摸擬戦1 難易度判定
ご覧いただきありがとうございます。
模擬戦も一週間後に迫ったこの日、私たちユンカース隊はある場所に集められていた。
「おっかしいなぁ、ちょっと、一番最後の君。ユンカース隊の16番機の子。悪いんだけど、もう一度、難易度チェックしてもらえるかなぁ。」
たった今、検査を終わらせ凝り固まった身体をグーっと伸ばしていた私は、頭を傾げながら近づいて来た職員にもう一度検査機に入るように言われた。
「…はい、わかりました。」
(えぇ…また、入るの?嫌だなぁ。身体にいっぱい線をつけられるし、狭いし、暗いし、こういうの苦手なんだよね。)
私はゲンナリしながらも、きちんと返事をして出てきたばかりの検査機に戻った。
ここは、模擬戦が行われる会場。
我らユンカース隊は現在、一週間後に迫った模擬戦の難易度を決定するための検査を受けていた。
その検査も私が最後。これでユンカース隊に課せられる難易度が決定するのである。
模擬戦の難易度は難易度決定システムという、AIを使用して決定される。
DDSは人形使いの戦績や記憶、搭乗する人形の性能などを読み取り、過去のデータと照らしあわせ総合的に難易度を決定する仕組みだ。
学園の模擬戦はより実戦に近い戦いが想定されているため、過去のデータには前回の戦争のデータも使用されている。
当然、マーリンの戦闘データも含まれているということだ。
「お、出たな。どれどれ〜?ん?あれ?おっかしいなぁ。」
「やっぱり、バグかなぁ。今まで正常だったのに。おかしいなぁ、1年生の摸擬戦でこんな難易度出るわけないんだけどなぁ。」
私が検査機から出てくると、職員はまだ頭を傾げていた。
「ねぇ、君。一応聞くけど、1年生だよね?模擬戦は初めてだよね?」
こくこく。
(いったい、どうしたんだろう?)
と、頷いて肯定すると。
「そうか、そうだよね。わかった!ありがとう。検査はこれで終わりだ。お疲れ様。もう帰っていいよ。」
「ありがとうございましたー。」
「はぁ、やっと、終わったよ。っと、いけない!もうこんな時間だ!着替えの時間もあるし、急がないと!遅れちゃう!」
私はいまだに首を捻りながら遠ざかる職員に頭を下げた後、時計を見て慌てた。急いでバイト先に向かうため走り出す。私の耳に職員の声はもう聞こえなかった。
「…やっぱりバグだな…。…パラメータは、とりあえず、それっぽく手直ししておくか…。はぁ、今回の模擬戦が終わったら、開発元にシステムの修正依頼を出しておこう…また、しばらく残業かなぁ。」
職員は知らなかった。ただのバグだと思った。
プログラムを後で直せばいいと考えた。
職員は知らなかった。私の中にマーリンの記憶、経験がたっぷり詰まっていうことを。
DDSのAIがこの後、王国を揺るがす大事件を起こすということをこの時、誰も予想できなかった。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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