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実の娘 (25/04/17追加)

ご覧いただきありがとうございます。


ローレッタのアルバイト先でのエピソードを追加しました。

「ありがとうございましたー!またどうぞー。」


うららかな休日のある日。

昼食時も終わりに差し掛かり、店先で常連のお客さんを見送った私は戸口に掛けてある【商い中】と書かれた木の板をくるりと裏返して【仕度中】にすると店の中に戻った。


ここ【ハネダ亭】は安くて美味いがモットーの宇宙食堂(大衆食堂)だ。

再開発区画にあるお店は真新しいオフィスビルや綺麗なカフェが立ち並ぶ中、開店当時から変わることなく暖簾を構え、気のいい大将と優しくてちょっぴり恰幅のいい女将さんの二人ので切り盛りしていた。


年季の入った建物はお世辞にもきれいな佇まいとは言い難い。今となっては明らかに浮いている。

しかし、お昼時ともなれば平日は会社勤めの人達で、休日は家族連れが多く訪れいつも繁盛していた。


私がミリアに勧められてここでアルバイトするようになってからしばらく経った。


「いやー、ローレちゃんがうちに来てくれて本当によかったよ。」

「本当に。ローレちゃんが来てくれなかったら今頃どうなっていたか、本当に助かるわぁ。」


店の中に戻った私に夕時の仕込みをしていた大将と女将さんは手を止め、厨房からいつもの人の良い笑顔を覗かせた。


「本当ですか?!そう言ってもらえるととっても嬉しいです!ありがとうございます!」


アルバイトをすることが初めての私にとって飲食店の接客がちゃんとできるのかとても不安だったけれど、お二人はとても親身になって一つ一つ教えてくれた。

そのおかげで私はすぐに仕事に慣れ、今では看板娘と言われるくらいお客さんにまで良くしてもらっている。


これが、人情、人の温かみってことなのかな・・・?


今まで誰かからこんなに親切にしてもらった経験のなかった私にとって、二人から掛けられる温かい言葉に最初はとても戸惑ったけれど、今では素直に受け取ることが出来るようになった。


「ローレちゃんは昼休憩にしていいよ。」


「でも、まだ片付けが残って...。」


「いいから、いいから。残りの片づけはやっておくから。お腹、すいてるだろ?」


食器の残るテーブルを片付けてから休憩に入ろうかと思っていたけれど、大将にはバレバレだったようだ。にやりと笑う大将の言うとおりお腹がペコペコだった私はその言葉に甘えることにした。


「えへへ、ありがとうございます。じゃあ、お先に休憩いただきますね。」


テーブルに並べられた昼食は焼き魚に煮物と御浸し、卵焼き、具沢山のお味噌汁、そしてお茶碗にふっくらとよそわれたご飯の上にはほんのりと桜色に染まる小さな花びらが敷き詰められていた。


「わぁ、そぼろごはんだぁ。とっても、おいしそう!いただきます!」


私は手を合わせてから最近やっと上手に使えるようになったお箸を手に取り昼食を取り始めた。





「うまうま...んく。...お嫁さんですか...あはは...いあーそれは、...なんと言いますか...。」


「あなた!またそんなことを言って!見なさいな、ローレちゃんが困っているじゃないの!」


出汁の染みた卵焼きを味わっていた私は大将から言われた言葉にあいまいな返事を返した。

それを見た女将さんは大将をひと睨みすると私に向き直りきまりの悪そうな表情を浮かべる。


「ごめんなさいねぇ、この人ったら、ことあるごとに『息子の嫁に、娘に来てくれないか』なんていうのよ。()()()()()()ちゃんがそんなことできるわけないわよねぇ。」


お二人の息子さんはすでに成人し遠く星系で料理人修行をしている。

少し前に一度だけ会った事があるけれど、背が高くて礼儀正しくて、優しそうな目元が女将さんに似ているとてもかっこいい人だった。


「あはは、ありがとうございます。私、そう言って頂けてうれしいです。」


私は二人に向かって微笑み返した。


・・・娘かぁ。

私は手に持った優しい桜色の御茶碗を見つめながらほんの少しだけ、想像してしまった。

もしも、この人たちと家族になれたら毎日が楽しくて、平和できっと幸せだろうなぁって。


でも、そんな暖かな光景もすぐに消え去る。


貴族のローレ。でも、そうだよね。

私がどんなに願ったところでその光景が叶うことはない。私は与えられた役割を果たさなければならない。すべては家のため、それが今でもあの家の娘として生かされている唯一の理由だから。


娘...。お父様は私のことを一度でも娘だと思ってくれたことがあるのだろうか...。私はただの。


「でもね。これだけは覚えておいて。」


見上げた女将さんはとても優しい表情をしていた。


「私たちは実の親にはなれないけど、それでもローレちゃんのことを実の娘だと思っているのよ。」


女将さんはそう言うと空になった湯飲みに温かなお茶を注いでくれた。

私は温かなお茶で満たされた湯呑を受け取ってにっこりと笑う。


「はい!私、とっても嬉しいです!ありがとうございます!」


私は実の娘にはなれないけれど、お二人の為にできる限りのことをしようと心に誓った。

ここまでお読みいただき有り難うございました。


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