35 クーデター
――― 橘雪乃 ―――
早朝、平素の様に食堂へ朝食を食べにくる。朝食は最近は常時ビュッフェ形式だ。騎士も、王城に住んでいる者も、王城に働きに来ている者もこの食堂で食べている。学食の様なものだ。王族とその関係者は別に食堂があるようだが。
只、平常と違うのは今日は第二王女アリエノール様がいた事だ。
勇者が全員揃う前から食べ始める。食べ終わる頃には金髪勇者の青山もやって来て食事を始める。
全員の食事が終わると王女様が立ち上がって今日の訓練の中止を告げた後、今日の予定を話し始めた。
「これから私は、ガラメデオン侯爵と共にこの国に対してクーデターを起こします。」
私は王女の次の言葉を待ちながら王女を凝視し続ける。
「あなた方勇者様は私共に協力して頂き、国王並びに王妃そして王子と王女を確保、幽閉して頂きます。」
突然の宣告に、この事を予期していた私以外は茫然としているはずだ。寝耳に水の状態だろう。私は他の勇者を見回した。しかし、驚いた顔をしているのは奥之院彩芽ただ一人だった。
他の勇者三人は目を輝かせて王女を見つめている。
やられた。
完全にやられた。男好きの王女の行動の予測が甘かった。当然この事態が発生すれば勇者全員で王女に対抗できるものと思っていた。この世界に来て日が浅くまだ王女に洗脳されてはいないと思っていた。
しかし、王女は既に男の勇者三人を味方に引き入れている様だ。此の侭では反王女派は不利だ。しかも、私と彩芽にクーデターの件を知らされなかったのは第四王女との関係が第二王女に対する敵対行動だとみなされた所為であろうし、敵だと認識された先に待つのは死か幽閉だろう。その可能性が高い。
早急に逃げなければならない。
知らされなかった彩芽も逃げなければ幽閉されるだろう。だとすれば彩芽もつれて逃げなければいけない。そうしないと彩芽は慰み者になり、いずれは殺されてしまうかも知れない。私は彩芽にこっそり耳打ちした。
「逃げるよ、彩芽。」
言うや否や剣を抜きテーブルを引っ繰り返してドアを目指して駆けだした。
「捕まえなさい。」
後ろから第二王女の声が追い掛けて来る。男の勇者が走り始める足音がし始めた。完全に出遅れた。勇者三人を敵に回してしまった。このまま、何とか第四王女の元まで走る。間に合えば助けてくれるだろう。戦闘力は圧倒的だ、勇者全員でも全く相手にならない程。だから、そこまでは何としてでも走る。
後方から勇者が猛追し、すぐ後ろまで迫っている。幸い殺すのではなく捕らえる魂胆である為に無茶な攻撃はしかけてはこないらしい。
だが、ほぼ追いつかれている。どこかに隠れて隠蔽の魔法を彩芽に使わせる。幸い、魔法は彩芽がかなりの魔法まで使える。
「次を左へ曲がるから隠蔽の魔法を使って。身を隠さないと、後ろから攻撃されるよ。その後は夕方までどこかに隠れる。」
「しばらくかかるよ、隠蔽の魔法使ったこと無いから。後10秒ほど。」
「えー、後藤君みたいに一瞬でやってよ。」
「誰だよ、後藤ちゃんて。」
「そこ曲がるよ。その前に私が『ファイアーショット』で目くらましするから。」どうせ効かないから失敗した振りして地面を攻撃して目眩ましに使う。
「 『ファイアーショット』 」
後方で爆発し砂煙が発生した。すかさず角を曲がり、彩芽の隠蔽魔法で姿を隠し更に曲がった。
元居た食堂へ隠れよう。そこにはパントリーがある。二人でも隠れられるだろう。
隠蔽魔法で匂いも存在も隠せば日が暮れるまで逃げ遂せる事が出来るだろう。そして、闇に紛れ魔法も使えばホテルまで行けるかも知れない。ホテルは南門を出て第二環状道路まで走ればその交差点横にある。ホテルまで数百メートル。1kmもないだろう。身体強化の魔法を使えば二分も掛からず着けるかも知れない。
食堂へ戻ると、そこには誰も居なかった。後藤君が持っている地図のスキルが有れば一々確認しなくても誰が居るか分かるだろうに。私にチート無くない?
パントリーの荷物を除け二人分の場所を確保して隠れた。
「彩芽、声も臭いも外には漏れないよね。」
「大声でなければ大丈夫。」
「どれくらい持つ?」
「使い続けたこと無いから分からないよ。」
「兎に角、使い続けて。」
「でも、どうして王女様が悪役キャラになっちゃった?」
「もともと怪しかったでしょ。後藤君もクーデターが起こるかもしれないって言ってたし。」
「だから誰よ、後藤ちゃん。これからどうすんの?」
「日が暮れてから隠蔽魔法駆使して後藤君のいるホテルまで走るよ。そしたら後藤君が守ってくれるはず。」
「もしかして、後藤ちゃんも被召喚者?チートな能力使って強い力で守ってくれる訳だね。安心だぁ!」
「後藤君は普通に弱いよ。」
「じゃあ、誰が私を守るのよ。生徒会長はいまいちだし。」
「しーっ!誰か来た。って、誰が生徒会長よ。」
来たのは、金髪勇者の青山と、優等生勇者の田中だった。
「王女は王城の中に隠れてるって言ってたけど、俺はもう外に出たと思うな。」さすが金髪勇者、的外れ。
「いや、俺は中にいて暫くは動かないとみるべきだと思うね。」さすが優等生勇者の田中、正解だよ。
「そうだ俺たちが来た時の塔はどうだ?隠れられる場所が無かったか?」
「じゃあ、行ってみるか。召喚の間にいるかもな。」
二人は何事も無く行ってしまった。
「行ったね。塔に行くなら今のうちに逃げた方が良くない?」
「あれは態と私たちに聞かせるための発言だった可能性も否めないよ。塔に行くと見せかけて実は門で張ってるとか。それに、探してるのはあの二人だけじゃないよ。」
「うっわぁー、生徒会長は腹黒いね。普通そこまで考えないよ。」
「考えろよ。そんな事じゃ直ぐ捕まるよ。じゃあ、二手に分かれてどっちが捕まらないか賭ける?」
「止めて‼見捨てないでよ。生徒会長はみんなを導かないと。」
「誰が生徒会長よ。私、生徒会長じゃないんですけど。ね、テレバシーとか使えないの?それで後藤君に助けを求めてよ。」
「だから誰よそれ。たとえ使えたとしても相手が誰か分からないんじゃどうしようもないんじゃないかな。」
「そうだよね。暗くなるの待とうよ。」
気が付くと寝ていた。扉を開け外を見ると少し薄暗くなってきていた。
もう直ぐだ。もう直ぐ作戦決行だ。
隣を見ると彩芽も寝てるし。結界は大丈夫だろうな。
「彩芽、起きて。」
「う~ん、もう少し。」
「駄目、早く起きて。作戦をもう一度確認するよ。ソナーみたいな魔法は無いの例えば結界を広げる事によって敵の位置を探るような。例えば、『輪が魔力を持ちひて敵の位置を探りて我に教えたまへ、ソナー』とか言う恥ずかしい魔法。」
「もしかして魔法馬鹿にしてるでしょ。」
「少し。(∀`*ゞ)テヘッ。」
「あたしは『無詠唱』のスキル持ってるから詠唱は必要ないよ。」
「私は『詠唱省略』だけしか持ってないから、魔法名だけは詠唱しないと発動できないよ。魔法が無いのなら創れないの?創造魔法とか。」
「そんな高度な魔法使えないよぉ。」
「後藤君なら使えそうだけどね。」
「本当に誰よそれ。でも弱いんでしょ。」
「チートな能力は持ってるけどね。仕方ないから周り確認したら結界強化して走るよ。後は臨機応変に。」
「チートな能力持ってるのに弱いって、どんだけ弱いのよ。」
またパントリーのドアを開け確認すると既に辺りは暗くなっている。周りに人はいないようだ。
「今よ、魔法掛けて。」
「よし、『シールドマキシマムハード』」
「格好良いね、それ!下ネタっぽくって。」
「おい!」
「よし。走れ!!」
必死に走る、誰も居ない、作戦は上手く行ったか?上手くいった様だ。後少し。城の周りの堀の橋を越えれば隠れる場所は沢山ある。
突如、橋を渡る寸前、橋の上に掛けてあった結界が解除された。敵も結界を張って姿を隠し橋の上で待ち構えていた。
「飛び込め!」
堀に飛び込んだ。敵は水の中の私達を魔法で攻撃し始めた。
どうやら、水の中は魔法に対して軽い結界の役目を果たす様だ、主に火属性の魔法だが・・それに加え先程彩芽が張った結界も未だ効力を有している様だ。潜って動けば既に辺りは暗く月も出ていない状況の下では何とか逃げ遂せるかも知れないが、堀からネス川へ移動し逃げると見せかけて、此の侭動かないのがベストかもしれない。相手にソナーのような魔法が使える者がいなければだが。
呼吸を限界まで我慢し橋の下の水面に顔を出す。既に勇者は移動していた。ネス川へ向かったのかクーデターを続けているのか、いなかった。今なら、ただの兵士たちだけなら倒せる、逃げられるだろう。
「今よ、レビテーションとか使って。」
「無理ぃ、まだ使えない。」
「だったら身体強化の魔法でジャンプするよ。」
強化された足でジャンプし橋の袂へ着地した。兵士が二人いたが簡単に気絶させホテルへ走り始める。ホテルは既に見えている。ホテルまで後少し、第一環状道路を越えた。未だ走る。遠い、もう500メートルは越えただろうか。息を止めて走る。全力疾走で走る。第二環状が見えて来た。もう交差点だ。
しかし、交差点を越え、次の曲がり角で左へ曲がり隠蔽魔法をかけてホテルへと向かった。
もし第四王女がこのホテルに滞在しているのを第二王女が知らないのなら隠す必要があるからだ。
そして、やっと到着した。
レセプションで面会を申し出て許可が下り五階へと向かった。




