そして、わたし達の音は響き続ける 第3話
バスの座席があまり広くない上にコートで着ぶくれしていたからに押しくらまんじゅうさながらぎゅうぎゅうになりながら叉音ちゃんと座り、電車で周りに笑われていなかったかを確認したら「気がつかなかったよ」と、言ってくれ少し安心した。
バスが出て三十分くらいすると海が見えてきた。まあ、白波が立ち灰色でおまけに曇り空の寒々しい冬の景色だった。
こんなのでも久しぶりの海なので窓際に座る叉音ちゃん越しにわくわくしながら眺めていたら表情に出ていたようで「楽しそう」と笑われてしまったけど、そう言う叉音ちゃんの表情もどこか楽しげだった。
これから来る冬休みにしたいことを話していたらバスは水族館の目の前に到着したのだけれど場所が堤防の上で、海は目と鼻の先にあって思っていた以上に海風が強くて寒い、どうせ室内だからとあまり着込んでこなかったのが悔やまれ、暖かそうな帽子まで被ってモコモコとした格好の叉音ちゃんがうらやましかった。
「叉音ちゃんって寒いの苦手?」
「暑いのよりは平気だけど、別に好きじゃない」
つまりこれは……どっちなんだろう?
「えっと、わたしは夏の方が好きかな」
「夏は日に焼けるし、冬は納屋が凄く寒い」
「あー、なるほど」
それぞれ嫌いな所があるけど冬の方がまだマシってことか、たしかにあの納屋は隙間風だらけだったから冬は寒くて大変そうだったけど、夏の暑さはエアコンや扇風機でもどうにもならないことが多かったから寒い方がまだマシなのかもしれない。
受付で入場券を買い、館内に入るとまず売店が目に入ったけど、ここは最後にゆっくり見ていくことにして「順路」と書かれた看板に従ってエスカレーターで昇っていった。
「おー、すご!」
目の前に高さ十メートルはありそうな大水槽が現れ、中で色々な魚が泳ぎ回っていた。
魚の種類はほとんど分からないけど、お腹をガラスにくっつけて泳いでいる丸い胴体に長い尻尾をした魚がエイなのは分かった。
「エイの口ってむにっとしててなんかかわいいよね」
「そうだね」
「この口のところあるのが目っぽいけど、本当の目は上にあるんだよね」
たしかテレビでそんなことを言っていたから下の方を泳いでいるエイを観察してみると、上の出っ張ったところに目が付いていて、意外と鋭い目つきをしていた。
うーん、上からだとそんなにかわいげがないな……
「カメ、カメ!」
わたしがエイの裏表を見比べていると、叉音ちゃんが興奮気味に上のほうを指さすのでその方向に目を向けると悠々とウミガメが泳いでいた。
「わー、本物初めて見た」
「私も」
「…べっ甲だね」
「うん、そうだね」
上を泳ぐウミカメの甲羅を指さしながら、べっ甲メガネを掛ける叉音ちゃんの顔を見ると楽しそうに笑ってくれた。
ただ、ここだと上すぎて遠いからお腹しか見えず顔も見てみたい、幸いこのフロアは上に回廊があってそこからも見れるみたいだからから移動しようかと考えていると、水槽の上から何やら緑色のボールのようなものがくくりつけられた棒が差し込まれた。
最初はそれが何なのかわからなかったけれど、ウミガメが一心不乱にそのボール目がかけて泳いで行き、ムシャムシャと食べ始めてボールだと思っていた物が丸々一個のキャベツだったのに気がついた。
「ウミガメってキャベツ食べるんだね」
「うん、知らなかった」
キャベツのおかげで近くで観察できたウミガメはつぶらな瞳をしていて結構かわいくて、叉音ちゃんと二人でスマホで写真を撮っていたけど───
「そうだ、わたしたちの写真撮ってない」
夏祭りの時は人がいっぱいだったし下駄に負けてわたしの足が痛くなって早々に帰ったせいであんまり撮れなかったから、今回は水族館に着いたら入る前に一緒に自撮りを撮ろうと思っていたのに寒かったせいですっかり忘れていた。
「え、いいよ別に」
「思い出思い出、すみっこの方で撮っちゃお」
あまり乗り気じゃない叉音ちゃんの腕を取って水槽に背を向け、半ば無理やり撮ったせいで表情が固かったけど「後で送るね」と言ったら「お願い」と返事をしてくれた。




