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救いの女神

ご覧いただきありがとうございます。

放課後。


「今日はアルバイトはお休みのはずよね?時間を貰えるかしら?ついて来てほしいの。」


帰り支度をしていると声をかけられた。身体が勝手に強張る。

ゆっくりと振り返ると声の主はシュヴァルベ様だった。今は親衛隊の姿はない。少し気持ちが楽になる。でも。


(ついて、いく?)


ドクンー


ドキリとした。だって、シュヴァルベ様の行くところには必ず親衛隊もついてくる。ルイーゼ様が。


「あ...あの...今日はその...」


「ローレ、少しでいいの、お願い。」



断り切れず連れて来られた場所は生徒指導室だった。ついてきた親衛隊は先ほど出て行った。


「ローレ、そこに座って。」


着席するように言うとシュヴァルベ様は手際よくお茶の準備を始めた。気になる今日の御茶請けはクッキーのようだ。すぐにお茶の準備を終えたシュヴァルベ様は私の隣に座った。

いただきますとお菓子に伸びようとする私の手首がサッと掴まれる。


「待って。お菓子を食べる前に、腕を見せなさい。少しから気になっていたの。人形の動きもぎこちなかった。」


(え...腕は、まずい。)


すぐに腕を引っ込めようとしたけれど、それは許されなかった。掴まれていないほうの手で頭を掻きながら誤魔化す。


「いあー...どうしてですか?...何もありませんよ?」((ふるふる))


「何もないなら問題ないでしょう?なにか見せられないものでもあるのかしら?とにかく、見せなさい。」


どんな抵抗(言い訳)したところであらゆる能力値が天と地ほどの差のあるシュヴァルベ様から私が逃げられるはずもない。

私はじりじりと退路を潰されてゆく。行き場がなくなり観念した私は大人しく制服の長袖をまくり上げた。


私の腕を見たシュヴァルベ様は眉根を寄せる。


「...ローレ...この酷い痣はいったい、だれー。」


「あ!...あの、これは...その。」


(まずい。勢いで遮ったけれど、()()()なんて言い訳しよう...)


「えっと。これは...その...また・・・。」


シュヴァルベ様はため息をついた。


「そう。また、()()()のね。」


「...えへへ、そうなんですよー。ぼんやりと歩いていたら、()()、盛大に転びまして。それで...」


「ローレ。この前も言ったし何度でも言うわ。どんな転び方をしたのかわからない。けれど、普通、転んだくらいでこんなにひどい痣にはならない。それに前回も今回もどこにも擦り傷がない。私の言いたいことがわかるかしら?」


へらへらと答える私とは対照的にシュヴァルベ様の顔は笑ってない。


「ローレが言いたくないのならばこれ以上は聞かない。お菓子は後回しよ。あなたの治療が先だわ。」


(私の治療・・・シュヴァルベ様からの。)


その瞬間、背筋に冷たい視線を感じた。

視線の方を見てみるとそこには廊下に続く扉があるだけだ。誰もいない。でも私には見えていた。

冷たい目。怖い目。鋭い視線。それはやっと治りかけた心をズタズタになるまで突き刺しながら告げる。


断れ!聞かれても絶対に余計なことは言うな!しゃべったら、どうなるか分かっているな、と。


「ひっ...」


勝手に口から小さな悲鳴が漏れる。胸が痛い。脚が震える。


ドクンードクンー。


(誰もいないのに見えるの...もう、無理。これ以上。もう、耐えられないよ。私、壊れちゃう。)


「いぃ...結構です!だいじょ!ぶ!」


(う...そうだ。逃げよう。この人から。逃げるんだ。)


私はあわてて立ち上がろうとしたけれど、椅子の脚に躓いて椅子から落ちて尻もちをついた。近づいてくるシュヴァルベ様から距離を取ろうとして脚を動かす。

立てない。うまく脚に力が入らない。


「...これは...この怪我は...ぜ、ぜんぶ私が悪いんです!自業自得なんです!だから、だから...」


「...ローレ!」


滲んだ視界が覆われる。私の頭はふわりと甘い香りに包まれた。優しく、それでいて力強く抱きしめられる。


「もういい。もういいでしょ?どうしてそこまでして、()()()()()を庇うの?こんなにされてまで。」


「...おねがいよ...私は...もう、あなたのこんな姿を見たくないのよ...お願い...ローレ。」


切なげな声が降ってくる。

私は誰かに自分のことをこんなに思って貰ったことはない。心配したり、優しくしてもらったことはない。

心が暖かいもので包まれていく。ポッカリと空いていた心の穴が埋まってゆく。


シュヴァルベ様は私に解決方法を示した。それは私にとって一番早い解決方法かもしれない。


「すべてを話して。ね。そうしてくれれば私がー」


でも、それはダメ。

それじゃぁ、救われるのは私だけだ。彼女にとって何の解決にもならない。それは、私の望む解決方法じゃない。


(私は大丈夫。まだ、居てくれるなら。私は壊れずに私でいられる。シュヴァルベ様が居てくれれば。)


私はシュヴァルベ様に手を添えてゆっくりと頭を離しながら顔を見上げる。

そして、ここ最近一番の笑顔でにっこりと笑った。


大丈夫だよって。

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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