そして、わたし達の音は響き続ける 第11話
肩が当たっているだけなのに凄く温かい気がしたし、さらにお茶を飲んでいたおかげで体の中からぽかぽかと暖まりいつの間にかうたた寝してしまっていて、気が付くと膝に叉音ちゃんのドテラが掛けられていた。
叉音ちゃんがどこかに行ってしまったんじゃないかと思い、隣を見ると変わらず
座っていたけど、スマホを凝視したまま固まっていた。
「どしたの?」
寝ぼけ眼をこすりながら声を掛けると驚いた様子で目を見開き、いつもの色白な顔色が白を通り越して青くなっていた。
「こ、これ…」
恐る恐る差し出されたスマホを受け取って画面を見ると、この前投稿した動画のページが開かれていて、再生数に目を落とすと四桁の数字が並んでいて一瞬で目が覚めた。
「いちじゅうひゃく……」
ご、5932回再生……
一番再生されたわたしの動画でも九百回にどうにか届いた程度、初めて見る数字
にめまいを起こしそうになった。
「ど、どうしよう……」
すがるような、今にも泣き出しそうな初めて見る叉音ちゃんの表情に促され、背中を冷や汗が伝うのを感じながらてどうしてこんなことになっているのか、お願いだからなんかやらかして炎上していないでくれと願いながら恐る恐るとコメント欄を見ると全部英語の書き込みで、赤点手前の英語力を駆使して読んでみると演奏を褒め称えるものばかりのようだった。
とりあえず炎上したわけではなさそうだったから安心した。
「みんな褒めてくれてるみたいだよ」
しかめたような表情を少し緩めてくれたのでわたしの方も安心した。
ところで、こんなに初投稿の動画がバズった訳なのだけど、後日知った所によると叉音ちゃんが昔投稿した動画は実は海外フォーラムで転載されてちょっとした話題になっていたそうで、そこへ新しい動画を投稿したのでこんなことになってしまったそうだ。
そんな事とはつゆ知らず、青天の霹靂の再生数となった動画を叉音ちゃんがソファーの上で体育座りのような格好でスマホを見ていて、その隣でわたしも自分のスマホで確認していると再生数はいつの間にか六千回を超えていて、コメントも百件に届きそうだった。
詳細なニュアンスまではわからないけどみんな褒めてくれていて、相手は遠く離れた海外の人たちでたぶん言葉もほとんど通じない人たち、だけど音楽なら通じて感動させることができている。
”音楽は国境を越える”なんて月並みでよく聞く言葉だったけど、今まさにそれが目の前で起こっていて、撮影と編集を手伝ったのもあって何だか感動してしまい、目が潤む感覚がしていた。
涙がこぼれないように指先で目頭を拭っていたら叉音ちゃんの方はどんな様子なのかが気になり、横を見るとまだ画面を眺めていて呆然としていたから「凄いね」とでも声を掛けようとした瞬間、べっ甲めがねの向こうにある瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちた。
わたしはもちろん、叉音ちゃん本人も驚いていて、慌ててメガネを外して顔を手で覆いながら背中を丸めて隠したけど、今度はくぐもった嗚咽が聞こえてきた。
ここで颯爽と気の利いた言葉をかられればよかったのだけど、あいにくそんな度量も頭の回転も無かったからただただ震える背中を撫でてあげることしかできなかった。




