緊急事態2 戦友
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青く染み渡った空に、白い筋が垂直に何本も伸びてゆく。宇宙に向かって。
「ローレが行くなら、俺も行くぜ。当然だな。」
「私も!ローレが行くんだもん。当然ね。」
グラウンドにはトムとミリア、同じクラスの選抜生数名が待っていた。
「トム、ミリア。みんな。」
私は彼らに問いかけた。
「みんなの家は王都だよね?いいの?」
トムは爽やかな笑顔で答えた。
「宇宙への避難は王族、貴族が優先だよ。俺たちが逃げるにはシャトルの数も時間も足りない。どうせ死ぬなら、好きなやつと、最後まで悪あがきするさ。」
心なしかミリアに視線を送りながら。
「私も同じかな。どうせ死ぬなら、最後まで大切な家族と友達を守って死にたい。」
みんな口を揃える、どうせ死ぬなら戦うと。
私にはわからない。どうして?なんでみんな、死ぬこと前提なの?どうして戦うの?私には理解できない。
私はたとえ一人でも戦うというシュヴァルベ様についてきた、本当は戦いなんてしたくない。
出来ることなら、このまま何もせず最後の時まで・・・。
鼻で笑われたような気がした。頭の中で私の声が聞こえる。
(ふっ。それは違うよね?私は目を背けてるだけだよ。本当はわかってるでしょ?だって私なんだから。)
そんな声は無視する。聞こえないよ。聞こえない。
「でも、地下とか!王都の外に逃げれば!まだ!間に合…」
そんな私の問いに答えてくれたのはシュヴァルベ様だ。
「発射されたミサイルは戦略級の反応兵器よ。しかも、数は20機、それがすべて着弾すれば、王都は地上から消え、そこは巨大なクレータになる。」
「そのあとは、爆発で発生した粒子で星が覆われる。何100年も。そうなれば地上に恒星の光が届かず、凍り付くわ。氷の星になってしまうでしょうね。だから。」
そして、残酷な現実が突き付けられた。
「...どこに逃げようと、地上にいる限り私たちは、生きられない。」
「そんな…」
私は絶句してしまった。いや、本当はわかってる。みんな死ぬんだってことくらい。
これは…戦争じゃないのに。
「なぁ、シュヴァルベ…おっと、様。いけね…あー、もう名前で呼んでもいいよな?」
トムはシュヴァルベ様が頷いたのを確認してから続ける。がっくりと下を向く私の方を見る。
「そういうこと、生き残るにはシャトルで宇宙に上がるしかないんだよ。でも上がれないだろ?仕方がないんだよ…。」
シュヴァルベ様は下を向いたままの私を気遣ってくれる。
「ローレ、厳しいことを言ってごめんなさい。でも、時間がないの。話を進めるわね...。」
シュヴァルベ様は全員の顔が見える位置に立つと告げる。
「私はここに集まってくれた皆が共に戦ってくれると、そう理解しました。その勇気と正義に深く感謝します。ありがとう。」
「現刻をもってトム=グラマン。ミリア=サーブ…この場にいる全員をユンカース隊に編入します。」
「「「はい!」」」
私は返事をする代わりに顔をあげた。
「今から私達、ユンカース隊の作戦内容を伝えますーー。」
星を捨てるシャトルの白い筋が空に伸びてゆく。何本も。その筋はさっきよりも増えていた。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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