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人間の戦い

ご覧いただきありがとうございます。

人形は各部をオーバーロード状態(過負荷状態)にさせることで、設計上の性能を超えさせることが出来る。それは専用機(パーソナルパペット)を軽く凌駕するほどだ。

これは裏技。諸刃の剣である。


設計上の性能を大きく越えさせるわけだから、当然、人形への負荷は計り知れない。

最悪、ミサイルに追いつく前に人形が爆散するかもしれない。でも、私にはこれしか方法がない。

みんなみたいに狙撃で撃ち落とすなんて無理だから。


そしてかかる負荷は、人形だけに限った話ではない。すなわち。


「くぅぅ…!知ってた以上に、これは...効く。よね…」


スラスターをオーバーロードさせたことで急加速した人形。モニターに映る景色が。雲が物凄い速さで後方に流れてゆく。

かかるGに私の身体は悲鳴を上げる。骨が軋み、内臓が押し潰されるような感覚が身体を襲う。


「うぷっ!」


わかっていたけど、あまり時間がないみたいだ。

シュヴァルベ様との訓練で身体を鍛えたといっても、この身体(ローレッタ)はこんな高いGに慣れていない。

耐Gスーツを着ていても、この域では気休めにもならない。こんな速度域での使用は想定されていないのだ。


奥の方から込み上げたものを喉のあたりでぐっと抑え込む。それでも抑えきれなかったものが口の中に広がる。しょっぱい。鉄棒のにおいだ。血の味がする。恐怖でギュッとをつぶる。


(だめ!想像したらダメ。魔力が弱くなっちゃう!)


「ふう、んく...!」


心を落ち着かせて目を開く。視界の端が暗い。血が行ってないのだ。

でも、だからどうした。本番はこれからだ。


(追いついた!まずは!1機目!)


標準武装のソードをミサイルのブースターに振り下ろす。

ブースターの推力を失ったミサイルは降下しながら後方に消えていく。


(よし!次、20メートル直上!2機目!)


急な上昇を行えば、それだけ高い負荷がかかる。


「ぐうぅ…!」


意識が遠くなる。視界がぐるりと回る。


ぼんやりと見える警告ウィンドウにわずかに読める文字が表示されビープ音が鳴る。人形、私の身体にかかるGの警告。スラスターの状態異常。空力加熱。魔力量。その他もろもろ・・・。とにかくたくさん表示されてる!


2機目のブースターをすれ違いざまに切り落とす。

3機、4機と続けざまにブースターを切り落とす。


よし!いける!と思ったその時だった。5機目に向かおうと急旋回を行うと同時にソードのブレードが砕け散った。熱で脆くなっていたのだ。

そして無視し続けた警告の通り、空力加熱で人形の表面温度が急上昇し装甲の融解が始まる。

時間がない!なのに!


ソードの予備はない。ならどうする。


(武器がなければ、こうするんだよ!)


旋回してミサイルに体当たりするように急接近した私は勢いのまま人形の左拳をブースターに叩き込んだ。

拳がめり込み表面に穴をあける。あけた穴から勢いよく何かが噴き出した。


(まずいっ!当たり所が悪い!緊急回避!)


それは一瞬の出来事だった。周囲にまき散らされたその何かは未だに燃焼を続けるブースターに触れ大爆発を起こした。耳をつんざくような轟音に包まれ視界が真っ白になった。


「きゃあぁ!」


反応兵器による爆発ではない。推進剤が帰化爆発を起こしたのだ。すぐに爆発から逃れたおかげで直撃は免れた。


「く!...左マニピュレータ大破。ショルダースラスター使用不能。装甲板に亀裂多数。もっと慎重にぶつけないと。次やったら、バラバラになっちゃう。」


(大丈夫。まだ右腕と両脚が残ってる。まだ生きてる。まだやれる!次はもっとうまくやればいいんだ!)


すぐに次のミサイルに向かうため魔力を込めた。しかし。このことはそんなに単純ではなかった。



「当たれ!当たれ!当たってよ!お願い!いうことを聞いて!」


(ブースターに当たらない、当たらないよぉ。さっきはできたのに!どうして!!)


左側を失った人形は機体のバランスが崩れたせいで思うようにブースターだけを捉えられない状態になった。

体当たりならできるかもと考えたがそれはダメだと考えなおす。


(本体には当てたらダメ!推進剤もダメ!...く!また、外した!)


ミサイルが落とせない。

末端の感覚がなくなってきた、身体の魔力が残り少ないのだ。私の身体の限界が近い。

それに追い打ちをかけるように突然、メインモニターから景色が消える。


【NO SIGANL】


(!?...うそ!こんな時に!どうして?!どうしよう!見えないよ?!どっちに飛べばいいの!)


「やっぱり、ダメなんだ。ローレッタじゃぁ、ダメなんだ...マーリンの真似事なんて、出来ないんだ...。ごめん。みんな。ごめんなさい...」


絶望感が私の心を支配する。


ー諦めないで。ー


その時、声が聞こえた。暖かくて優しい声だった。

その声に不思議と心が落ち着いてくる。私は問いかけた。


「え?だれ?誰なの?」


(マーリン)(ローレッタ)に言い聞かせる。


ー大丈夫、あなたならできるわ。目をつぶって。集中してごらんなさい、思い出して、あなたの記憶をー。


私は言われたと通り目をつぶって、記憶を探っていく。マーリンの記憶を。


「うん...そうか。分かったよ。マーリン。大丈夫だよね!メインカメラが、壊れただけ!まだ、やれるってことだよね!」


(要らない。視界に、センサーなんかに頼っていているから、反応が遅れるんだ!)


私は集中する。人形の身体に絡み付いた糸をさらに長く、周囲に向けて魔法の糸(触覚)を伸ばしてゆく。長く長く周囲に張り巡らせる。


ーそう、いいよ。その調子ー。


人形から長く伸びた魔法の糸が、ミサイルに触れる。


(見えた!いける!あと残り2機。このまま一気にいくよ!)


「いっけぇぇぇ!」


(ありがとう、マーリン。私は、戦うよ。最後まで。)


人形は残りのミサイルに向かって飛んでいく。青く眩い魔法の翼を広げて。

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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