初めての都会で
ご覧いただきありがとうございます。
(はぁ!やっと着いたー!)
旅客ターミナルから出た私は、目の前に広がる光景に思わず立ち止まる。
目を細めてそびえ立つビル群を見上げた。
(うわぁ、高い建物...)
初めて実際に見た高層ビルの高さに驚いていたその時、ドンッ!と後ろからの強い衝撃で私の身体は前のめりになった。
「きゃっ!」
「おっと。」
そして、そのまま前に倒れる。
「うわわっ!」
幸い唯一の持ち物のトランクが私を守ってくれたから、固いコンクリートの地面に脚を打ち付けることはなかった。
「いっつ...ごめんなさい。こんなところで、ぼんやりして...」
私が四つん這いの状態で謝罪をしながら後ろを振り返ろうとしていると。
「申し訳ありません。お怪我はありませんか?」
声の降ってきた方向を見上げる。
するとそこにいたのは、歳は私よりも少し上だろうか。
ライトブルーの瞳が特徴的な美しい青年が手を差し出して立っていた。
「いえ、こちらこそ、申し訳ありませんでした。往来の真ん中でぼんやりとしていたものですから」
(なんて綺麗な男性なんだろう)
そう言って差し出された手を見つめると、視線のすぐ下には私のスカート。
「!!」
(わわわっ!)
私は急いでトランクの上に座り込んで両手でスカートの端を押さえた。
(見えてない、よね?ね?)
少し熱っぽい頬をおさえ、改めて差し出されている手を見つめる。すぐにその手を取った。
その瞬間。
ドクン!
(嫌、何かわからないけど。とにかく嫌。)
感じたのは、動悸、それと何かぞわっとした悪寒のようなもの。
そして、同時に自分でも信じられないほどの嫌悪感をこの美青年にいだいていることに驚いた。
私は自分の感情に目を剥いた。
この美青年とは初対面、ましてや私は男性恐怖症でもない。
そこまで社交性のある方でもないけれど。
とにかく、今すぐにでもこの手をどうにかしたい。
いや待て。すでに私は手を取ってしまっている。振り払うのは不自然だ。
そう思った私はすぐに立ち上がって、握られた手を放そうとした。
けれど、美青年は怖いくらいに穏やかに微笑んだまま、まったく私の手を放そうとしない。
それどころか手を引いてもビクともしない。
不快と不安が心を襲う。
(嫌!どうしてこんなことするの!?お願い!手を放してよ!)
怖い。と思ったその時、声がかけられた。
「…ブラエル様!」
ーー助かった。
「申し訳ありませんでした。では、僕はこれで。」
ややあって、美青年は呼びにきたお付きの人に連れられて人波に消えていった。
その後ろ姿が見えなくなった瞬間、私は大きく息を吐く。
時間にしてほんの僅かなのことだったけれど、暑くもないのに私はひどく汗をかいていた。
もしも、あと少しでも、手を握られていたら・・・。
私、一体どうしたの?
わからない。どうしてあんな気持ちになったのか。
私が美青年に嫌悪感を抱いてしまった理由は、かなり経ってから判明することになる。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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