嫌なら嫌と言え
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生徒会補佐の足音が、廊下の先へ消えていった。
回廊には、短い沈黙だけが残る。
マーリンは資料を抱えたまま、まだ微笑んでいた。
うまく整えた笑顔だった。
ロイス家の令嬢としても、新入生代表としても、たぶんどこにも問題はない。
けれど、ミハイルはその笑顔を見ていなかった。
正確には、笑顔だけを見ていなかった。
目元。
呼吸。
白い手袋の指先。
資料を抱える腕の角度。
隠そうとしているものばかりを、静かに拾っている。
「中へ」
ミハイルは、回廊の脇にある小さな休憩室を示した。
声は低い。
命令のようで、命令ではない。
怒っているのに、乱暴ではない。
マーリンは一瞬だけ口を開きかけた。
大丈夫だと言いかけて、やめる。
言えば、今度こそミハイルの目がもっと鋭くなる気がした。
クリスチーナが先に扉を開ける。
休憩室には、小さな丸机と椅子が三つ、窓際に細い花瓶がひとつ置かれていた。
花瓶には白い花。
どこに行っても、白い花。
少し笑いたくなる。
けれど、笑えなかった。
マーリンが入り、ミハイルが続く。
クリスチーナは扉を閉め、一歩後ろに控えた。
外のざわめきが遠くなる。
それだけで、肩に乗っていた何かが少し軽くなった気がした。
けれど、マーリンはまだ資料を抱えたままだった。
ミハイルはそれを見る。
「下ろせ」
「え?」
「まず、それを下ろせ」
「そんなに重くは」
「下ろせ」
短い。
飾りもない。
マーリンは少し戸惑いながら、丸机の上に資料を置いた。
置いた瞬間、腕が軽くなる。
本当に軽くなったことに、自分で少し驚いてしまう。
ミハイルはその顔を見逃さなかった。
「ほら」
「……何が、ほらなの」
「重かったんだろう」
「紙ですもの。大げさよ」
「紙でも積めば重い」
「言い方が、あまりにも現実的ね」
「現実だからな」
マーリンは返す言葉を探した。
簡単な反論なら、いくつも浮かぶ。
生徒会の仕事は必要なことだ。
ブライアンは無理を言っていない。
頼まれたのは少しだけだ。
自分が見れば早く済む。
誰かが助かる。
どれも嘘ではない。
だから、余計に厄介だった。
嘘なら切れる。
無礼なら拒める。
けれど、正しくて、丁寧で、自分も嫌ではないものは、どこで断ればいいのか見えにくい。
ミハイルは机の資料には手を触れず、マーリンを見る。
「嫌なら嫌と言え」
その一言は、短かった。
マーリンは目を瞬かせる。
「嫌、というほどではないわ」
「では、疲れていると言え」
「疲れているというほどでも」
「では、大丈夫ではないと言え」
そこで、マーリンは言葉を失った。
ミハイルは少しだけ眉を寄せていた。
怒っている。
でもそれは、責める怒りではない。
心配して、腹を立てている。
マーリンは、それが少し苦手だった。
責められる方がまだ楽だ。
令嬢らしくない。
役目を果たせていない。
期待に応えていない。
そう言われるなら、直せばいい。
姿勢を直し、言葉を直し、笑みの角度を直す。
次は間違えないようにすればいい。
けれど、大切にされて怒られると、どうしていいか分からない。
直す場所が、外側にない。
「本当に、大丈夫なの」
言いかけた瞬間、ミハイルの目が細くなった。
信じていない。
少しも。
マーリンは唇を閉じる。
休憩室の中で、クリスチーナが静かに立っている。
彼女も同じ目をしていた。
ミハイルだけではない。
クリスチーナも、マーリンの「大丈夫」を信じていない。
そのことに、少しだけ居心地が悪くなる。
「……そんなに信用がないのね」
軽く言ったつもりだった。
けれど、ミハイルは笑わなかった。
「信用している。だから言っている」
マーリンは顔を上げる。
「君がやれることは知っている。席次も、挨拶文も、来賓対応も、たぶん全部やれる。だから問題なんだ」
「やれるなら、問題ではないでしょう?」
「違う」
ミハイルの声が、少し強くなった。
マーリンは肩を揺らす。
それを見て、ミハイルはすぐに声を落とした。
「やれることと、引き受けていいことは違う」
その言葉は、胸にまっすぐ落ちた。
マーリンは視線を下げる。
机の上の資料が目に入る。
まだ少ない。
本当に、抱えられないほどではない。
けれど、いつからかそれは手元から離れなくなっていた。
講義の前にも。
食事の後にも。
髪を整えている間にも。
少しだけ。
確認だけ。
見るだけ。
その少しが、いつもそばにある。
「でも、私が見れば早いわ」
「そうだろうな」
「皆も助かるわ」
「そうだろうな」
「なら」
「マーリンは?」
公の呼び方ではなかった。
その一言で、マーリンは止まった。
ミハイルは続ける。
「君は、助かっているのか」
その問いに、すぐ答えられなかった。
助かる。
助かっている。
誰かの役に立つことは嬉しい。
必要とされることは、胸の奥が温かくなる。
ブライアンが感謝してくれる。
生徒会役員がほっとする。
教師たちが安心する。
自分の言葉で、会場の皺が伸びる。
それは確かに気持ちがよかった。
何もできない花として飾られるより、ずっと。
でも。
その温かさの下にある疲れを、見ないふりしていた。
「……嫌では、ないの」
ようやく出た言葉は、それだった。
ミハイルは黙って聞く。
「頼られるのは嬉しいわ。私にできることがあるのも、嫌ではない。皆が安心するなら、それでいいと思ってしまうの」
マーリンは、少しだけ笑う。
けれどその笑顔は、いつものようには整わなかった。
「だって、できるのだもの」
それは自慢ではなかった。
少しだけ、泣き言に似ていた。
できる。
振る舞える。
目の前の人が何を求めているのか、視線の温度で読めてしまう。
どこに立てば場が落ち着くのか、身体が先に選んでしまう。
期待に応えれば、皆が安心する。
その安心した顔を見ると、断る理由が小さくなる。
だから、逃げ方が分からない。
ミハイルはしばらく黙っていた。
それから、深く息を吐く。
「君の悪いところだ」
「悪いところ?」
「そうだ。かなり悪い」
マーリンは少しだけむっとする。
「そこまで言わなくても」
「言う。言わないと、君は笑って誤魔化す」
図星だった。
マーリンは反論しようとして、やめた。
反論の形は浮かんでいる。
けれど、それを口にすれば、また綺麗な言葉で自分を隠してしまう気がした。
「ミーシャは、時々ひどいわ」
「知っている」
「そこは否定して」
「否定したら、君が話を逸らす」
マーリンは黙った。
確かに逸らすつもりだった。
それを先に言われると、逃げ道がひとつ塞がる。
「君は、頼られると嬉しそうな顔をする」
ミハイルは机の資料を見た。
「それは悪いことじゃない」
「なら」
「でも、嬉しいからといって全部抱える理由にはならない」
マーリンは視線を落とす。
ミハイルの言葉は、いつも遠回りをしてくれない。
花の香りで包んでもくれない。
だから痛い。
けれど、痛い場所はたいてい、もう傷んでいる場所だった。
「ブライアン様は、無理のない範囲でとおっしゃったわ」
「なら、無理のない範囲を君が決めろ」
「それが分からないの」
思ったより早く、言葉が落ちた。
マーリンは自分で驚く。
ミハイルも少しだけ目を細めた。
責める顔ではなかった。
続きを待つ顔だった。
「どこまでが、無理ではないのか。どこからが、断っていいことなのか。よく分からないわ」
マーリンは机の上の資料を見つめる。
「だって、これは本当に大した量ではないもの。ひとつずつなら、どれも簡単で。私が少し見れば済むものばかりで。嫌ではなくて、むしろ少し面白くて、役に立てるのも嬉しくて」
言葉が少しずつ増えていく。
普段なら、途中で止める。
整えすぎない言葉は、令嬢の会話には向かない。
けれど、ミハイルは遮らなかった。
クリスチーナも、静かに聞いている。
「でも、いつの間にか、ずっと考えているの。講義の前も、食事の時も、髪を整えている時も。次はあの席順を直さないと、とか、あの言い回しは別の家に刺さるかもしれない、とか」
マーリンは小さく息を吐く。
「止める理由がないのに、止まれなくなるの」
それは、初めて言葉になった疲れだった。
ミハイルはしばらく何も言わなかった。
黙って、マーリンの顔を見ていた。
「それを、疲れていると言う」
「……そうなの?」
「そうだ」
「でも、倒れるほどではないわ」
「倒れてから言うな」
即答だった。
マーリンは少しだけ目を丸くする。
ミハイルは続けた。
「倒れてから休むのは、休息じゃない。回収だ」
「回収」
「壊れたものを拾う言葉だ」
マーリンは返事に詰まった。
少し大げさだと思う。
けれど、ミハイルの目は真面目だった。
「君は、壊れてから拾われたいのか」
「そんな言い方」
「嫌なら、今のうちに止まれ」
言葉は厳しい。
でも、手は伸びてこない。
資料を奪うわけでもない。
机を叩くわけでもない。
ただ、マーリンが自分で下ろすのを待っている。
その待ち方が、余計に逃げにくかった。
「……嫌なら嫌と言っても、いいの?」
ぽつりと落ちた言葉は、あまりにも幼かった。
マーリン自身が、それに驚く。
ミハイルも、クリスチーナも、すぐには何も言わなかった。
沈黙が落ちる。
マーリンは急に恥ずかしくなり、顔を背けた。
「今のは忘れて」
「忘れない」
ミハイルは即答した。
「忘れろとは言わないで。そういうことを、ちゃんと言ってほしい」
「ちゃんと、なんて」
「言えている」
「言えていないわ」
「今、言った」
マーリンは唇を噛む。
困る。
そんなふうに言われると、本当に困る。
希望の花ではなくなってしまう。
ロイス家の令嬢でもなくなってしまう。
ただの、断ることが下手な少女になってしまう。
そして、ミハイルの前では、それを隠しきれない。
クリスチーナが静かに口を開いた。
「お嬢様。私からも、お願いいたします」
マーリンは振り返る。
クリスチーナの表情は穏やかだった。
けれど、いつもより少し切実だった。
「お嬢様が大丈夫とおっしゃるたび、私は安心できなくなります」
マーリンは息を呑む。
クリスチーナは一歩後ろに立つ人だ。
主従の距離を守る人だ。
その彼女が、そこまで言う。
「私は、お嬢様のお役目を否定したいのではございません。生徒会へのご協力が不要だとも申し上げません」
クリスチーナの声は静かだった。
「ですが、お嬢様がご自分のお疲れを、いつも最後に置かれることが怖いのです」
マーリンはすぐに返事ができなかった。
自分ひとりのことだと思っていた。
少し疲れても、笑えば済むと思っていた。
誰にも迷惑をかけないなら、それでいいと思っていた。
けれど、そうではなかった。
笑って隠すたび、心配する人がいる。
大丈夫と言うたび、その言葉を信じられずに胸を痛める人がいる。
「……ごめんなさい」
小さな声だった。
ミハイルは少しだけ表情を和らげる。
「謝れとは言っていない」
「でも」
「嫌なら嫌と言え。疲れたなら疲れたと言え。休みたいなら休みたいと言え。君がそう言ったくらいで、世界は壊れない」
世界は壊れない。
それは大げさな言葉のはずだった。
けれどマーリンには、少しだけ信じたくなる響きがあった。
自分が断っても、誰かが困る。
自分が休めば、場が乱れる。
自分が笑わなければ、期待を裏切る。
そう思っていた。
でも、もしかしたら。
ほんの少しだけなら。
世界は、壊れないのかもしれない。
「壊れないかしら」
「壊れない」
「少しは、困るでしょう」
「困るかもしれない」
ミハイルはあっさり認めた。
マーリンは目を瞬かせる。
「そこは、困らないと言うところではなくて?」
「嘘は言わない。君が断れば、誰かは少し困る。ブライアンも調整するだろう。生徒会も動く。教師も顔をしかめるかもしれない」
「ほら」
「でも、それは彼らの仕事だ」
ミハイルは静かに言った。
「君ひとりが全部きれいにしてやる必要はない」
マーリンは机の上の資料を見る。
白い紙。
整った文字。
正しい依頼。
小さな確認。
それらはどれも軽い顔をしていた。
けれど、全部を抱えれば重い。
そんな当然のことを、今さら知る。
マーリンは資料のうち数枚をそっと脇へ分けた。
「これは、私が見なくてもいいものかもしれないわ」
言いながら、胸が少し痛む。
手放すのが怖い。
役に立てる機会を、自分から減らすのが怖い。
けれど、ミハイルはうなずく。
「そうだ」
クリスチーナも、静かに安堵したように息を吐く。
マーリンはまた一枚、資料を分ける。
「これは、生徒会の方に確認していただければ済むわね」
「そうだな」
「これは……ブライアン様にお返しして、判断をお願いするべきね」
「それでいい」
ひとつずつ、手元から離していく。
それだけのことなのに、少しだけ息がしやすくなる。
マーリンは苦笑した。
「変ね。紙を減らしただけなのに」
「紙でも積めば重いと言っただろう」
「ミーシャは、意地悪ね」
「君が意地を張るからだ」
「私はそんなに意地を張っていないわ」
ミハイルは何も言わずに見る。
クリスチーナも、何も言わずに見る。
マーリンは視線をそらした。
「……少しは、張っていたかもしれないわ」
「少し?」
「二人とも、本当に似てきたわね」
「光栄でございます」
クリスチーナが静かに答える。
ミハイルは小さく息を吐いた。
そのやり取りで、休憩室の空気が少し緩む。
マーリンは小さく笑った。
今度の笑みは、少しだけ軽かった。
やがて休憩室の外から、生徒会の使いが控えめに声をかけてきた。
「ロイス嬢。確認は急ぎとのことで……」
扉越しの声は、遠慮がちだった。
マーリンは立ち上がる。
ミハイルがまた少し警戒した顔をする。
クリスチーナも同じように見る。
マーリンは二人を見て、少しだけ困ったように笑った。
「大丈夫……ではなくて」
言い直す。
その一言を引っ込めるだけで、喉の奥が少し詰まった。
けれど、言い直せた。
「急ぎではないものは、お返しします」
その言葉を口にするだけで、少し勇気がいった。
マーリンは扉を開けた。
廊下には、生徒会補佐の生徒が立っている。
マーリンは資料を二つに分けて差し出した。
「こちらは私が確認します。ですが、こちらは生徒会の判断で進めてください。ブライアン様に、私がすべてを見る必要はないとお伝えください」
言ってから、胸が少しだけ跳ねた。
強すぎただろうか。
失礼だっただろうか。
ロイス家の令嬢として、角が立たない言い方になっていただろうか。
そんな考えが一瞬でいくつも浮かぶ。
けれど、生徒会補佐の生徒は少し驚いたあと、すぐに礼をした。
「かしこまりました。カーチスライト様にお伝えいたします」
「お願いいたします」
「ご無理をお願いしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いいえ」
そこで、いつもの言葉が出かけた。
大丈夫よ。
けれど、マーリンは飲み込んだ。
代わりに、少しだけ息を整える。
「必要なものは確認します。ですが、少し時間をください」
「はい。ありがとうございます」
生徒会補佐の生徒は、資料を受け取って離れていった。
足音が遠ざかる。
マーリンは扉を閉めた。
世界は壊れなかった。
誰も怒鳴らなかった。
床も割れなかった。
学園の天井も落ちてこなかった。
少し大げさなことを考えて、自分で少しおかしくなる。
「……本当に、壊れなかったわ」
ミハイルは呆れたように笑う。
「当たり前だ」
クリスチーナも、ほんの少しだけ微笑んだ。
マーリンは机の上に残った資料を見る。
まだ仕事は残っている。
完全に自由になったわけではない。
けれど、全部を抱えなくてもいいのだと、少しだけ知った。
それは嬉しいような、怖いような、不思議な感覚だった。
「ねえ、ミーシャ」
「何だ」
「嫌だと言う練習って、必要かしら」
ミハイルは少し考える。
「必要だな」
「……本気で?」
「本気で」
「では、まず何から?」
「その資料を全部持って帰らないことから」
マーリンは机の上を見る。
残った資料も、まだそれなりにある。
少し迷って、二枚だけをさらに脇へ分けた。
「これは、戻すわ」
「うん」
「これは……見る」
「それは必要なのか」
「たぶん」
「たぶん?」
「必要です」
ミハイルが疑う目を向ける。
マーリンは少しだけ頬を膨らませた。
「本当に必要よ。来賓挨拶の順番に関わるものだから」
「なら、見る時間を決めろ」
「厳しいわね」
「君には必要だ」
「ミハイル様は、私の指導教官でしたかしら」
「違う。幼馴染だ」
その言葉は、静かに胸へ触れた。
幼馴染。
ロイス嬢ではなく。
希望の花でもなく。
役割でもなく。
昔から彼女を知っている人。
マーリンは少しだけ視線を落とす。
「……ありがとう」
小さな声だった。
ミハイルは何も言わなかった。
ただ、軽くうなずいた。
クリスチーナは残った資料を整え、マーリンが抱えやすい枚数だけをまとめる。
全部ではない。
本当に必要な分だけ。
マーリンはそれを受け取った。
さっきより軽かった。
紙の量が減ったから。
それだけではない気がした。
休憩室を出る頃、マーリンの腕の中の資料は少し減っていた。
大きな変化ではない。
誰かが拍手するような出来事でもない。
けれど、マーリンにとっては小さな勝利だった。
嫌なら嫌と言う。
疲れたなら疲れたと言う。
休みたいなら休みたいと言う。
それは簡単なことのようで、彼女にはひどく難しい。
回廊に戻ると、窓から宇宙へ続く空が見えた。
掲示板には、課外授業の予定が張り出されている。
研究艦シャルンホルスト乗船実習。
帝国の技術と宇宙軍の研究設備を見学する、貴族育成機関らしい華やかな行事。
マーリンはそれを見上げた。
広い宇宙へ出れば、少しは息がしやすいだろうか。
そんなことを思った。
腕の中の資料は、まだ少し重い。
けれど今の重さなら、自分で抱えていると分かる。
いつか手放す練習も、できるかもしれない。
ミハイルは掲示板を見て、それからマーリンを見る。
「行くのか」
「課外授業ですもの」
「無理はするな」
「……努力します」
「そこは、はい、でいい」
マーリンは小さく笑った。
「はい、ミハイル様」
公の呼び方に戻したのに、今度は少しだけ柔らかかった。
クリスチーナが一歩後ろで静かに控える。
三人は回廊を歩き出した。
白い花の香りが、窓の隙間からかすかに流れてくる。
マーリンは知らない。
その航路の先に、白い人形が眠っていることを。
そして帝国がいつか、彼女の笑顔よりも、その人形を動かせる手を見つけることを。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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