人形
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この学園の最も特徴的ところは、授業に人形を使った、空間戦闘訓練があることだ。
人形とは人の形をした戦闘機のことだ。兵器である。
正式名称は人型空間戦闘機というけれど、みんな人形という俗称で呼んでいる。
そして、人形を操る人間のことを人形使い、通称パぺマスと呼んでいた。
どうしてこの戦闘機を人形と呼ぶのかというと。
それは、人形の操作感覚が糸で操る人形に似ているからである。
でも、操り人形とは言わない。人形と人形使いの距離はもっと近いのだ。
人形の操作には生まれ持った素質も当然あるけれど、重要なのは感覚が日々の訓練や経験によって研ぎ澄まされていくことである。
人形はその全てが人形使いの魔力で動く。補助動力はない。魔力は人工的に貯めておくことができないからだ。
そして、魔力は使えば減っていく。
人形を操る上で最も危険な状態は魔力切れである。これが起これば人形と繋がった糸が切れることになる、途端に人形は動かなくなる。
それに魔力切れは人形使いの身体にとって非常に危険な状態だ。
もし戦場で魔力切れになれば、まず命はない。脱出もできない。高価な棺桶に閉じ込められているようなものである。
さて、私は手にインタフェースを装着した。意識を指先に集中させる。
そして、魔力の糸を伸ばしてゆく。人形の頭のてっぺんから足先にまで魔力の糸を這わせてゆくのだ。
難なく、魔力を行き渡らせることが出来た私は、人形とリンクした。
私は今日初めて人形に乗った、ということになっている。初めての場合はリンクさせるのも一苦労なのだ。
授業ではリンク、歩行練習、その後駆け足、飛行と段階を踏んでいく必要がある。
私にはマーリンの記憶、知識があるから段階を飛ばしてしまうことは容易い。でも、そんなことはしない。私は軍人にはなりたくない。
だから、下手な動きしないといけない。
しかし、私は人形のことを何も知らない。
性能を理解しておかなくては下手な動きも上手にできない。何度でも言う。私は軍人にはなりたくない。これには人生がかかっている。手は抜けない。上手に下手を演じなければならないのだ。
私は人形の手を”にぎにぎ”させてみる。周りにバレないようにこっそり。
(うん、練習機だからどんなものかと思ってたけど、反応はいい感じ。動かしたのは指だけ。だけどそれでわかる。動きは滑らか。これは、もしかしたらマーリン時代の軍用人形よりも性能がいいのかな?)
まぁ、これは時代の進歩というやつだろう、納得だ。
次に、私は人形のスペックシートを呼び出す。
私がそれを意識すると目の前にウィンドウがいくつも現れた。順にそれらを辿って難なく、目的の項目を発見する。
このあたりは、昔もいまも基本ソフトウェアは同じ系統ものを使っている。
ラッキー!
(魔力変換炉はユンカース製…シュヴァルべ様のところね。)
調べてみた性能は最大出力はマーリン時代の軍用人形が僅かに上、反応はこの子の方が何倍も優れていた。
(技術の進歩ってすごいなぁ)
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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