れ狂っていて、だけどここでいきなり話題を変えるとあまりにも露骨だし、かと言って深掘りすれば致命傷を負いそうだった。
そんな状況で半ば自暴自棄になったわたしは、内心ではお門違いとは分かっていたけど叉音ちゃんに八つ当たりをしてしまった。
「叉音ちゃん、わたしのどこが好きなの?」
「えっ?」
「せっかく好きって言ってくれたんだから教えてよ」
叉音ちゃんはまた恥ずかしそうにもじもじとして黙ってしまっているけど、わたしのジトッとした視線に耐えられなくなったのか答えてくれた。
「や、優しいくて私がしたい事に付き合ってくれるところ」
「他には?」
「えっと…学校とかクラスの人の事とかちゃんと見てて話してくれるところと、最近の曲も知ってるし背が高くて大人っぽくてギターが似合ってて歌も上手、私が弾くといっぱい褒めてくれる、あと……匂い」
「匂い?」
「うん、響の匂いがするとなんか安心する。落ち着く」
言い終えないうちに叉音ちゃんは口元を手で隠したからどんな表情かは分からなかったけど、すごく恥ずかしがっているのは伝わった。
歌が上手いとかギターが似合ってるとかは友達にも言われたことがあるけど、匂いが好きなんてのは初めて言われた。
わたしの匂い……ってどんなのなんだろう?
服の袖の辺りを嗅いでみたけど自分の匂いなんか分かるはずもなく、何も感じ取れなかった。
「洗剤とか柔軟剤の匂い?」
「ちょっとお花っぽいかも、響の部屋に行ったときに同じ匂いがした」
匂い自体にはピンと来ないけど「安心する」とも言ってくれているから好きなのは本当なんだろう。
「匂いねぇ……」
叉音ちゃんはわたしの八つ当たりに対してちゃんと”告白”をしてくれた。だからお礼になるかは分からないけどわたしなりの感謝の気持ちを示してあげたかった。
「叉音ちゃん叉音ちゃん」
名前を呼びながら両腕を広げて見せる。
叉音ちゃんはこのポーズどういう意味なのか分かっていない様子だったので腕を広げたまま手を動かし「おいでおいで」をするとやっと理解してくれ、ちょっと驚いた顔をされたけれど、めげずにそのままでいると恐る恐るとわたしの胸に飛び込んでくれたので腕を背中に回して抱き寄せた。




