31 アルに王子様
ホテルのレストランは早朝から賑わっていた。ビュッフェ形式の食事は好きな物だけを好きなだけ食べられる。それほど豊かではないこの世界では、ビュッフェ形式で朝食を出すホテルは少ないのではないかと思える。
窓の外は動き始めた喧騒が今日を期待する人々や絶望する人々を厳しくも優しく包み込んでいる様だった。
太陽は昇り始めたばかりで既に強烈な日差しで、まるで人々を威嚇する魔物の強烈な瞳の如く照らし続けている。
レストランの中は外とは別世界の様に外の熱を遮り涼しさとほんの少しの騒々しさが支配していた。
そこで朝食を取り、食後のコーヒーを飲みホテルを後にし、強烈な日差しの中へと繰り出し冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドの朝は噎せ返るほどに煙っている。買取カウンターには平常の辛辣お姉さんが座っている。他のカウンターへ行きたかったが午前中に納品する者は少ない様で一つのカウンターだけ受付嬢が待機している。
「オークを納品したいんだけど。」
「オークですか。よく倒せましたね。って言うか良く孕ませられませんでしたねと言った方が良いのでしょうか。また色仕掛けで倒したんですか。良かったですねレベルが小さくても胸が大きいから倒せるんですから。」
相変わらず失礼な受付だ。取り敢えずオークを50体納品した。すると相も変わらず煩い集団が現れた。見るとやはり勇者の集団だった。依頼の受注に来たのだろう。橘もいる。集団の中に見たことのない金髪の男性がいた。金髪がこちらに気付いたようで目が合った。するとこちらへ近づいて来る。勇者も付いて来る。
金髪男性は高級そうな服装をしている。どこの王子様だと突っ込みたくなる格好だ。
なぜかターニャがシフトを要求して来た。【ちょっと代わって、シフト。】いいよ。
――― ターニャ ―――
「ターニャ、生きていたのか。お前は狩りの途中で死んだとの報告を聞いた。どういうことだ。体の方はもういいのか。」
「あら、これはお兄様久しぶりね。」
【お兄様?じゃ、本当に王子様?!】
「体はもう完治したわよ。どう、少しは強くなった?」
「お兄様?もしかしてお姫様?」受付嬢が目を見開いて驚愕の表情で固まっている。
「毎日鍛錬してるからな。今日は勇者様と一緒に狩りだ。」
「狩り?気を付けてね。弱いんだから。」
「弱いって言うな!!お前から見たら誰だって弱いだろうが!」
「昨日オークの集団潰したわよ。聞いたでしょ。城に伝える様に言付けたから。」
「聞いたが本当なのか?」
「本当よ。オークが人間の集落を乗っ取って我が物顔で暮らしてたわよ。オークジェネラルからオークキング迄いたわよ。まぁ全部殺したけど。」
「この娘と一緒に殺したのか。」
「この娘はただ犯されそうになってただけよ。全部私が殺したわよ。あ!そうそう、アル、紹介するわ。この人が王子様よ。ファビアン・ド・ヌサルーフ。第二王子様よ。当然第一王子は別の国に婚約者がいるから無理よ。」
「ハ、ハジメマシテ、アルベルティーヌドス」
「アル、大丈夫?コチコチよ!『ドス』って訛ってるわよ。京都の人じゃないんだから。」
「全部王女様が一人で殺したのですか。」こいつは優等生勇者だったわね。
「そうよ、一人で全部殺したわよ。」
「でも、やっぱりターニャさんは王女様だったんですね。」
「そうよ。橘さん気付いてたの?」
「だって第二王女のアリエノール様に似てたから。」
「おー鋭い!それと、これから森へ行くなら気を付けた方が良いわ。」
「でも本当にお姫様は強いんですか。出来たら一度お手合わせ願えないでしょうか。」金髪ヤンキーが聞いて来たよ。多分こいつ自信過剰だわね。
「よせ、お前ら死ぬぞ。今のお前らには手に負えないぞ。お前ら未だレベル20超えたばかりだろ。こいつのレベルは200超えてるんだぞ。とてもじゃないが相手にならないぞ。」
シーンとしてしまったわ。少し伸びてきた鼻が折れたかもしれない。
「ちょっといいですか。レベルは99が上限ではなかったのですか。」橘さん、良い質問。
「人間の中には限界を越えられるスキルを持つ人がいるのよ。」
「そう言えば、レハストンに泊まってるんだろ。会長がお前が他人の振りをして泊まってると言ってたぞ。」
「ちょっと複雑な事情があるのよ。理由は多分気付いていると思うけど。これからちょっと時間貰える。一時間も掛からないと思うわ。そこのカフェでどう?橘さんも一緒に来てもらえるかしら。」
「分かった。お前はユキノと知り合いだったのか。」
「ちょっとね。」
「じゃカフェ行くか。しかし、大事な話ならギルドの個室を借りた方が良くないか。」
「今は誰も信用できない。でも結界張るからどこでも大丈夫。つまりカフェでもオッケーって事。」
「では勇者諸君は一時間ほど時間を潰してくれたまえ。」
「アル、今日は解散ね橘さんと話があるから。」
「じゃ、偶には宿へ帰るわ。」
「そうよ、あんた甘えすぎよ。」
カフェに移動した。カフェの中はまだ朝食の時間の喧騒で声が聞こえにくい。しかし、『シールド』を張れば大丈夫の様だ。
一度シフトし『シールド』で周りを囲みまたシフトした。
これ結界?シールド?【シールドを張って周りを囲んだ。音が漏れないと言う効果があるだけ。攻撃は止められないが簡単な魔法なら少しは効果があるぞ。だから人の出入りはできる。簡単な結界だな。】ふーん。そうなんだ。
少々遅れて兄も来た。
あいつの名前はファビアン・ド・ヌサルーフ、第二王子よ。弱いくせに頑張ってるの。まぁ、私が強いのはチートだからだけど。転生万々歳だわね。
「まぁ、座って兄上。橘さんも。」
「なんかおかしい。周りの声が聞こえないぞ。魔法か?」
「そう、魔法で周りの声が聞こえないから話し易いし、こちらの声も漏れる心配もないわ、更に簡単な魔法なら弱めてくれると言う優れモノよ。」
「お前が使ったのか?噂通り魔法が使える様になったのか。」
「そうね、半分正解。」
「半分と言うと、半分が後藤君で、後藤君が魔法が使えるという事でしょうか。」
「さすが、生徒会長の橘さん。鋭いわね。やってなかったの?生徒会長。タカシが生徒会長っポイとか言ってたから。」
「生徒会長?なんでそんな言葉知ってるんですか。もしかして転生者?」
「正解。そうよ詳しくは後で話すわ、タカシに聞いてもいいし。同郷の人と話しているとハンバーガーが食べたくなるわね。」
「はんばーがー?何だそれは。それに同郷ってお前はお城で生まれたんじゃないか。」
「兄上は黙って。」
「むっ・・・」
「食べたくなりますよねー。分かります。私もうホームシックだし。お米食べたいし、カレーも食べたい。」
「そうだよねぇー、お米食べたいわ。」
「そろそろ本題に行ってくれないか。」
「ごめんなさい。では、話を始めるわ。私は殺された、三兆候説言えば。第二王女アリに。思えば私が病気になったのが一年前。そして、一年前にアリによって侯爵に陞爵された者がいる。そう、ガラメデオン侯爵よ。つまり、一年前から私は薬を盛られ続け病気に罹り徐々に悪化したと思われるわ。そして先日病気を押してアリの兵士を護衛に付けて狩りに出向いたんだけど、巨大なオーガが出てきた所で眩暈がして蹌踉めいたところを兵士全員に槍で突かれて殺されたの。女神さまが生かしてくれた。暫くの間体を使わせることを条件に。そう、使っているのが後藤君よ。」
「いやらしい奴だな。お前は男に体を使わせているのか?それにさんちょうこうせつってなんだ?」
「スケベな意味ではないから。三兆候説と言うのは未だ脳は生きている可能性があるという事ね。心臓はただのポンプだし。重要なのは脳よ。そう、私は脳と言える日本人よ。」
「何だそれは。それにお前はヌサルーフ人だろ。でも俺の事は信用していいのか。」
「お兄様の事は信用してるわよ。伊達に一緒に生活してないわよ。弱いくせに頑張って強くなろうとしてるし。」
「弱いは余計だ。それに俺は弱くはないぞ。お前が強すぎるだけだ。」
「それでも殺されたわ。兎に角アリの目的が単に王座の奪取であった場合お父様もお母様も兄上も姉上も幽閉されて殺される可能性がある。だから気を付けて。私を殺したからアリの計画は既に開始されているかもしれないし、私が生きていることを知って計画を前倒しするかもしれない。暫くの間は気を付けないと。でも分からない事が多すぎる。可能な範囲で構わないから調べてみてくれない。」
「調べてみるよ。」
「ここって絶対君主制ですよね。」質問する橘さん。
「絶対君主制とは何だ?」
「君主が統治の全権能を所有し、自由に権力を行使する政治形態ですね。つまり、第二王女が怪しいと思えば幽閉する事も出来るのではないでしょうか。」
「それをすれば反対する貴族も出て来る。貴族も個々に兵を持ち無理な政治は反乱を引き起こす可能性もある。特にガラメデオン侯爵は反対するだろうし兵の数も多い。更に第二王女が主導して勇者召喚を行っているが、その背後にガラメデオン侯爵がいるのだとしたら侯爵が過去の勇者を私兵として隠し持っている可能性もある。簡単には行かない。」
「橘さん。今晩、訓練終了後にホテルに遊びに来て。話したい事もあるから。私達は今日はお休みだから何時でもいいわよ。訓練の後、直接来てもいいし、大浴場もレストランもあるから。待ってるわよ。」
「大浴場?一緒に入るの?」
「え?女同士でしょ。何言ってるの?」
【ホントニ、ナニイッテルノサ・・】
でた。このスケベ。禿げ。
【禿げって、俺は光秀かよ。お前は信長だな。】
誰が本能寺で殺された人よ。殺されたけど・・・




