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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第7章 そして、わたし達の音は響き続ける
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そして、わたし達の音は響き続ける 第10話

 動画撮影から二週間が経ち、わたしが編集した動画は叉音ちゃん本人が作ったチャンネル『ブルーグラス・ブルーム』に投稿したけれど、再生数は全く伸びず今はたしか三十回くらい、そしてその半分はわたしが回している。


 最初ならこんなものだろうけど、ここで数字が伸びずに心が折れてしまうのももったいないからSNSをやるか、せめてわたしのSNSかチャンネルで紹介しようかと持ちかけたけど、どちらも断られてしまった。

 理由は話してくれなかったしあえて聞かなかったけど、自分の力で知ってもらいたいんじゃないかと勝手に考えていた。


 とはいえ、このまま待っていても再生数が伸びることもまず無いだろうから、次はどんな曲を演奏するのか相談するために日曜日のお昼過ぎに叉音ちゃんの家に遊びに行った。




 今日は特に何も持ってこなかったから久しぶりに自転車をえっちらおっちらと漕いでいき、コートに手袋にマフラー子にと完全防備をしたおかげで寒さはあまり感じなかったけれど、肺に吸い込んだ空気は寒々と澄み切っていて、先々週はまだまばらに残っていた街路樹は葉が落ちきった枝ばかりで季節が完全に冬に移り変わったのを感じた。


 門の前で自転車を降り、手で押しながらくぐると今日は納屋からフィドルの音が漏れ聞こえてきた。


「オレンジブロッサムスペシャルだ」


 何度か動画を見たし一緒に弾いて、フィドルの曲では一番気に入った曲だったから名前まで覚えてしまった。


 一瞬また裏手から覗き見しようかとも考えたけど、この前やったばかりだから自重して一人で引き戸開けて防音室にお邪魔すると、叉音ちゃんが不思議な格好でフィドルを弾いていた。

 ギターの背面弾きのように左手でフィドルのネックを持って右手に弓を持ち、頭の後ろで弾いていて、その格好だけでも驚くのだけどそんな曲芸じみた弾き方なのに外から聴いてまったく違和感がなかったことに改めて驚かされた。


「凄いねー」


 演奏が終わるのを待ち、声を掛けると弾くのに夢中でこちらに気が付いていなかったようで、一瞬目を丸くして急いでフィドルを持ち直したけど、既にじっくり見

てしまっていたからもう遅い。


「……こういう弾き方してる動画があったからマネしてみた」


 さすが叉音ちゃん




 今日は次の動画の曲の相談に来たのだけれど、そんな気はなってしまった。

 と、言うのも湯飲みと急須と一緒に二人分の分のドテラを持ってきてくれ、着替えると石油ストーブに乗せていたヤカンのお湯でお茶をいれてくれた上に隣でフィドルを弾いてくれている。


 しかも今日の曲はいつもと趣向を変えてジムノペディ第一番、穏やかで叙情的な雰囲気に包まれながらお茶を飲んでいたら何もやる気が起きなくなっていた。


「こういう曲も弾くんだね」

「叔母さんに練習させられてるから」

「なるほどねぇ、いやーわたしも弾いたなぁ…」

「…ギターで?」

「ピアノピアノ、発表会の曲で練習させられたんだよね」

「ああ、そっか」


 ピアノをやる気が無くなり始めた時期だったから、ただただキツかった思い出しかなくてそのせいで正直嫌いな曲だとさえ思っていたけど、こうして聴くと叉音ちゃんが弾いてくれているのもあって改めていい曲だと思い直せた。


 ドテラに身を包んで温かいお茶を飲んでいるけれど隙間が多くて広い納屋はストーブがついているのに寒々しい、でもそれさえこの居心地のいい雰囲気を構成している一部に思えた。


「ありがと、凄く良かったよ」


 叉音ちゃんはジムノペディを弾き終えるとフィドルを片付けて隣に座り直したので、わたしは座ったままおしりをずらして肩をくっつけた。

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