そして、わたし達の音は響き続ける 第13話
「……そうだったんだ」
わたしが露骨にしょんぼりしてしまったせいだろう。
叉音ちゃんまた頭を横に振りながらさらに身を乗り出した。
「でも私のギターを褒めてくれて、カントリーにも興味持ってくれた。だから───」
一一瞬言葉に詰まって視線が下を向いたけど、意を決しようにすぐまたこちらを、それも前のめりになりながら真剣な表情で見つめられた。
「だから響の事が好き、一緒に居ると一番安心できる、ずっと一緒に居てほしい。そんな風に思えた人は響が初めて……今まで言えなくてごめん」
一気に言い切った叉音ちゃんは潤んだ瞳と真っ赤になった顔をまた両手で覆って隠し、乗り出していた体を引っ込めるとわたしに背を向けるようにうずくまってしまった。
一方で、わたしはそのあまりにも衝撃的な言葉が頭のてっぺんから足先に抜け落ち、目も指の一本も動かせなくなっていた。
どうにか友達として好きなんだろうと思おうとしたけど、耳まで真っ赤にされて「響が初めて」なんて言われてしまったらもう”そういう意味”で言ってくれたとしか思えない。
叉音ちゃんか……
ぼやけそうになる視界でどうにか叉音ちゃんを捉える。
わたしくらいとしか人付き合いをしていなくて、わたしが他の人とライブをするのを見たくないなんて理由で学祭ステージに出るを決めてくれて、ギターもフィドルもバンジョーも凄く上手くて小さい体からは想像できないパワフルな演奏をいつもしてくれる、性格はおとなしいけど素直で凄くいい子。
そんな子がわたしの事を「好き」と言ってくれた。
そういえば中学三年の冬、同じ学年でずっと別のクラスの男子に告白されたんだった。
話した事はなかったし、男女の付き合いというのにも興味が持てなかったから友達に相談して考えて貰った無難な言葉でどうにか断ったんだった。
今までの人生でわたし自身が経験した色恋沙汰はこれが最初で最後だったせいでこんな時に思い出してしまったけど、今回は全然違う。
叉音ちゃんの事は大切な友達だと思っていて、付き合うなんて考えたことも無かった。
なにより───
女の子同士で付き合うんだよね?
そう考えた瞬間、叉音ちゃんの柔らかそうなほっぺたと白い首筋、後ろで結んだ髪の下のうなじに目が行き、温かい手のひらの感触を思い出した。
苦手そうだったからボディタッチみたいなスキンシップはしないようにしてたけど、本当はわたしも学祭の時の陽葵のように抱きついたりしてみたかった。
叉音ちゃんと「付き合う」というのがどこまでを指すのかは分からないけど、学校でお昼ご飯を食べる時やここでこうしてふたりで過ごしているのは居心地がいいしずっと一緒にい居たいと思っていて、その上このちっちゃい体を抱きしめてツルツルの黒髪を触ることも、ほっぺたに頬ずりすることも出来るというなら迷っている理由が無いような気がした。
二、三度声を発しようとしたけど空気が抜けるだけで音にならず、思い切りお腹に力を入れるとどうにか震えながらも声が出たので、それで真っ白になった頭で考えた言葉を紡いだ。
「わたしも……叉音ちゃんの事好きだよ。一緒にいると楽しいしギターとかが上手で弾いてるところもすごくかっこいい」
本当は一気に言い切ってしまいたかってけど、いっぱいいっぱいで息継ぎするのを忘れていたのでここで深呼吸をした。
「あと……かわいいとも思ってるよ。わたし、男の人と付き合ったことなんか無いし、女の子となんてどういう風にすればいいのか知らないけど、叉音ちゃんとなら……いいよ」
意気地無しなわたしはずっと下を向いたままで叉音ちゃんの告白に答え、返事が来るのを目をつむって待っていたけど一向に返ってこない。
どうしたんだろう?と不安になって、顔を上げると叉音ちゃんはさっきよりも顔を赤くして目を見開き固まっていた。
目が合い、三回口をパクパクと動かすと───
「ち、違うよ!」
「……えっ?」
「わ、私が好きって言ったのは付き合うとかじゃなくて、その……」
段々と声がか細くなり、最後は言ったのか言わないのか分からなかったけど、何を言おうとしているのかは分かった。
やはり叉音ちゃんは「友達として好き」と思って告白してくれていた。それなのにわたしは舞い上がって勘違いしたのだ。
それに気が付いた瞬間、さっきまでとは全く別の羞恥心が襲いかかってきた。
顔は火を噴いたように熱くなり、血の気は引きこんなに寒々しいのに背中には冷や汗が湧き出し、天地がひっくり返ったように頭の中がぐるぐると回る感覚がした。
「あ、あーーーっ!」
穴があったら入りたいどころかいっそ死んでしまいたかったけど、そんな大それたことは出来ないので頭を抱えて叫ぶしかなかった。




