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私の本性

ご覧いただきありがとうございます。

「全ミサイル...破壊を確認...作戦は、成功…です…」


オペレータ担当のクラスメイトが作戦の成功を告げた。

その瞬間、固唾を飲んで様子を見守っていたみんなは湧き上がった。


「よっしゃぁぁ!ローレがやったぜ!」

「やった!ローレがやったのね!」


通信ウィンドウの中のトムがガッツポーズをしながら。ミリアが飛び跳ねるように声を上げる。

みんなの歓声が聞こえる。


私たちは勝った。

こんな到底無理だと。無理やりにでもうまくいくと思わなければすぐに心が折れてしまいそうになる作戦に私たちは勝ったのだ。王都は救われたのだと。


しかし、扉一枚(コクピットハッチ)隔てたすぐそこから聞こえているはずのその歓声は、私にはひどく遠いものに感じた。ぽっかりとできた暗闇の中に自分だけが取り残されたように感じていた。


私の中には大切なものを失った喪失感しかなかった。

遠くに聞こえる声は、この場に居ない彼女を称える声だった。


私は。彼女(ローレッタ)を止められなかった。


私、シュヴァルベ=ユンカースは隊を率いる長として・・・長として。彼女にもっと強く言うべきだったのだ。


(いや、違う。違うわね。長としてだなんて、見当違いもいいところだわ。)


私は個人として、やめてくれと。行かないでと。この身を挺してでも彼女を、ローレッタを止めたかった。

でも、私は彼女を行かせた。


彼女はもしかしたら・・・、彼女は。



私はシュヴァルベ=ユンカース。

ユンカース侯爵家の令嬢。王国の貴族令嬢の模範と言われることも多い。


私がローレッタを気にかけるようになったのは、彼女のある一言が原因だった。


(この学園に入ったのに、軍人にならない?適当に卒業すればいい?)


間違ってる。そんなのが正しいはずがない。間違った考えは改めてもらわねばならない。


(私がこの子を一人前の人形使いに、国に仕える貴族として教え導いていかねばならない。)


それはただの義務感だった。ユンカース侯爵家の令嬢として下位の者を導く。ただ単に私が小さなころから教えられていることだけの事だったのだ。


そんなことを思ったのがきっかけだった。

だから私はローレッタを気にかけ、なるべく傍に置くように心がけた。


そうして接し始めたローレッタはとても奇妙だった。

貴族としての知識は問題ない。にもかかわらずそれが全く身についていないのである。

最低限の所作ですらできていない。頭ではわかっているのに実際にやらせるとまったくできないのだ。


知識と身体が一致していないとでもいうのか。私は頭を抱えた。

長い戦いになると思った。学園にいる間で足りるだろうか?正直心配になった。


でも、ローレッタはひたむきに取り組んでくれた。厳しめに指導したにもかかわらずちゃんとついて来てくれた。教えるのがとても楽しかった。

手のかかるほどかわいいとはこういうことのなのかと思った。


それは人形使いとしても同じことだった。

そんな日々が続いたある日の空間戦闘訓練での事、ローレッタの動きを見ていた私はあることに気づいた。


(あれ?)


たまたまだろうか?

もちろん最初は偶然だと思った。たまたまだと。

しかし、すぐにあれがローレッタの癖なのだということがわかった。


マニューバは十人十色だ。癖が出る。でも、あの癖は。まさしく。

それを意識してから、私の頭上で空を自由に飛び回る人形使いはローレッタではなくなった、常に()()に見えてしまうようになったのだ。


そうして頭をよぎるのは。彼女はもしかしたら・・・、彼女は。


いや、違う。そんなことがある筈はない。()()は、ずっと昔に宇宙(そら)に散ったのだから。


そう何度も思うようにした、別人だと。

だって、彼女はローレッタ=プラットだ。()()とは違う。見た目も何もかも違うでしょう?と。


でも、一度思ってしまったらもう駄目だった。

私は意識しなくても、気がついたらローレッタの姿を探していた、目で追っていた。

ローレッタの姿を見るたびに、すぐ隣で手渡したお菓子をおいしそうに食べる姿を見るたびに、これまでとは明らかに違う感情で胸が高鳴るのを感じた。


そして、ローレッタの姿が憧れのマーリンと重なるようになった。

手を伸ばせば触れることが出来る、すぐ傍にマーリンが居るのだ。マーリンの傍に居られる。


でも、ふと時折聞こえてくる。もう一人の私が酷く冷たい目で、浮かれた私を見下している。

その目は告げる。


ーわかっているのでしょう?お前がローレにまとわりついているせいで、どんな目にあっているのか。ー


ーユンカース侯爵家の令嬢として、下位の者を導く?お前が?笑わせないでくださる?ー


ーなんて酷い。なんて最低な人間なのかしら?お前は。身代わりのローレがかわいそうー。


私はその視線や声から逃げようと目をそらし耳を塞ぐ。


(やめろ!やめて!言うな!言わないで!聞きたくない!そんなことは考えたくない!)


目の前の彼女はローレッタであると分かっているのに、私の瞳はローレッタの姿を映していない。

彼女の存在を無視して、勝手な思い込みで彼女の姿を見ている。

彼女の存在を心の拠り所にしてしまっている。


(どうしたら、彼女をもう一度ローレッタとして見ることができるだろうか。)


それが私の本性だ。みんなが思っているような人間ではない。

当然ローレッタにも言っていない。そんなこと言えるわけがない。

もし、そんなことがバレてローレッタが私の元から離れたら、ローレッタを失ったら、間違いなく私の心は壊れてしまう。


だが、その感情は、気持ちは置いておかねばならない。今はユンカース隊の長として振る舞うときだ。壊れている場合じゃない。確認しなければならない。マーリンではなくローレッタの無事を。

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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