約束
ご覧いただきありがとうございます。
「オペレータ...ローレッタ機の状況を。」
私の問いかけで歓声はぴたりと止む。
問いかけたオペレータのクラスメイトはなかなか答えない。
私は頭を下げ目をつぶり、ギュッと堪える。確認しなければならない。私はオペレータにもう一度確認する。
「どうしたの、早く報告を。ローレッタ機の、魔力反応は...」
皆が歓喜に沸く中でもずっとうつむいていたオペレータは、はっとしたように顔を上げた。
オペレータは時折声を詰まらせながら報告する。
「ぁ、すみません。すぐに、確認します。あ、う、...ロ...ローレッタ機...の魔力反応は、う...。」
「ローレの、魔力の反応は…、グズ、うく…ううぅ!ごめんなさい。ローレは...ローレ...!うくっ!」
オペレータは最後まで私達の問いに答えてくれなかった。俯いて堪えるように口元を塞いでしまった。でも、それで分かる。それの意味するところが。
(反応、ロスト…)
彼女が最後まで答えられなかったのは無理もない。私達はよく知っている。いつも見ていたから二人の姿を。オペレータの彼女はローレッタと一緒にいることが多かった。教室ではいつも一緒に笑っていた。
そして。ずっと見ていたのだ。ローレッタ機の、ローレッタの状態をずっと。
たとえ、辛くても。それが彼女の仕事だから。
彼女の咽び泣く声が響きその悲しみは徐々に広がってゆく。
でも、それでも、私も彼女もここでただ悲しみに暮れているわけにはいかない。
『全部終わったら迎えに来てくださいね。』
最後にローレッタが見せた笑顔、苦痛に歪む笑顔が瞼の裏によみがえる。
私達は約束を守らなくてはならない。
顔を上げる。目元を擦る。私も彼女もまだ、仕事が残っている。
「オペレータ!ローレッタ機のロスト地点を報告!」
「グズッ…北東20キロ地点!」
迎えに行く!ローレッタと約束したのだ!
皆に告げる。
「ユンカース隊各員!聞け!新しい作戦を伝える!」
「…全員でなくてもいい。飛べる者だけでいい!我に続け!これよりローレッタ機の、ローレの救出に向かう!」
「「「了解!」」」
(ローレ、待ってて!すぐに迎えに行くから!)
◇
「あった!あそこ!」
ローレッタの人形はすぐに見つかった。ミリアが見つけた。
場所は人里からすこし離れた山の中だった。周りには人家もない。民間人への被害はないだろう。
墜落した人形が最初に激突したと思われる地面はひどく抉れ、木々はなぎ倒されていた。
「…酷い...あれ...ほんとに…人形...?」
「...あれじゃ。もう...」
隊の誰かが言った。
人形は原型をとどめていなかった。周囲にはバラバラになった人形の残骸が散乱していた。
残骸の中には辛うじてそれが胴体部、ローレッタが乗っていたコクピットブロックであると何とか特定できる、というほどまでに破壊されていた。
モニター越しに広がる光景に手が震えた。
息を大きく吸って止めようとしたけれど震えが止まらない。胸が締め付けられる。鼻の奥がツンとする。勝手に視界が滲む。
何か喋ろうとしてすぐにマイクをオフにした。私は隊長だ。こんな無様な声を聞かせるわけにはいかない。
言葉が…出せない。何か喋ろうとしてもヒクヒクと喉が痙攣して変な音しか出てこない。みんなが私の言葉を待っている。指示を出さないといけないのに。早くローレッタを迎えに行かないといけないのに。
誰もがこの惨状に打ちひしがれる。
「俺が行く!コクピットブロックは残ってる!外部ポートからハッチを開く!」
そんな中、いち早く動いたのはトムだ。着陸するとすぐに人形から飛び出してローレッタ機の残骸の一つに飛び移った。外部から魔力を供給してコクピットのハッチを開くつもりなのだ。
しかし。
「くそっ!まだ熱い!ダメだ!溶けた装甲が塞いでいる!魔力ポートにアクセスできない!くそ!おい!ローレ!生きてるか!返事しろ!俺だ!トムだ!」
それが不可能だと分かったトムは叫びながらハッチの装甲板を力任せに叩く。
「ローレ!聞こえる?私、ミリアだよ!!お願い!返事をして!!」
ミリアが飛び出す。2人は何度も何度もまだ熱い装甲板を叩き、顔を近づけて中の音を聞こうとする。
手や顔が火傷することもいとわない。彼らはまだ諦めていないのだ。
トムとミリアの行動に勇気付けられる。
そうだ、決まったわけじゃない。諦めたらダメだ!二人を見習え。
動け、動け。私の身体!私が一番何もしていない!
私はマイクをオンにする。そして、声を張った。
「ふたりとも!そこをどいて!」
私は人形でコクピットハッチと思われる塊を掴む。
そして、渾身の魔力を込めて力任せにそれを引っ張る。けれど、溶融した装甲同士が張り付きなかなかハッチは外れない。ギギギ...と金属の軋む音が響く。
(ぐっ!外れないなら!こうするまで!)
更に魔力を込める。私の人形が淡く光り出す。少しずつ掴んだ装甲が浮き上がってくる。
「行けるぞ!そのまま引っ張れ!」
「シュヴァルベ様!頑張って!あと少しだよ!」
装甲もろとも力任せにハッチを引きちぎった。
私はもどかしくインターフェースを取り払うと、コクピットを飛び出す。急いでローレッタの元に向かった。
「ローレッタ!」
ローレッタはシートにぐったりと横たわっていた。目立った外傷はないように見えた。
身体の固定具を外し優しく抱き起すと声をかける。
「ローレ!しっかりして!お願い!目を開けて!」
私の問いかけにローレッタは。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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