マニューバ
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マニューバとは人形の動き方のことである。
人形におけるマニューバは十人十色と言われるほどである。
マニューバには基本の型があって学園ではそれを習う。基本に忠実に。
それでも、やっぱりというか、人形使いによって癖が出る。どうしても出てしまう。
その動きを見る人が見たならば、操る人形使いが一体誰なのか、特定できてしまうほどである。
人形を使った授業にもずいぶん慣れた。
私の人形使いとしての成績はほぼ真ん中だ。目立たず。それでいて下手すぎない。自分で言うのもなんだけど、とってもいい感じにやっている。
と、思っている。
「ごめん!ローレ!カメムシ!そっちに行ったよ!」
「うぇぇっ!」
(虫ぃー!落ちてぇ!)
私は向かってくる、大きな緑の虫をソードで真っ二つにした。うわ、変な匂いがする。
「ローレ、ナイスアシスト!いい動きだよ!」
「ありがと!ミリア!次、行くね!」
シュヴァルベ様の特訓のおかげで、戦闘機動を行ってもブラックアウトすることはなくなった。
人形使いは思っていたよりも、私の性に合っていた。操るのがとても楽しいと感じる。大嫌いな戦いの道具なのに。
これは私の中にマーリンの知識や経験があったからというのは関係ない。純粋に私の思いだった。
だって、私はマーリンの知識や経験を極力使わないようにしていたのだから。
マーリンは人形のことをあまりよく思っていない。戦争の道具だからだ。
だから、その技を使ってしまったらマーリンに申し訳ないと思ったし、私は軍人になるつもりはない。学園を卒業しても、絶対に戦いの道具にだけは、ならないと強く誓ったからである。
それは置いておいて。
本当に楽しい。大空を自由自在に飛び回ることが。
まるで、心が解放されたように感じるのだ。
この時だけは嫌なことも忘れることが出来る。
楽しい。
そんな私の姿がウィンドウに映し出されていた。
私は、もっと慎重にならなければいけなかったのだろうか。
誰かに見られていることを意識しなければいけなかったのかもしれない。
マニューバは個人を特定する。人形使いにとって軽く考えていいものではない。
そんなことは、マーリンでなくても、私にも分かっていたはずなのに。
無意識に滲み出る、私のマニューバを食い入るように見ている人物がいたのだ。
彼女は撃墜女王に憧れる女の子。
ウィンドウの先、その瞳に映るマニューバは、私ではなかった。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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