そして、わたし達の音は響き続ける 第2話
スマホで水族館の事を調べながら家に帰ると、リビングに入るなりお母さんに根掘り葉掘りとわたしの試験結果がどうなりそうなのかを聞かれ、今回は割と真面目に勉強したから赤点まみれではなさそうだけど、かと言って思い出していい気分になれるほど解けていたとも思えなかった。
なので正直に『採点されて返ってこないと分からない』と答えたのに、どうもその態度が”不真面目”と捉えられたようで「なんでちゃんと覚えてないの!」から始まり、普段の態度に部屋の掃除にと文句を立て続けに言われ、反論すればさらに強烈な雷が落ちそうな気配を感じたので自分の部屋へ退散した。
せっかく試験から解放されたのに返ってくるまえから怒られたせいで余計に疲れてしまい、部屋に入るなりベッドにうつ伏せで寝転んでしまった。
「……怒るならテスト返ってきてからしてくださいヨ」
思わず愚痴がこぼれるほど気だるかったけどいつまでもこうしている訳にはいかない、なにせここからは心躍るギタータイム、もう三週間ぶりだ。
体をたたき起こして部屋着に着替えてギターを構え、最近まで一番練習していたから最初の曲としてキャノンボール・ラグを弾いた。
久しぶりとは言え手が覚えていてすんなりと演奏でき、学祭での叉音ちゃんとのステージを思い出した。
「そういえば次の動画で弾く曲考えないとなぁ」
独り言をつぶやくと同時にわたしの中で鬱屈とした気分が沸いてきた。
いや、本当はずっと抱えていたのに気が付かないようにしていた。
夏休みからずっと叉音ちゃんとギターの練習をしたおかげで上手になったと感じているし学祭でも上手いこと弾けていた。
でも、わたしを誘った先輩達のステージを見た時、なんだか胸の中にモヤモヤとした物があって、今も同じ物を感じた。
学祭の時は単に人気に対する嫉妬と思っていたけど、こうして久しぶりにギターに触ってみるとなんだか違う気がした。
そういえばわたしが好きな曲を弾いてないんだ。
夏休みはトラヴィスピッキングの練習をしていたし、学祭でも叉音ちゃんの曲の練習をしていて、いつも動画投稿をしていたわたしのお気に入りの曲は気が向いたときに弾いた程度でちゃんと弾けていなかった。
それに気が付いた瞬間、なんだかいてもたってもいられなくなり、今まで投稿した曲とこれから撮影しようとしていた曲を弾きまくってしまい、おかげで少しは気が晴れけどわたしの中で新しい気づきと悩みが生まれていた。
やっぱりわたしは今まで動画投稿してきたような曲が一番好きなんだ。
そしてこれまで色々なカントリーやブルーグラスなどの曲を聴かせてもらって一緒に弾いた叉音ちゃんに少しの申し訳なさを感じると同時に、来年の学祭では自分の好きな曲も一緒に弾きたいという思いが芽生えた。
ギターを弾く手を止め、やっぱり叉音ちゃんに言った方がいいよねと考えた瞬間───
「ごはん! いつまでギターやってるの!」
「えっ、あっ…はーい!」
お母さんに部屋のドアをドンドンと叩かれ、我に返った。
開けっぱなしカーテンの向こうはすっかり真っ暗、慌てて枕元に放り投げていたスマホを拾い上げて時間を確認すると帰ってきてからもう三時間も経っている。
新たに生まれた悩みに答えを出せないまま土曜日を迎えてしまった。
何も知らなければ一緒に弾こうと頼んでいたんだろうけど「叉音ちゃんの曲も弾くからわたしの選んだ曲も弾いて」という状況は中学生の叉音ちゃんが先輩に半ば無理矢理バンドを組まされた時と似ていて、どうやって伝えるかで悩んでいた。
けれどまだ一年も先の話だし、昨日の今日で言わなきゃいけないことでも無いからそれは頭の片隅に置いて、水族館デートを楽しむことにした。
叉音ちゃんもわたしの親も忙しくて送り迎えは出来ないということなので、電車とバスを乗り継いで行くことになったから時間は掛かる。
でも電車に乗るのが久しぶりだし親がいないから気兼ねない会話ができて一緒に移動するのもちょっとした旅気分で楽しかったのだけど───
「響、そろそろ降りるよ」
「んあ……あっ!?」
久々に叉音ちゃんとふたりで遊ぶということで、昨日の夜はなかなか寝付けなかった上に電車の揺れと暖かい座席が心地よくていつの間にか眠ってしまっていた。
しかも叉音ちゃんに寄りかかって。
「ごめんね、重くなかった?」
「ううん、平気」
首を横に振りながら立ち上がる叉音ちゃんに慌ててついて行き、改札を出て乗り継ぎのバスを目指したけど、ドア横の逃げ場のない座席に座っていた小さな叉音ちゃんに自分の頭をこすりつけるように寝ていたのを思い出したら段々恥ずかしくなってきた。
しかも土曜日だから人も結構乗ってて、なんだか笑われてた気もする……




