緊急事態3 作戦会議
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飛行中の目標は極超音速以上で高高度以上を飛行している。
人形が戦闘機といっても、取りついて直接攻撃できるような速度、高度ではない。そんな状況下では私たちの身体が持たない。
「だから、作戦は。精密狙撃を行う。狙撃手と観測手二人で一組でチームを作る。狙撃ポイントはここ。この周囲なら、目標の残骸が地上に落ちても被害は出ないわ。」
「残骸で被害はないけれど、撃ってもいいのは目標のブースターだけ。本体に当ててはだめよ。多分当てても誘爆の危険はないだろうけど、弾頭の中身が拡散するのは極力避けたいの。それから...」
シュヴァルベ様はホロマップを広げ作戦の説明をしていく。そして。
「...作戦の大まかな流れは以上よ。ここまでで質問はあるかしら?なければ次に...。」
「ちょっとまった!銃はどうなるんだ?弾が届くようなマテリアルライフルなんてここにはないだろ?」
「それに実弾兵器じゃ、大気に影響されてこの距離の精密射撃は無理よ。」
シュヴァルベ様はトムとミリアに頷き返す。
「これから話すわ。考えがあるの。ここには、試験中のエネルギーライフルがある。それを使わせてもらうつもりよ。レーザー兵器だから大気の影響はほとんど受けない。ただし。」
シュヴァルベ様はいったん話を区切る。
「目標は高高度を極超音速で飛行している。通常の出力では目標に届かない。威力も十分とは言えない。だから発射出力は極限まで上げてある。試作品だから魔力の消費も大きい。多分、撃てるのは一人、2発まで…言うまでもなく…」
「練習機で1発も外すなってことかぁ。いやぁ、隊長はキツイこと言うなぁ。」
「そうねぇ、あんたの射撃の腕じゃ、そうでしょうね。」
トムとミリアがが明るい声で言う。みんなが少し笑う。空気が和む。
トムのいう通り私達が使える人形は練習機だ。平均的な性能が出るように調整されている。よって、狙撃に特化しているわけではない。この手の作戦には本来であれば、狙撃用の人形が使われるのだ。
「本来なら射撃専用ユニットを使うところだけど、練習機はユニットを換装ができるように作られていない。今ある装備で最善を尽くしてもらうしかないわ。それから、トム=グラマン。あなたは2番機、副隊長に任命します。」
「おぉ!俺が2番機かよ!」
「頼りにしてるぜ。トム。」
トムは皆から肩をたたかれている。和気あいあいとした雰囲気だ。
そんな中シュヴァルベ様は言いにくそうに口を開く。ミーティングを進めなくてはならない。
「...それで...」
「シュヴァルベ様。この赤い線はなんですか?」
私はそれを遮るように気持ち大きめの声で地図上の赤い線を指さした。会話が止み、皆の視線が私に集中する。
シュヴァルベ様はこれからこの線について説明するつもりだったのだ。それでこの雰囲気を壊してしまうとしても。
だって、この線を無視することはできないから。だから私が聞く。代わりに私が壊してしまう。
「これは…最終防衛ラインよ。これを超えたら…」
「...私たちの負け、ですよね。シュヴァルベ様。」
言い淀んだシュヴァルベ様の言葉をミリアが代わりに答えた。シュヴァルベ様はミリアに頷き返すとみんなの方に向き直る。
「聞いて。これはみんなにとって厳しい戦いになるわ。こんな射撃は学園の授業でも。いいえ。たぶん軍でもやらない。こんなのは、作戦とは呼べないかもしれない。だから、たとえ、失敗しても...。」
「やめましょ。やる前からそんなこと考えたくないです、私。だって私には成功するイメージしか見えてないもの。シュヴァルベ様もそうでしょ?」
「......ごめんなさい、そうね。ミリアの言う通りだわ。私にも成功するイメージしか見えてないもの。それでは、作戦の内容は以上よ。次にチーム編成を伝えます。」
そして、シュヴァルベ様は何事もなかったようにテキパキと指示を下してチームを決めていった。
「あの…私は、どうすればいいですか?」
最後まで名前が呼ばれなかった私はシュヴァルベ様に確認する。
「ローレ、あなたは私の観測手をしてもらうわ、よろしくね。」
「はい!頑張ります!」
「これより作戦を開始。各員の健闘に期待します。各機、作成ポイントに散開!」
「「「了解!」」」
人形に乗り込んだ私たちは運命をかけた作戦を開始した。
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