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救いの女神2 (25/05/10追加)

ご覧いただきありがとうございます。


ローレの秘密の続きになります。

[Schwälbchen Junkers]


扉の前に立った私はネームプレートを横目にノックしようと上げた手を途中で止めた。

勢いでここまで来たはいいが、それを目の前にして怖気づいてしまったのだ。


「・・・、んく。」


(大丈夫。この人ならきっと大丈夫だよ。)


私はそう自分に言い聞かせると、頭からかぶったブランケットの端を首元できゅっと握り直してから扉をノックした。


「...はい?どなたかしら?」


程なくして扉の向こうから聞こえてきた声には明らかな訝しみの色が感じられた。

もうすぐ消灯時間だ。普通こんな時間に部屋を訪れるような生徒はいない。

これが当たり前の反応だと分かっていても足がすくんでしまう。


私は抑え気味に扉の反対側に話しかけた。


「あ...あの…、こんな時間に申し訳ありません。ローレッタです...。」


「え?ローレ??ちょっと待ってて、すぐに開けるわ。」


開かれた扉から顔を覗かせたシュヴァルベ様は驚いた表情をしていた。


「寮監に見られるとまずいわ、とりあえず中に。」


けれど、すぐに戸口から身体を出して廊下の左右に注意を払うと何も聞かず私を部屋に招き入れてくれた。


私はシュヴァルベ様の部屋に初めて入った。


(あれ・・・?)


そこで最初に感じたのは既視感だ。

なぜなら私の部屋とほとんど変わらなかったから。調度品は必要最低限でしかもすべて学園から支給されたものを使っていたのである。


裕福な生徒のほとんどは調度品を家から持ち込んでいるとクラスメイトから聞いていたから、大侯爵家のシュヴァルベ様も間違いなく持ち込んでいると思っていたのだ。とても意外だった。


「すぐにお茶を入れるから、そこに座って待っていて。」


シュヴァルベ様はリビングのソファーに座るように言うと備え付けのキッチンでお茶の用意を始めた。


ソファーに座って待っていると、程なくしてマグカップを2つ持ってきたシュヴァルベ様は向かいの席に座った。


受け取ったマグカップからはほんのり甘い香りがした。

「いただきます」と言ってからそれを一口含むと、とてもおいしくて心がほっこりした。

このお茶に会うお菓子が欲しいところだけどもう遅い時間だから我慢する・・・。ぐすん・・・。


シュヴァルベ様はお茶を一口飲んでから私に対する疑問を投げかけた。


「それで、こんな時間にそんな格好で一体どうしたの?」


「えっと...実は...。」


見てもらったほうが早いと、ブランケットを取った私の頭を見たシュヴァルベ様は心底驚いたように目を見開く。


「あなた!?、その髪は一体どうしたの!?真っ白じゃない!?」


「…これには深い訳がありまして...。」


私は包み隠さず事のあらましを話した。


・・・


「そう...。ご両親が...。」


話を聞き終えたシュヴァルベ様は少し怒ったような表情で手に持ったマグカップを見つめていた。

その表情を見た私は頭を下げた。


「ごめんなさい!ずっとみんなを騙していたんです。...怒ってます、よね。」


シュヴァルベ様はゆっくりと首を横に振る。


「いいえ、怒ってなんかいない、ご両親の命令ならば仕方ないもの...。」


そう言って私の白い髪に手をのせると優しく撫でてくれた。


「...今まで、辛かったわね。」


とても優しい声だった。顔を上げた私にシュヴァルベ様はにっこりと微笑んだ。


「それにしても、その髪色。とても素敵よ。ローレにとってもよく似合ってる。」


「...そうでしょうか?」


私は自分の髪を摘まみ上げた。


「それで、ここに来た用件はカラーの調色だったわね。」


「はい、このカラー剤なんですけど...。魔力で調色ができるみたいなんです。でも、何度やっても思ったような色にならなくて。」


シュヴァルベ様は持ってきたカラーを受け取るとパッケージと説明書をしばらく眺めてから顔を上げた。


「・・・そうね、私が調色してもいいけれど、ローレ自身で調色できたほうがいいと思うわ。私が思うに、ローレの魔力量は問題ないし知識も十分にある。足りないのは感覚的な経験よ。手を出して。」


(手を?)


シュヴァルベ様はテーブルの上のに置いてあるメモ用紙を数枚取るとその上にカラーを数滴たらして私の手のひらの上にのせた。


肌が触れ合うくらいの位置に座り直したシュヴァルベ様は反対の手をかざすように言うと、かざした私の手の上に白磁のような美しい手が乗せられる。


「いい?手に伝わる感覚に意識を向けて。」


意識を向けろと言われたけれど、今の私はそれどころではなかった。

だって、シュヴァルベ様の綺麗な顔がすぐ近くにあるのだ。


(...なんて綺麗な人なんだろう。)


それにとても良い香りがする。シャンプーかな?

そんな人が目の前にいて同性とは言え集中できるわけがない。

シュヴァルベ様の手のひらを通して魔力が流れていく感覚が伝わる。


「ほら、できたわ。...ローレ??大丈夫?」


「は、え...?」


見とれているうちに手のひらの白い紙の上の黒い点は茶色に変化していた。


「わぁ!すごい!私の思っていた色になりました!」


「この方法が一番感覚をつかみやすいのよ。さぁ、ローレやってごらんなさい。」


そう言うとシュヴァルベ様が私から離れていく。名残惜しい。


「あう...。」


「??どうかしたの?...あ、私ったら、断りもせず!ごめんなさい!」


シュヴァルベ様は慌てて頭を下げた。

頭を下げられた私はびっくりして思いついたことを口にする。


「い、いえ!えっと...。と、とてもいい匂いがしました!!」


「え?」


「いあー!その...。どこのシャンプーかなって...、あう...。」


私は恥ずかしくて口ごもる。


「ふふふっ!」

「あははっ!」


その後、シュヴァルベ様に手取足取り魔力コントロールについて教わった私は無事にカラーの調色ができるようになった。


「シュヴァルベ様!ありがとうございました!また、明日学園で。」


帰ろうとした私をシュヴァルベ様は呼び止めた。


「ローレ、待ちなさい。今から部屋に戻るのはやめておいた方がいいわ。時計を見て。」


シュヴァルベ様が指さした先の時計の針は消灯時間をとっくに過ぎいつの間にか深夜と言ってもいい時間になっていた。


「あわわ!どうしよう!見つからずに戻れるかな?」


「もう見回りの巡回も始まっているし、今戻れば間違いなく見つかるわよ?今日はここに泊まっていきなさい。」


「え...でも。ご迷惑では?」


「いいの。それとも、迷惑。かしら?」


不安そうな表情のシュヴァルベ様にそんな顔をしてほしくない私はぶんぶんと首を振る。


「えへへ、じゃぁ、お言葉に甘えます。」


そう答えた私にシュヴァルベ様はにっこりと笑って頷いた。


「...ありがとう。ローレ。」

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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