悪役令嬢
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気分を害するかもしれません。胸糞が苦手な方はご注意ください。
「はぁ...はぁ...うぅっ...はぁ...、んく...。」
「誰が休んでいいと言ったのかしら?早く立ちなさい。わざわざこの私達が訓練して差し上げているのよ。もっと頑張ってもらわないと。」
「あははっ、ほら、早く立たないと、こうっ!なるよっ!」
スパンッ!と小気味よい音が人気のないコートに響く。
「あ!ぐっ!」
スマッシュされたボールは太腿に当たるとその反動で勢いよくコートの端に跳ね返ってゆく。太腿に突き刺すような痛みが走った。
「あははっ、さっさと立ちなよー。テニスはさぁ、立ってするスポーツなんだよ!、っと!」
「うぐっ!」
次は腕。
「あらやだぁ、田舎者だからそんなこと知らないわよ、ねっ!」
次は脇腹。
「かはっ!」
放課後。帰ろうとしたところを突然、シュヴァルベ様の親衛隊何人かに取り囲まれた。
周りには誰もいない。彼女は言った。
「ちょっといいかしら?これから一緒にテニスでもどう?」
もちろん断ったけど。相手は5人。しかも、全員高位貴族だから。私は抵抗なんてできなかった。
私はテニスコートに連れていかれたのだ。
彼女たちを仕切っているのはルイーゼ=ハインケル、ハインケル侯爵家のご令嬢。シュヴァルベ様の親衛隊の筆頭である。
彼女たちからは今までも、物を隠されたり、捨てられたりされていた。
私は、そういうのには慣れていたからどこの世界でもあるんだな、としかその時は思っていなかった。けど。
痛むところを押さえて立ち上がる。ぎゅっとラケットを構えた。
(あはは...テニスってこういう、痛みのある...スポーツだっけ...?1対5って...)
「これはどうかしらね、それ!」
「うわっ!」
(目、狙って来た。)
「ちょっと、顔はやめとなさい。バレると面倒だわ。もっと見えないところを。こう!」
美しいフォームで放たれた、黄色い弾丸はそのまま。
貴族はたしなみとしてテニスをする家が多い。彼女らはプロではない。だけど。
それでも、小さなころからテニスをしている。コントロール、球速はほとんどプロ並みだ。であれば、当たった時の威力も。
「ううっ!ごほ...、ごほっ...。うぐ...」
私はキューッと痛む腹部を抑えて思わず膝を突く。立っていることが出来ずうずくまってしまった。
(痛い、痛いよ。息が、出来ない。)
「どうして、シュヴァルベ様はこんな田舎者に。どうしてっ!」
「ちょっと、シュヴァルベ様によくしてもらったからって。調子に乗るなっ!」
「ゴミみたいな!こんな田舎者がっ!」
それからは、一方的だった。私はコートの上を這うように逃げる。隅に追いやられる。
普段服で隠れて見えないところにボールが容赦なく打ち込まれる。
何度も。何度もやめてとお願いしたけれど、それが聞き入れられることはなかった。
むしろ、それは逆効果だった。私が懇願すればするほど彼女らの球速は上がってゆく。
もう、這うこともできなくなった。逃げ場がない。声も出せない。
それでも、彼女たちはやめてくれなかった。
(もう...やめて。身体が痛いよ。やめて...。...やめてください。お願いします...もう、やめて...)
私は耐えるしかなかった。私の声は届かない。私への興味を失うのを待つしかなかった。
「ねぇー、ルイーゼさま。そろそろ行きましょうよー。もう、鳴かなくなっちゃったしー、一方的すぎて少し飽きてきたー。」
「そうね、でも。待ってくれるかしら。」
ルイーゼ様はコートの端で土下座するようにうずくまる私に歩み寄る。
ぐりぐり。
私の後頭部を踏みつけて言い放つ。
「いいこと。もし誰かに、何か聞かれたら、笑ってこう言うの。ぼんやり歩いてて転んだ。と。」
「もし、余計なことを喋ったら。この学園に、いいえ、ここに居られないようにしてあげるわ。いいわね。返事は?」
こくこく。
「ふふっ、また、時間が出来たら訓練してあげる。いつも放課後は開けておきなさい。それじゃ、片づけお願いね。...行くわよ。」
私にもわかる。ルイーゼ様は悪役令嬢だ。これは暴力。いじめだ。
ここまでお読みいただき有り難うございました。
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