33 邂逅の果てに
「だけど、魔王が七つもの宝珠を集めているとしたら魔王がそれだけの魔素で叶えようとする魔法って何だろうな。そもそも魔王ってそれだけ魔素を使う魔法を発動する魔力持ってるのかな。」俺は疑問がわいた。
「世界征服だったりして。」
「それってベタだな。ところでこの世界の地図見た事あるか?」
「無いけど?どうなってるか知ってるの?」
「この世界は、元の世界の多元世界らしい。」
「つまり、パラレルワールドって事?」
「そう、この世界の地形はほぼ元の世界と一緒。そしてここはフランスのパリがある場所にあるんだ。」
「え、ここパリなんだ。来たかったんだパリ。クロワッサン食べたい。」
「ただの硬いパンならあるよ。まぁ、元の地形と一緒だけど違う点が一つ。太平洋に大陸がある。」
「え、まさか、あの?ムー大陸?」
「いや、マー大陸。」
「あー、第二王女に聞いた魔族の住んでいる大陸。」
「そうだよ。魔族が住んでいて帝国を築いているらしい。」
「マー大陸ってそこにあったのね。」
「だからおかしいよな。ここからマー大陸は地球のほぼ真裏。距離にして約2万キロ。この世界の文明でそこまで行くのにどれだけの時間が掛かる?そこまでしていく価値があるか?その前にアメリカに大陸があるだろ。こっちではチラメア大陸って言うけど。なぜマー大陸にこだわる?誰もマー大陸がどこにあるか知らないんじゃないのか?だとすれば、過去の勇者は攻めても来ない魔族をマー大陸まで滅ぼしに行ったとは思えない。マー大陸に侵攻して魔族を滅ぼすと言うのは何かのカモフラージュじゃないのか。だとすれば何をカモフラージュする。考え得るのは第二王女とガラメデオン侯爵が勇者と言う戦力を隠し持つことをカモフラージュするために魔族が利用されたと考えるのが妥当ではないのか。そして、今回の勇者の召喚はその戦力の増強。だとすれば、勇者が力を発揮できるほどレベルが高くなるまで待つべきだが、ターニャが生きていた事を第二王女陣営が知ったとすれば、ターニャに計画を妨害されるのを防ぐためにも計画の前倒しを考えるのが妥当ではないのだろうか。その計画は王位の潜脱による奪取、そしてこの国の戦力をもってする他国への侵攻なんじゃないのか。橘、お前は利用されるなよ。もし、利用されそうになったら逃げて来い。それまでは、普通にお城で生活し情報を積極的にではないにしろ消極的にでも収集してくれたら良いけどな。」
「かった気を付けるよ。何かあったら彩芽と一緒に逃げて来るよ。」
「彩芽って?」
「見た事あるでしょ?ちょっと私より背が低い奥之院彩芽。」
「ん?お寺の人?ちょっと特徴が無いと思い出せないなぁ。」
「特徴は爆乳ちゃんよ。」
「そんなに羨ましがらなくても。橘のも小さくないだろ。」
「どこで見たのよ?は?お風呂で見てたの?」
「イヤミテナイカラ・・」
「嘘ね。ところで夏休みが終わった時に宝珠がたまってたら帰るんでしょ、元の世界に。」
「そうだけど。」
「だったら後藤君には帰れるだけの魔力があるってことだよね。」
「お、鋭い!」
「帰還にどれだけの魔力が必要かも判らないのに帰還出来ると考えているという事は、もしかして魔力は無限?」
「そうだよ。魔力は無限大。絶対内緒にしておいて。バレたら世界が俺を奪いに来るらしいぞ。」
「後藤君が元の世界へ帰ったらターニャはターニャになるんだよね。」
「そうだな。」
「だったら、もし後藤君がこの世界に残りたいと思った場合はずっとターニャと一緒だという事?」
「いや、そうはならないらしい。ターニャは二カ月程と言う約束らしい。だけど、宝珠を見つけられなければ期間が延びる可能性がある。見つければ俺はターニャから出て元の世界へ帰還するか、残るなら元の体に戻るんじゃないのかな、体を召喚して。」
「そこは不明なのね。でも体を召喚したらこっちで一緒に暮らせるね。」
「え?同棲したいの?」
「その時は三人で暮らそうか。」
「三人?」
「ターニャも。」
「この人は王女様だからお城へ帰るんじゃないのか?俺の事嫌ってるみたいだし。」
「そんなこと無いと思うよ。」
「そうなのか?」
【煩いわね。】
「ところで、その場合アルはどうなるの?」
「アルはがめついからな。アルは事情知らないし、パーティーメンバーと言うだけだな。まぁ、宝珠を見つければ始まらないという事だな。」
「でも、元の体になったら、黒髪のブサイク君に戻るんでしょ?」
「誰がブサイクだよ。まぁ、確かに優等生勇者程顔は良くないけど。」
「だって、今が綺麗過ぎるから、どうしても比較しちゃって。」
「良かったな。夏休みが終わったら不細工とバイバイ出来て。永遠にお別れだな。」
「そんな冷たいこと言わないで、冗談よ、冗談。あっ、そろそろ帰るね。」
「気を付けて帰れよ。まぁ勇者だし俺より強いから必要ないか。情報収集頑張れよ。外まで送るよ。」
ホテルの外に出ると既に辺りは暗く瞬く星が良く見えた。下弦の月が昇り始め、これから辺りは少しづつ明るくなるだろう。だとすれば時間は真夜中あたりだろうか。
「この世界って月が大きいよね、三倍以上あるかも。しかも青いし。だから夜でも明るいよね。」
「橘はあの青い月見てどう思う?あれって月から見た地球の画像と同じように見えないか?」
「確かにそうだよね。もしかしてあの青って大気の乱反射による青?だったら生物がいる可能性があるよね。大きさから言って最早衛星ではなくって双子星かも知れないよね。」
「俺もそう思うよ。この世界では本当にかぐや姫やウサギがいるのかもな。人がいて攻めて来るかも知れないぞ。まぁ、例え人がいたとしても文明の進み具合が同じなら攻めては来れないと思うけど。」
「止めて。フラグ立ってないでしょうね。」
「そんなまさか。それじゃ、またな、橘。」
「また来るよ。ところで、この世界に日本刀は無いのかな。バスターソードとかこっちの剣は剣道の技で使うには不向きかなと思って。やっぱ日本刀でしょ。」
「見つけたらあげるよ。俺聖剣なら持ってるよ。」
「それ、ターニャの剣でしょ。ずっと前に国が手に入れて、それ使ってるらしいよ。国宝らしい。」
「やっぱり、ターニャの剣だったんだな。」
「今度見せてね。じゃあね。」
見送り、ホテルの中へ戻る。レセプションにはまだアニックさんが立っていた。
「今晩は、アニックさん。コーヒー飲みたいな。作ってもらえますか。」
「甘えなくてもお作りしますよ。」
「そこのソファーで待ってますから。」
「はい、はい。また丁寧になりましたね。」
ロビーには数人の人がいて話し込んでいた。話し声は雑然としていて全体として安定した一定のリズムを刻み続け、眠気を誘う音楽の様で俺を愉悦で夢とうつつの間を揺蕩わせている。外は月が高くなるにつれて明るくなってきている。その所為で星は見えなくなるのだろう。まるで王女と侯爵の台頭が王族の影を薄るする様に。それだけは避けなければいけない。それがターニャの望みだから。
夏休み終了まで残り54日だ、それまでに何とかしないと。




