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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第6章 ふたりぼっちステージ
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ふたりぼっちステージ 最終話

 しばらくバッグに付けたストラップを見ていたけど、ギターバッグを触っていたらなんだかギターを弾きたくなった。


 中に入っているのはエレキだけど、今日はアコギも持ってきているからそっちを取り出し、パッと思い浮かんだ曲を弾いてみた。


「ヤンキードゥードゥルだね」

「うん、なんか弾きたくなっちゃった」


 ヤンキードゥードゥルに続いてキャノンボールラグを演奏していると、わたしを見る叉音ちゃんの目がなんだか弾きたそうにしているように感じた。


「弾く?」

「いいの?」

「いいよ、なんか弾きたそうにしてたし」


 図星だったようで叉音ちゃんは照れくさそうに笑いながらわたしのアコギを受け取るとヤンキードゥードゥルを弾き始めた。

 アレンジをしているわけではなくさっきとほとんど同じ演奏、わたしのを聴いて弾きたくなったのかな、と勝手に想像していたら別の曲を弾き始めた。


 聞き覚えがある、たしか前に昼休みにお弁当を食べながら聴かせてもらったんだ。

 うーん、曲名も教えてもらってるはずなのに出てこない……


「ディキシー(*注1)だよ」

「あー、そうだった」

「じゃあこれは?」


 叉音ちゃんはほんのりと得意げな表情を浮かべてポケットから取り出したフィンガーピックを親指に付けたけど、弾き始めたのはさっきと同じディキシー、何をしているのかわからずキツネにつままれた気分になっていた。


 しかし何かが違う、違和感を感じてしっかりよく聴いてみるとディキシーと同時にヤンキードゥードゥルが流れている。(*注2)


「えっ、どうやってるの?」

「トラヴィスピッキングと同じだよ、親指でヤンキードゥードゥル、他の指でディキシーを弾くの」


 もう一度曲の頭から弾いてくれ、よく見るとたしかに親指と他の指で二曲同時に演奏している。


 こんなことまでできるんだ……


「すごっ、叉音ちゃんが思いついたの?」

「昔『ミスター・ギター』って呼ばれた人がコンサートで二人のお客さんにヤンキードゥードゥルとディキシーをリクエストされて、どっちも譲らないから同時に弾いたんだって」

「へー、でもそんな曲を弾けちゃいなんて叉音ちゃんはやっぱり凄いよ」

「ありがとう、でも響も弾けると思うよ」

「ええー、本当?」

「うん、ちゃんと練習すれば」


 はは、だよねぇ……


「ねえ、叉音ちゃんっていつもどのくらい練習してるの?」


 というか、どのくらい練習すればあんな怪物じみた演奏を、しかも三つの楽器でできるようになるのか前々から不思議だった。


「えっと、一日六時間以上は触っておかないと落ち着かないからなるべくそうしてるよ」

「ろ、六時間!?」


 わたしなんか休みの日に三時間練習したら長い方なのに、そりゃこんな上手くなるわけだ…


「畑の手伝いで出来ない時もあるけど、休みと雨の日は時間はその分やるようにしてるよ」

「いやー、凄いね……じゃあ宿題とかどうしてるの?」

「朝に学校でやるようにしてる」


 あーなるほど、それで教科書なんかが学校に全部置き勉されてたしいつも登校するのが早かったのか。


 叉音ちゃんの生態の一部を垣間見たように感じたし、同時にまだまだ知らないことがあるんだなぁ、と最近分かった気でいた自分を恥じた。




 叉音ちゃんはさらに色々な曲をギターで弾いてくれて、その合間に中庭の喧騒が開けた窓から入り込む、学祭なのにふたりで音楽室でギターを弾いているなんて世界でわたし達だけしかやっていないんじゃないかと思えて、なんだか”特別感”に浸っていた。


 そして、ステージに立って大勢の観客の前で演奏したのも楽しかったけど、こうしてふたりきりでゆっくりと過ごすのがやっぱりわたしは好きだ。

 だって叉音ちゃんが楽しそう弾いているのを間近で見れて、それをこうして独占できるんだから。

(*注1)ディキシー(Dixie)アメリカ南部とアメリカ連合国の代表曲

(*注2)ヤンキー・ドゥードゥル・ディキシー(Yankee Doodle Dixie)楽曲、逸話共にChet Atkinsの物

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