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作戦説明

ご覧いただきありがとうございます。

投影盤に、王都周辺空域が浮かび上がった。


青い立体地図。


その上を、二十本の赤い線が北西から伸びている。


赤い線はまっすぐではなかった。


少しずつ曲がり、枝分かれし、また収束している。


それぞれが別の経路を選びながら、最後には同じ場所へ向かっていた。


王都中枢圏。


そこには、学園もある。


ハネダ亭もある。


たくさんの人の家もある。


私は赤い線を見つめたまま、息をするのを忘れそうになった。


ミサイル。


戦略級反応ミサイル。


二十機。


文字で聞いた時より、線で見た方が怖かった。


赤い線は、静かにこちらへ来ている。


叫ばない。


脅さない。


ただ、計算された軌道で、王都へ向かっている。


それが怖い。


怒っている人より、何も言わずに近づいてくるものの方が怖いことがある。


「時間がない」


作戦将校が言った。


声は短く、硬い。


「説明は必要最低限にする。質問は後で受けるが、長くは取れない」


誰も文句を言わなかった。


残った生徒たちは、グラウンドに並んでいる。


さっきより少し静かだった。


恐怖が消えたわけではない。


むしろ、具体的になった分だけ重くなっている。


でも、騒ぐより聞かなければならない段階に来ていた。


そうしないと、死ぬ。


そのことが、みんなにもわかっているのだと思う。


私は第一小隊の列にいた。


隣にミリア。


少し前にセシリアさん。


トムは前衛組の方に立っている。


シュヴァルベ様は、投影盤の前で将校の横にいた。


指揮を執る人の場所。


その背中は、やはりまっすぐだった。


「作戦は単純だ」


将校が言う。


「作戦空域まで移動し、防衛網および正規部隊の迎撃から漏れたミサイルに対し、空戦機動による誘導と、長距離狙撃用魔力ライフルによる精密狙撃を行う」


魔力ライフル。


その言葉で、近くの生徒たちが少しざわついた。


人形の基本武装はソードだ。


近接戦が基本。


魔力を使う兵器は、活動時間を短くする。


講義でもそう習った。


だから、訓練で魔力ライフルを扱う機会はほとんどない。


少なくとも、私はない。


将校の補佐官が、投影盤にライフルの図を出した。


長い銃身。


大型の魔力変換部。


機体の腕に固定するための補助フレーム。


訓練機には明らかに重そうな装備だ。


「長距離狙撃用魔力ライフルは、出力が高い。だが、魔力消費が非常に大きい」


将校の声が続く。


「撃てるのは、一人二発までと考えろ」


二発。


たった二発。


いや、二発も撃てると言うべきなのかもしれない。


「三発目は禁止だ。撃てば魔力切れ、リンクダウン、機体制御不能の危険が跳ね上がる。発射後は冷却が必要になる。連射はできない」


魔力切れ。


リンクダウン。


その言葉だけで、指先が冷える。


人形とのリンクが切れれば、制御不能になる。


空の上で。


ミサイルの近くで。


それは、死んだも同然だ。


「用意できたライフルの数も限られている」


投影盤に、使用可能装備数が表示された。


数は少ない。


残った生徒の数よりずっと少ない。


「したがって、全機が撃つわけではない。狙撃役と観測役を分ける。二機一組。基本はバディで動け」


二機一組。


いつものバディシステム。


ただ、いつもと違うのは、相手が訓練機ではないこと。


空を切って迫る反応ミサイルだということ。


「機体は武器使用制限を解除する。出力制限も限定的に解除済みだ」


その言葉で、別の不安が広がる。


制限解除。


出力が上がる。


できることは増える。


でも、危険も増える。


「ただし、DDSの影響で遠隔コントロールに障害が発生している」


将校は淡々と言った。


「学園および管制は監視を行うが、管制側からの強制切断はできない」


強制切断できない。


つまり、暴走しても外から止められない。


魔力切れになりかけても、リンク深度が危険になっても、最後に止めるのは自分。


もしくは、隣のバディ。


私は無意識に手を握った。


爪が手のひらに当たる。


「魔力切れには十分注意しろ。魔力切れを起こした機体は、その場で戦力外になるだけではない。救援に他機を割くことになる。結果として隊全体が崩れる」


誰かが小さく息を飲んだ。


自分が落ちるだけではない。


誰かを巻き込む。


それが、さらに怖い。


「狙うのは弾頭ではない」


将校は投影盤のミサイル模型を拡大した。


先端部分が赤く示される。


「反応弾頭部への直接攻撃は禁止する。近距離で誘爆すれば、迎撃機はまず助からない。王都上空に近ければ、被害も拡大する」


赤い先端を見て、胸が冷える。


そこを壊せば止まる。


そんな単純な話ではない。


「狙うのは推進部、誘導部、姿勢制御部だ」


模型の後部と側面に黄色い印が出る。


「推進部を破壊できれば減速、軌道逸脱が狙える。誘導部を撃てば自律誘導を乱せる。姿勢制御部を破壊すれば、回避運動を封じられる可能性がある」


可能性。


確実ではない。


それでも、それをやるしかない。


「ミサイルは高高度を超音速で飛行している。しかも自律誘導により、迎撃に対して回避運動を行う」


投影盤の赤い線が、急に蛇行した。


迎撃射線を避けるように曲がる。


「速度差、角度、狙撃距離、回避機動。すべてが厳しい。正直に言えば、作戦難易度は非常に高い」


将校は一度、残った生徒たちを見た。


「ぎりぎりだ」


誰も笑わなかった。


励ましではない。


現実だった。


「最終防衛ラインを越えられれば、迎撃は困難になる。仮に迎撃できても、落下した残骸で王都に被害が出る」


投影盤に、王都の外縁を囲む線が表示された。


最終防衛ライン。


赤いミサイル軌道は、そこへ向かっている。


「君たちの役割は、可能な限り早い段階で軌道を乱し、防衛網の迎撃可能範囲へ押し込むことだ。撃墜そのものより、誘導と攪乱を優先する」


撃墜ではなく、誘導。


落とすのではなく、逸らす。


そう聞いて、ほんの少しだけ息ができた。


でも、楽にはならない。


ミサイルに近づくことに変わりはない。


戦略級反応ミサイルのそばを、訓練機で飛ぶ。


普通なら、考えたくもない。


考えたくないのに、考えなければならない。


「ユンカース」


将校がシュヴァルベ様を見た。


「隊編成を」


「はい」


シュヴァルベ様が一歩前へ出た。


その瞬間、生徒たちの視線が自然と集まる。


シュヴァルベ様は投影盤の隊列図を切り替えた。


第一小隊を中心に、残った生徒たちがいくつかの組へ分けられていく。


「基本は二機一組。狙撃役と観測役です」


シュヴァルベ様の声は落ち着いていた。


「狙撃役は魔力ライフルを使用し、観測役は目標の軌道、回避癖、射線、冷却時間、退避路を管理します。観測役は、撃たないから安全というわけではありません。狙撃役を戻す責任があります」


戻す責任。


その言葉が胸に残る。


「グラマンさん、サーブさん」


「はい、ユンカース様」


トムとミリアが返事をした。


「グラマンさんが狙撃役。サーブさんが観測役です。グラマンさんは前へ出る推力がありますが、射撃後に位置を下げる判断が遅れる可能性があります。サーブさん、制御してください」


「はい、ユンカース様。トム、撃ったら下がる」


「まだ撃ってないぞ」


「今から言っておくの」


トムは少しだけ笑おうとした。


でも、顔は硬い。


「了解、ユンカース様。ミリアの声、聞きます」


ミリアの表情が一瞬だけ柔らかくなった。


「ダッソーさん、ピラタスさん」


「はい、ユンカース様」


「はい」


「ダッソーさんが観測兼直衛、ピラタスさんが狙撃補助。前衛の空域整理をお願いします。必要であれば、ピラタスさんがライフルを使用。ただし一発目は温存してください」


「承知しました、ユンカース様」


「わかりました、ユンカース様」


ピラタスさんの声は少し震えていたけれど、目は前を向いていた。


「ブレゲさんは中衛支援。ライフルを持たず、誘導攪乱と牽制を担当してください。魔力消費を抑え、救援余力を残します」


「はい、ユンカース様」


ブレゲさんは静かに頷く。


「ヒースローさん」


「はい、ユンカース様」


「全体監視をお願いします。各ペアの位置、魔力消費、通信状態、残弾を管理してください。負荷が大きくなりますが、あなたの観測能力が必要です」


「承知しました、ユンカース様」


セシリアさんの声は穏やかだった。


でも、握った手が少し白い。


「負荷が大きすぎる場合は申告を」


「はい」


そして、シュヴァルベ様の視線が私に向いた。


「ローレさん」


「はい、シュヴァルベ様」


「あなたは私と組みます」


心臓が、強く跳ねた。


私と、シュヴァルベ様。


「私が狙撃役。あなたが観測役です」


観測。


狙撃ではない。


撃つのはシュヴァルベ様。


私は見る。


見る。


赤い軌道。


回避運動。


推進部。


誘導部。


姿勢制御部。


撃てる線。


戻れる線。


「ローレさんには、目標の動きだけでなく、射撃後の退路と、隊全体の歪みを見てもらいます」


「隊全体の、歪み」


「はい。あなたは、表示上の情報だけでは拾えない違和感に気づくことがあります」


たまたま。


鋭い勘。


それを、シュヴァルベ様はここでも使おうとしている。


怖い。


必要とされることが怖い。


でも、必要だと言われている。


「私は撃つ瞬間、視野が狭くなります。あなたが見てください」


私が。


シュヴァルベ様を見る。


空を見る。


ミサイルを見る。


戻る道を見る。


それは、とても重い。


「できますか」


シュヴァルベ様が聞いた。


できます。


そう言うのは簡単だ。


でも、簡単に言ってはいけない気がした。


「怖いです」


私は言った。


「でも、見ます。見えたものは、言います。たまたまでも、飲み込まないようにします」


シュヴァルベ様の目が少し柔らかくなった。


「それで十分です」


十分。


また、その言葉。


本当だろうか。


でも、今は受け取るしかない。


「はい」


私は頷いた。


将校が補足するように言った。


「観測役は射線補正を担当する。狙撃役の照準補助、目標の回避傾向、発射後の冷却状況、魔力消費、回避ルート。すべてを同時に見ることになる」


全部。


多い。


多すぎる。


私の頭は一つしかない。


手も二つしかない。


でも、人形の中では、魔力の糸が広がる。


それで、何かが見えるかもしれない。


見えてしまうかもしれない。


「各ペアの通信は隊内回線を使う。管制回線は不安定だ。DDS由来の障害が残っている。管制からの情報は参考にしろ。だが、最後は各機で判断する」


最後は各機で判断する。


訓練ではない言葉だった。


教官が止めてくれる。


管制が切ってくれる。


安全装置が守ってくれる。


そういうものが、少しずつ剥がされていく。


私は自分の髪の内側に触れそうになって、手を止めた。


白い髪。


白い記憶。


DDSが拾った、分類不能の何か。


それを使わなければならないかもしれない。


使えば、またマーリンに近づく気がする。


でも、使わなければ、誰かが死ぬかもしれない。


どうすればいいのか。


答えは出ない。


出ないまま、時間だけが減っていく。


装備担当の軍関係者が、魔力ライフルの実物を運んできた。


訓練機用に急造した固定フレームがついている。


長く、重く、冷たい兵器。


人形の腕に取り付けるには、補助具が必要だという。


近くで見ると、図面よりずっと怖かった。


ソードは、まだ手の延長のように感じられる。


斬るもの。


近づいて使うもの。


怖いけれど、形はわかる。


ライフルは違う。


遠くから、強い魔力を束ねて撃ち出す。


その一発に、たくさんの魔力と、判断と、責任が乗る。


「発射の瞬間、狙撃役は反動制御と魔力流量管理に集中する」


将校の説明が続く。


「観測役は発射直前に最終補正を出す。迷うな。遅れれば外れる。外れれば一発を失う」


一発を失う。


撃てるのは二発まで。


外していい数なんて、ない。


「ただし、無理な射撃は禁止だ。弾頭へ当たりそうな角度なら撃つな。狙撃役が撃とうとしても、観測役は止めろ」


私はシュヴァルベ様を見た。


シュヴァルベ様が撃とうとしても、私が止める。


そんなことができるだろうか。


「ローレさん」


シュヴァルベ様が、私の視線に気づいた。


「あなたが止めてください」


「私が、シュヴァルベ様をですか」


「はい。私が撃つべきではない角度で撃とうとしたら、止めるのが観測役の役目です」


「でも」


「命令です」


短い言葉。


隊長の声。


でも、冷たくはない。


「私はあなたを信じます。あなたも、観測役として自分の判断を信じてください」


自分の判断。


一番苦手なものが来た。


私は自分を信じるのが下手だ。


役に立てるかどうかでしか、自分の居場所を測れない。


その上、自分の中にはマーリンの記憶がある。


どれが私の判断で、どれが記憶の癖なのかもわからない時がある。


それを信じろと言われても、足元がぐらぐらする。


でも、シュヴァルベ様は私を見ている。


マーリンではなく。


たぶん、私を。


「……努力します」


「はい」


「もし、私が怖くなって黙ったら」


「呼びます」


すぐ返ってきた。


「ローレさん、と」


胸が少しだけ詰まる。


「その声なら、戻れる気がします」


「戻してください」


「はい」


私の役目は、シュヴァルベ様を見ること。


そして、私自身も戻ること。


戦いに飲まれないこと。


マーリンの記憶に全部を渡さないこと。


「全体の流れを確認する」


将校が投影盤を切り替えた。


赤いミサイル軌道。


青い防衛網。


緑の正規部隊予定進路。


そして、私たち学生機の白い線。


「作戦空域は、最終防衛ラインの外側。第一防衛網の射程端に沿って展開する。正規部隊が先行して迎撃を行う。抜けた弾体に対し、学生機が補助を行う」


白い線は、赤い線と直接交差していなかった。


少し外側から、押し込むような形だ。


「目的は、ミサイルを防衛網の射線へ入れること。無理に単独撃破を狙うな。狙撃は、誘導部や姿勢制御部を狙い、回避能力を奪うために使う」


「もし、防衛網へ押し込めなかった場合は」


ダッソーさんが聞いた。


声は落ち着いていた。


でも、緊張が見える。


将校は一瞬だけ黙った。


「最終迎撃に移る。近接による推進部破壊、ソードによる姿勢制御部切断も選択肢に入る」


近接。


ソード。


戦略級反応ミサイルに近づく。


喉が乾く。


「ただし、最終手段だ。生還率は低い」


その言葉で、何人かが顔を伏せた。


生還率。


低い。


はっきり言われると、身体が冷える。


でも、嘘よりいいのかもしれない。


大丈夫です、きっと助かります、と言われる方が、今は怖い。


「だからこそ、最終防衛ラインの外で止める。残骸が落ちても、王都への被害を最小にする」


最小。


完全には防げないかもしれない。


でも、少なくする。


死ぬ人を減らす。


壊れる場所を減らす。


そういう戦い。


私は唇を噛みそうになって、やめた。


痛みで誤魔化しても、何も変わらない。


「セスナ教官」


シュヴァルベ様が言った。


「訓練機の個体差と整備状態は」


セスナ教官が端末を見た。


「第一小隊の機体は全機稼働可能。ライフル搭載機は一番機、三番機、四番機、予備として五番機。ただし五番機は中衛維持を優先。八番機は観測機能を強化する。外部魔力供給ポートは使用可能だが、空中補給は期待するな」


八番機。


私の機体。


観測機能を強化。


「八番機の武装は」


「ソードのみ。ライフルは持たせない」


セスナ教官が私を見た。


「プラットは撃つな。見ろ」


「はい、セスナ教官」


少しだけ、ほっとした。


撃たなくていい。


でも、すぐに重さが戻る。


見るだけでも、責任は軽くない。


「ユンカース」


セスナ教官が続ける。


「一番機はライフル搭載で機動が落ちる。直衛と観測を過信するな」


「はい、セスナ教官」


「グラマン」


「はい、セスナ教官」


「撃った後に前へ出るな。サーブの指示を聞け」


「はい、セスナ教官」


「サーブ」


「はい、セスナ教官」


「グラマンを戻せ」


「はい、セスナ教官」


「ヒースロー」


「はい、セスナ教官」


「全体監視で無理に抱え込むな。情報を分配しろ」


「はい、セスナ教官」


次々に指示が飛ぶ。


短い。


けれど、必要なことだけが刺さっていく。


「ブレゲ、魔力温存。ピラタス、追撃癖に注意。ダッソー、ユンカースの前に出るな。直衛は盾ではなく、目だ」


それぞれが返事をする。


「はい、セスナ教官」


その声が重なる。


隊らしくなっていく。


本当に戦いに行くのだと、何度も思い知らされる。


説明が進むほど、私の心は重くなった。


でも、不思議なことに、最初よりは少しだけ形が見えていた。


ただ死が近づいてくるだけではない。


やることがある。


作戦空域まで移動する。


二機一組で展開する。


狙撃役と観測役。


弾頭を避け、推進部、誘導部、姿勢制御部を狙う。


防衛網の射線へ誘導する。


魔力切れに注意する。


二発まで。


冷却。


退避。


戻る。


一つずつ並べると、怖さは消えないけれど、手で触れる形になる。


怖いものは、形がない時が一番大きい。


形があると、まだ少し見られる。


それでも、赤い線は怖い。


二十本。


王都へ向かっている。


「ローレ、大丈夫?」


ミリアが小声で聞いた。


「大丈夫ではありません」


「うん」


「でも、聞いています」


「それで十分」


ミリアも、シュヴァルベ様と同じようなことを言った。


十分。


みんな、私に甘いのではないだろうか。


いや、違う。


今は完璧を求めている場合ではない。


怖くても聞く。


震えていても立つ。


それだけで、たぶん精一杯なのだ。


トムが少し振り返った。


「ローレ、ユンカース様の観測、頼むな」


「はい」


「俺はミリアに怒られながら撃つ」


「怒られる前提なのですね」


「怒られないと戻れない気がする」


ミリアが呆れた顔をした。


「トム、最初から戻るつもりで動きなさい」


「はい」


そのやり取りで、ほんの少しだけ空気が緩む。


でも、その緩みはすぐ消えた。


作戦将校が最後の説明に入ったからだ。


「出撃までの時間は短い。各機は搭乗準備へ移れ。武装装着は整備班の指示に従う。魔力ライフル搭載機は、発射手順を短縮訓練で確認する」


短縮訓練。


実戦前の、ほんの短い確認。


それだけで空へ上がる。


「通信回線は第一、第二、緊急の三系統。DDSの影響でノイズが入る可能性がある。聞こえない場合は、事前に決めた光信号と機動合図を使う」


通信が切れる可能性。


また怖いものが増えた。


「敵ミサイルの自律誘導は、こちらの接近に反応する。狙撃前に急な回避運動を行う可能性が高い。観測役は、照準補正を最後まで続けろ」


最後まで。


「迷うな。だが、無理なら撃つな」


矛盾みたいな言葉。


でも、戦いはたぶん矛盾だらけだ。


急げ。


でも焦るな。


撃て。


でも無理なら撃つな。


戦え。


でも戻れ。


私はその全部を抱えなければならない。


抱えきれるだろうか。


わからない。


「以上だ」


将校が言った。


「これより作戦準備に入る」


グラウンドの空気が動いた。


整備員たちが走り出す。


魔力ライフルを運ぶ音。


補助フレームの金属音。


訓練機の起動準備。


遠くで警報が短く鳴る。


誰かが泣きそうな声で返事をしている。


誰かが笑おうとして失敗している。


私は動き出す前に、もう一度投影盤を見た。


赤い軌道。


青い防衛網。


白い私たちの進路。


王都へ向かう死。


それを止めに行く、学生の線。


細い。


あまりにも細い。


でも、そこに線はある。


「ローレさん」


シュヴァルベ様が隣に来た。


「はい、シュヴァルベ様」


「私たちは一組です」


「はい」


「私が撃ちます。あなたが見ます」


「はい」


「怖ければ、怖いと言ってください。沈黙しないでください」


「……はい」


私は頷いた。


「シュヴァルベ様も」


「私も?」


「無理をする時は、教えてください」


シュヴァルベ様が少しだけ目を見開いた。


それから、ほんの少し笑った。


「それは、私が無理をすると決めつけていますか」


「少し」


言ってから、しまったと思った。


でも、シュヴァルベ様は怒らなかった。


「では、あなたが止めてください」


「はい」


今度は、少しだけ強く言えた。


私はシュヴァルベ様を止める。


撃つべきでない時は止める。


戻る道を見る。


怖くても、黙らない。


それが私の役目。


私の、ローレッタとしての役目。


マーリンの記憶が何を言っても。


DDSが何を拾っても。


私は私の声で伝える。


「行きましょう」


シュヴァルベ様が言った。


「はい」


私は空を見上げた。


白いシャトルの筋は、まだ遠くへ伸びている。


その反対側から、見えない赤い線が近づいている。


王都壊滅までの時間は、減り続けている。


怖い。


死にたくない。


戦いたくない。


でも、守りたい。


その全部を抱えたまま、私は作戦開始へ向けて歩き出した。

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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