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大会模擬戦

ご覧いただきありがとうございます。

精密競技の結果は、控室に戻ってからも表示され続けていた。


上位。


かなり上位。


見なければいいのに、端末の端に光る順位が目に入る。


見たら緊張する。


見なくても緊張する。


つまり、どうしても緊張する。


私は耐Gスーツの手袋を何度も開いたり閉じたりした。


指先はまだ少し冷たい。


精密競技の時よりは落ち着いている。


でも、次は違う。


二人一組の模擬戦。


相手がいる。


赤い点が、ただの誘導点ではなくなる。


相手の機体が動き、こちらへ仕掛けてくる。


ソードを抜く。


判定とはいえ、斬る動きがある。


それだけで、胸の奥が冷える。


「プラットさん」


シュヴァルベ様の声がした。


私は顔を上げる。


シュヴァルベ様は、いつものようにまっすぐ立っていた。


控室の照明を受けても、その姿勢は崩れない。


周囲の視線も、ざわめきも、まるで薄い布越しに受け止めているように見える。


「状態を確認しましょう」


「はい」


私は少し息を吐いた。


「指先は少し冷たいです。呼吸は浅くありません。足は少し重いです。怖いです」


「よろしいです」


怖い、でよろしいと言われるのにも少し慣れてきた。


慣れてきたけれど、怖さが消えるわけではない。


「次の相手は、優勝候補です」


シュヴァルベ様が端末を示した。


対戦表の中で、私たちの次の相手に印がついている。


王都の別学園から出ている組。


片方は上級生。


片方は商会支援を受けて人形競技に慣れているらしい。


名前は表示されていたけれど、私にはそこまで頭に入らなかった。


優勝候補。


その四文字の方が強かった。


「速く、正確です。二機の距離維持も優れています。仕掛けは早いですが、無理な突撃はしません」


「はい」


「こちらが焦れば、崩されます」


「はい」


それは、私のことだ。


焦る。


赤い点に引っ張られる。


勝たなければと思う。


ハネダ亭。


賞金。


初回納付。


大将と女将さん。


全部が一度に胸に来る。


そこに、マーリンの感覚が混ざる。


勝てる。


落とせる。


抜けられる。


その道が見える。


見えてしまう。


「プラットさん」


シュヴァルベ様が、少しだけ声を低くした。


「勝つことは目指します」


「はい」


「ですが、勝つためにあなたが戻れなくなるなら、それは勝利ではありません」


私は手を握りかけて、やめた。


手袋の中で指を開く。


「はい」


「追わない。聞く。戻る」


「追わない。聞く。戻る」


私は繰り返した。


短い言葉。


特訓で何度も聞いた言葉。


赤い点と私の間に置く言葉。


「ユンカース様」


「はい」


「もし、私が聞けなくなったら」


言ってから、喉が詰まった。


聞けなくなる。


それは、少し怖い言葉だった。


自分で自分がいなくなるような感じがする。


「私が呼びます」


シュヴァルベ様は、すぐに答えた。


「あなたが聞こえるまで」


胸の奥が、ぎゅっとなった。


それは優しさの言葉ではない。


甘やかす言葉でもない。


ただの約束に近かった。


だから、余計に胸に落ちた。


「お願いします」


「ええ」


その返事を聞いて、私は少しだけ息を吐いた。



模擬戦区域は、精密競技の時より広かった。


重力下訓練用の空間。


安全隔壁。


周囲には観覧席と投影画面。


競技区域の上には、模擬損傷判定用のセンサーが幾重にも光っている。


大会用訓練機に乗り込むと、コクピットの丸い空間が閉じた。


全周囲モニターが起動する。


視界が、機体の外へ広がる。


手にはめるインタフェース。


耐Gスーツの圧。


呼吸。


指先。


私は一つずつ確認した。


『ユンカース。通信良好』


シュヴァルベ様の声。


『プラット。通信、良好です』


声に出すと、少しだけ軸が戻る。


『プラットさん、状態』


『指先が冷たいです。呼吸は浅くありません。視界は狭くありません。怖いです』


『了解。怖いまま、開始します』


『はい、ユンカース様』


魔力の糸を伸ばす。


機体の腕へ。


脚へ。


背部スラスターへ。


姿勢制御へ。


ソードの基部へ。


精密競技の時より、糸が少し深く入りそうになる。


模擬戦だとわかっているからかもしれない。


相手がいるから。


赤い点が、ただの点ではなくなるから。


私は糸を少し緩める。


深く入りすぎない。


待つ。


『リンク深度、規定範囲内』


大会側の機械音声が流れる。


相手機も起動している。


二機。


どちらも動きが滑らかだった。


精密競技で見た時も思ったけれど、無駄が少ない。


前衛機が少し前。


支援機が斜め後方。


距離がきれいだ。


相手も、こちらを見ている。


ユンカース侯爵家の令嬢。


聞いたことのない男爵家の令嬢。


精密競技で高得点を出した組。


そういう視線が、機体越しにも伝わってくる気がした。


「開始五秒前」


場内音声。


私は息を吐く。


「三」


指先が冷たい。


「二」


赤い表示が点灯する。


「一」


胸がきゅっと縮む。


「開始」


模擬戦が始まった。


最初、相手は動かなかった。


こちらも動かない。


いや、正確には、互いに少しずつ位置を変えている。


相手の前衛機は弧を描くように右へ流れ、支援機は距離を保ったまま高度を少し上げる。


速い。


でも、急ぎすぎていない。


正確。


しかも、こちらの反応を見る動きだった。


『プラットさん、前に出すぎないでください』


『はい』


私は機体を少し抑える。


前に行きたいわけではない。


でも、相手の線が見えると、先に潰せる角度が浮かぶ。


それが嫌だ。


浮かばないでほしい。


でも、浮かぶ。


『右へ半機分。相手前衛の誘いに乗らない』


『はい』


シュヴァルベ様が後ろから支援位置を取る。


私は機体を動かす。


半機分、右。


止まる。


相手前衛機が少し踏み込んだ。


ソードはまだ抜いていない。


距離を測っている。


こちらの足を見ている。


私がどこで動くか。


どれだけ反応するか。


相手支援機が、こちらの側面へ圧をかけるように位置を変えた。


上手い。


挟む気配だけを出して、まだ来ない。


『待ってください』


『はい』


待つ。


待つのは難しい。


相手が動いている。


先に取れる。


今なら、前衛機の左側面へ入れる。


一拍早く抜ければ、支援機の射線を外して、ソードの判定だけ当てられる。


落とせる。


違う。


落とさない。


これは模擬戦。


判定。


訓練。


私はローレッタ。


『プラットさん、呼吸』


『はい』


吸う。


吐く。


その瞬間、相手が仕掛けた。


前衛機が低く滑り込み、支援機が上から進路を縛る。


速い。


思っていたより速い。


角度も正確。


逃げ道を二つ消して、一つだけ残している。


その一つは罠。


わかる。


わかってしまう。


『左後方、下げて』


シュヴァルベ様の声。


『はい』


私は指示通りに下がる。


でも、相手前衛機の踏み込みが鋭い。


ソードが抜かれる。


刃の光が走る。


判定距離に入る。


胸が冷えた。


赤い警告ではない。


でも、赤い判定線がモニターに走る。


避ける。


最短で。


違う。


指示を聞く。


でも、遅い。


このままでは当たる。


私は機体を捻った。


ほんの少し。


訓練で決めた範囲を超えないように。


でも、想定より鋭く。


ソードの判定線が肩の外をかすめる。


回避成功。


観覧席が揺れた。


『プラットさん』


シュヴァルベ様の声が少し強くなる。


『勝手に追わない』


『はい』


追っていない。


まだ追っていない。


でも、追えた。


その感覚が、指先に残っている。


相手の前衛機はすぐに離れた。


支援機が距離を詰め、二機で再び形を作る。


速い。


正確。


連携もいい。


優勝候補。


その言葉が、今さら重くなる。


このまま押される。


負けるかもしれない。


賞金。


ハネダ亭。


大将の声。


女将さんの手。


立ち退きの書類。


白くて冷たい紙。


初回納付。


時間を稼がないと。


何かしないと。


私が。


私が何とかしないと。


その瞬間、胸の奥で、別の感覚が開いた。


黒い宇宙。


赤い警告。


敵機の線。


速度。


角度。


死角。


落とす順番。


前衛機は誘い。


支援機の方が厄介。


なら、前衛の踏み込みを半歩ずらし、支援機の上を取る。


ソードを抜くのは遅くていい。


相手の刃を置き去りにして、背後へ抜ける。


できる。


できる。


できる。


指先が熱くなる。


冷たかったはずの指が、糸を欲しがる。


もっと深く。


もっと速く。


機体の奥へ。


身体が前へ出そうになる。


『プラットさん』


声がした。


遠い。


まだ行ける。


この角度なら勝てる。


相手の次の動きも見える。


支援機が上、前衛機が左下。


なら、右上へ抜けて反転。


白い軌跡。


違う。


白い?


『プラットさん、戻って』


シュヴァルベ様の声。


さっきより近い。


でも、指先はまだ動こうとしている。


勝たなきゃ。


ハネダ亭を守らなきゃ。


私が役に立たなきゃ。


『ローレッタ=プラット』


名前。


フルネーム。


胸の真ん中に、声が落ちた。


『あなたは、ローレッタ=プラット。私の声を聞いてください』


その瞬間、息が戻った。


本当に、落ちた。


胸の奥へ。


黒い宇宙の中に、まっすぐな声が一本入った。


恐怖は消えない。


緊張も消えない。


ハネダ亭のことも、賞金のことも、全部そこにある。


でも、それ以上に、声があった。


シュヴァルベ様の声。


二週間、何度も聞いた声。


待って。


追わない。


戻って。


怖いまま。


頼ってください。


私は一人ではない。


『……聞こえています』


声が震えた。


でも、出た。


『ユンカース様、聞こえています』


『よろしいです。私を頼って』


『はい』


機体の動きが変わった。


それは、マーリンの感覚を全部押し込めた動きではなかった。


完全に消すことはできない。


でも、飲まれるのではなく、声に乗せる。


シュヴァルベ様の指示を中心に置く。


私はその周りに糸を流した。


『相手前衛が来ます。左へ誘います』


『はい』


『追わずに半歩下げる。そこで停止』


『はい』


相手前衛機が踏み込む。


私は下がる。


逃げすぎない。


止まる。


相手のソードが空を切る。


『今、右上』


『はい』


機体が右上へ滑る。


急旋回ではない。


弧を描く。


負荷が胸にかかる。


耐Gスーツが身体を締める。


息が詰まりかける。


でも、範囲内。


『苦しいです。続行できます』


『了解。短く行きます』


シュヴァルベ様が、支援機の進路を塞ぐ位置へ入る。


攻撃ではない。


ただ、相手支援機が最短で戻る線を消す。


見事だった。


派手ではない。


でも、相手の連携が一瞬だけ切れる。


その隙間を、私は見る。


『プラットさん、判定を取りに行きます。前衛機の背後、肩口。深追いしない』


『はい』


深追いしない。


ソードを抜く。


刃に薄く魔力を流す。


大会用の判定光が走る。


私は機体を前へ出した。


速くしすぎない。


相手の背後へ、半円を描くように。


前衛機が振り返る。


遅い。


落とせる。


違う。


判定を取る。


それだけ。


私はソードを置くように動かした。


肩口。


判定光。


命中。


相手前衛機に一時停止判定。


観覧席が大きく揺れた。


『離脱』


シュヴァルベ様の声。


『はい』


私はすぐに下がる。


追わない。


倒しきろうとしない。


勝ちに行くけれど、飲まれない。


相手支援機が単独で仕掛けてきた。


焦りではない。


切り替えが早い。


さすが優勝候補。


高度を上げ、こちらの背後を狙う。


『上方、来ます』


『見えています』


『プラットさんは右下。私は支援機を外へ押します』


『はい』


シュヴァルベ様が動く。


シュヴァルベ様の機体は、私より派手ではない。


でも、姿勢が乱れない。


支援機として、相手の進路を少しずつ狭める。


まるで、見えない壁を作るように。


私はその壁の内側で動く。


右下へ。


相手支援機が追う。


私は逃げすぎない。


追わせる。


怖い。


追われるのは怖い。


でも、声がある。


『そのまま。まだ』


『はい』


『まだ』


『はい』


『今、反転。小さく』


反転。


急旋回ではなく、弧を描く。


胸に負荷。


息が詰まる。


でも、糸は切れない。


私は機体を返し、相手支援機の側面へ出た。


ソードの判定距離。


相手も反応する。


速い。


でも、シュヴァルベ様が進路を一つ消している。


相手は避けられる方向が限られている。


『判定、左腕』


『はい』


私はソードを振った。


大きく斬るのではない。


置く。


触れる。


判定光。


命中。


相手支援機、行動制限判定。


場内音声が響いた。


「勝者、ユンカース・プラット組」


一瞬、何も聞こえなくなった。


勝った。


模擬戦で。


優勝候補に。


派手な勝利ではなかった。


相手を圧倒したわけではない。


紙一重。


シュヴァルベ様が相手の線を消して、私が必要な場所へ動いた。


それだけ。


でも、それで勝った。


歓声が遅れて押し寄せる。


私はコクピットの中で、手を開いた。


指先が震えている。


『プラットさん、状態』


シュヴァルベ様の声。


私は息を吸った。


『指先が震えています。呼吸は浅いです。視界は狭くありません。……怖かったです』


『了解。帰投します』


『はい』


勝利のあとでも、帰投までが訓練。


私はその言葉を思い出した。



指定位置へ戻る。


機体を止める。


リンクを切る。


糸が抜ける。


その瞬間、身体の力も抜けそうになった。


でも、椅子に預けるだけで済んだ。


倒れてはいない。


戻れた。


一人では、戻れなかった。


そのことだけは、はっきりわかった。


機体から降りると、整備床の照明がまぶしかった。


歓声はまだ続いている。


投影画面には、私たちの勝利表示。


精密競技の得点と、模擬戦の勝利点。


総合順位。


一位。


私はそれを見て、すぐには反応できなかった。


一位。


優勝。


賞金。


ハネダ亭。


全部が繋がるまでに、少し時間がかかった。


「ローレ!」


観覧席の近くから、ミリアの声が聞こえた気がした。


トムの声も。


セシリアさんの姿も見えた。


遠くで手を胸元に当てている。


みんながいる。


大将と女将さんは店があるから来られない。


でも、あとで伝えられる。


勝った、と。


ただ、それを考える前に、私は隣を見た。


シュヴァルベ様が機体から降りてくる。


耐Gスーツ姿のまま、背筋は乱れていない。


でも、少しだけ息が深い。


戦っていたのは、私だけではない。


支えていたのも、戦いだ。


「ユンカース様」


声がかすれた。


「はい」


「私、一人では戻れませんでした」


言うと、胸が痛かった。


勝ったのに。


嬉しいはずなのに。


自分の弱さを認めるのは、まだ少し怖い。


「はい」


シュヴァルベ様は否定しなかった。


「でも、戻りました」


「ユンカース様が呼んでくださったからです」


「あなたが聞いたからです」


私は目を瞬いた。


「聞けたのは、ユンカース様だったからです」


それは、自然に出た言葉だった。


飾っていない。


礼儀のためでもない。


本当に、そう思った。


シュヴァルベ様の声だったから、胸に落ちた。


二週間、何度も聞いた声だったから。


怖いと言っても否定されなかった声。


待てと言ってくれた声。


戻れと言ってくれた声。


頼れと言ってくれた声。


その積み重ねがあったから、あの黒い感覚の中でも、私は聞けた。


「ありがとうございます、ユンカース様」


私は頭を下げた。


深くしすぎないように。


でも、きちんと。


「こちらこそ」


シュヴァルベ様は静かに言った。


「あなたが頼ってくれたから、勝てました」


頼ってくれたから。


その言葉が、胸の奥でゆっくり温かくなる。


私が役に立ったからではなく。


私が壊れずに戻ったから。


一緒に勝ったから。


そう聞こえた。


私は目を伏せた。


少し泣きそうになった。


でも、泣く場所ではない。


表彰式がある。


歓声がある。


光がある。


そして、私は目立っている。


かなり目立っている。


逃げたい。


でも、隣にはシュヴァルベ様がいた。



表彰式の台は、やたらと高かった。


たぶん実際にはそれほど高くない。


でも、私にはとても高く見えた。


観覧席の視線が集まる。


投影画面に名前が出る。


シュヴァルベ=ユンカース。


ローレッタ=プラット。


優勝。


歓声。


拍手。


明るい光。


司会の声。


私は立っているだけで、少し足元がふわふわした。


目立っている。


目立っている。


とても目立っている。


目立ちたくない私が、表彰台の上にいる。


人生はときどき、なぜそんなところへ連れていくのですか、と聞きたくなる。


でも、隣にはシュヴァルベ様がいた。


堂々としている。


背筋を伸ばし、視線を受け止めている。


その姿を見ると、少しだけ落ち着いた。


私が全部の視線を受けなくていい。


隣にいる人が、まっすぐ立っている。


私はその隣で、息をする。


それでいい。


賞状と賞金目録が渡される。


手袋を外した指先に、紙の感触があった。


軽い。


でも、重い。


これで全部が解決するわけではない。


ハネダ亭の問題は、まだ終わっていない。


契約書も、異議申し立ても、相手の計算根拠も、まだこれからだ。


でも、時間を稼ぐ一歩になる。


何もしないままではなくなった。


私は一人で抱え込まなかった。


誰かに頼った。


その上で、ここまで来た。


拍手の中で、私は少しだけ目を閉じた。


コクピットの中の黒い感覚を思い出す。


マーリンの感覚。


前に出かけた、私ではない誰かの戦場。


それに飲まれたら、私は勝っていなかった。


たぶん、強かったかもしれない。


速かったかもしれない。


でも、それは私の勝利ではない。


私を戻してくれた声があった。


私はそれを聞いた。


だから、ここに立っている。


「プラットさん」


隣から小さな声。


私は目を開けた。


「はい、ユンカース様」


「顔が少し固いです」


「かなり固いです」


「呼吸を」


「はい」


私は小さく息を吐いた。


吸う。


拍手の音が少し遠くなる。


光はまだまぶしい。


視線もまだ多い。


でも、隣にシュヴァルベ様がいる。


それだけで、不思議なくらい安心した。


急に芽生えたものではない。


訓練のたびに、怖いと言った。


待てと言われた。


戻れと言われた。


砂糖菓子をもらった。


水を飲んだ。


ハネダ亭の話をした。


一つずつ積み重なったものが、ここで静かに形になっている。


私は、シュヴァルベ様を信じている。


そのことを、表彰台の光の中で、はっきり感じた。


怖さは消えない。


これからの問題も消えない。


でも、私はもう、一人で全部を抱えて歩くしかないとは思えなかった。


賞金目録を胸の前で持つ。


ハネダ亭の暖簾を思い浮かべる。


大将。


女将さん。


勝ちました。


心の中でそう言うと、胸が少し熱くなった。


隣で、シュヴァルベ様がまっすぐ前を向いている。


私はその隣で、少しだけ背筋を伸ばした。

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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