29 ターニャ
気が付けば、私はヌサルーフ王国と言う国の第四王女として生を受けていた。すくすくと育った。前世の記憶など思い出しもせずに。
この世界では普通に魔法が使われたいたがそのことを不思議に思いもしなかった。
しかし、三歳の時、突如として前世の記憶が蘇った。本当に転生できた、しかも健康な体で、魔法のある世界に。私は感涙に咽び歓喜した。
魔法も使いたいが健康な体を手に入れた。剣だ。私は剣に生きる、と決意した。
ステータスを確認してみた。これはこの世界に来た時に女神に教わった。レベルは1だった。まだ子供だから力も無くステータスは全て10も無かった。魔力に至っては2しかなかった。どうやら魔法の才能はあまり無いらしい。
しかし、『獲得経験値100倍』と『絶対防御』と言うスキルが有った。剣には役立つ。
その日、私は剣を学びたいと父に強請った。直ぐに願いは聞き入れられ剣の師匠がつけられた。
それ以来毎日剣の修行に没頭していった。実践を積むために魔物を倒した。倒した魔物は弱かったが『獲得経験値100倍』のスキルが功を奏し日々確実に強くなっていった。
12歳を迎える頃にはこの国に私を倒せる者さえいなくなっていた。
その頃だ、スキルが増えたのは。多分最初からあったのだろうが、まだ使えなかったのかも知れない。
そのスキルは『絶対切断』。
『絶対切断』のスキルをまともに剣を使えない時から持っていたのなら確実に殺してはならない人を殺していただろう。だからこのスキルは現出していなかったのではないだろうか。
それでも、魔法が使えない私は限界を感じ始めていた。それ故にこそ尚更剣に打ち込んでいった。
だのに、16歳の時心臓病が発症した。また。
この世は魔法の世界、どんな病気も魔法で治療できる。だから、治療できる魔法使いを探した。簡単に見つかるだろうと高を括っていた。しかし、簡単には見つからず月日は流れた。
病気は悪化の一途を辿っていたが訓練は欠かさなかった。
その日簡単な狩りを訓練がてら行おうと森へ出かけた。安全の為にと姉上である第二王女アリエノールが護衛を付けてくれた。戦闘力も体力もかなり低下していたが弱い魔物など恐れるに足りなかった。
そこへ、オーガキングと思える巨大なオーガが出現した。
普通なら目を閉じていても倒せる。普通なら。
突然眩暈がした。
もしかして先刻飲んだ薬?変えられた?その疑惑は確然たるものへと変貌した。護衛の兵士がオーガではなく私を攻撃し始めた。周りを囲まれる中で思考した。
誰が仕組んだ、いや、この兵士を護衛に付けたアリ以外にいない。なぜ。何らかの理由があるはずだ。これを切り抜けたら姉の陰謀を暴いてやる。
しかし眩暈の所為で蹌踉めく、敵の攻撃が見れない、避けることが出来ない。
蹌踉めいた瞬間、兵士が一斉に私を槍で突く。
そして私の心臓は止まった。
気が付けば、静寂に包まれた何処までも広がる只寂寞なだけの空間にいた。
《未だ諦める必要はありませんよ。》
聞き覚えのある声が語り掛けて来た。
目の前にはゆったりとした昔のギリシア人が着ていたキトンのような白い服を着た女性が立っていた。この世界に来た時にも会った女神様だった。
《ひとつ方法があります。聞く気がありますか。》
聞きたい。諦められない。あれほど努力したのに。この世界に来て頑張って来たのに。やっと健康な体を手に入れたのに。
《実は、あなたが居た世界から一人転移してきます。しかし、体は諸事情で元の世界で治療しなければなりません。その人に暫くあなたの体を使用させることが条件です。》
体を使わせるのですか。
《あなたの心配は分かります。ただ、使用するのは普通の男性ですので、他の男と性交渉を持つことはありません。どうですか、条件を飲めば生き返れます。更に心臓病もありません。暫くすれば、その男性と意思の疎通を図る事も出来ますし、慣れればあなたが体を使う事も出来ます。何よりあなたはあなたの死の真相を知りたいでしょう。しかもたったの二カ月程です。》
分かりました。条件を飲みます。
《承知しました。では二人で協力して二カ月ほど頑張りなさい。》
そして私は意識を手放した・・・
――― 後藤 ―――――
ターニャの話を聞きながら歩く道中、アルと話をする事も無く、思ったよりも早く王都に到着した。
既に青い月は昇り辺りを明るく照らし始め、時刻が真夜中あたりであることを物語っていた。
時間が分かるように時計が欲しくなる。この世界には既に時計が存在していた。しかし普及はしておらず塔や公園、大きな店舗などに巨大な時計が設置され庶民が見て時間が判る様になっていた。それとは別に鐘で時間を知らせる配慮もされている様だ。鐘が鳴るのは偶数時刻早朝6時から夜8時までだ。腕時計があるのかは不明だ。今度鍛冶屋にでも聞いてみよう。
王都に帰って来たのでまたターニャにシフトするか聞いてみた。
シフトするか。【お願い。】
――― ターニャ ―――――
「んー、久しぶり、アル。」両手を上げて背伸びをする。胸の大きさが強調されているのが分かるがアルしかいないので気にしない。
「はぁー?何を言ってるのかしら、この巨乳姫は!」
「誰が巨乳姫よ!初めてだわ、そんな風に呼ばれたの。お互い様でしょ。」
城壁の門まで来る。通常の門は閉じているが夜間用の小さな門は衛兵がいれば開けてくれる。確認すると衛兵が出て来た。
「お帰りなさいませ。ターニャ様。」
「ただいま。エド。」
「あれ?もう国に来たばかりの娘の設定はお止めになったのですか。」
「もう止めたわよ。ってそんな田舎娘のロープレなんかやってないわよ。それと今日オークの集落があったから潰してきたわ。どうやらオークが集団でやって来て人間の集落を乗っ取って其の侭住み着いたみたい。オークは100体以上いて、オークジェネラル4体とオークキング迄いたわよ。まだ他にも居るかも知れないからお父様には伝えておいてね。」
「は。承知致しました。しかし、さすがターニャ様ですね。オーク100体にオークキングまで。その娘と一緒に討伐されたのですか。」
「ちぃがうわよぉ。この娘はただオークの苗床にされそうになってただけよ、一匹も倒してないわよ。それにも拘らずオークを半分よこせって言うのよ。しかも武器は全部貰うとか言っちゃってんの。もう臍で茶を沸かしちゃうわよ。このアルガメツイ公爵は。」
「え?公爵様だったのですか?」
「違うわよ。ギャグの分からない人ね。ただの平民よ。パンピーよ。」
「すいません。ぎゃぐって何ですか。そもそも臍は茶を沸かしませんよ。」
「我が家の言い伝えよ。気にしないで。」
「ちょっと、アルガメツイ公爵って広めないで欲しいわ。」
「仕方ないでしょ。がめついんだから。」
ホテルレハストンへ到着すると既にレストランは閉店しロビーの明かりは薄暗かった。因みに灯は魔石をエネルギーとして光魔法で光を生み出す魔道具だ。
レセプションにはイサドの妻のアニックがいる。
「久しぶり、アニック、元気だった?」
「お帰りなさいませ、ターニャ様。もう都会に出て来たばかりの田舎娘の設定はお止めになったみたいですね。」
「誰が田舎娘よ!そんな設定してないわよ。」
「もうお体の具合は宜しいみたいですね。」
「もうすっかり良くなっちゃって、快調よ、快調。」
すると、声を聞きつけたのか奥からイサドヌインが出て来た。
「お帰りなさいませ。ターニャ様。」
「ただいま、イサド。元気だった?」
「あれ?もう田舎娘の設定は・・」
「もう止めたわよ。止めました。って誰が田舎娘よ。私は前世から都会っ子よ。ところで、話があると言っていたけど今からでも良いけど。コーヒー出して。」
「承知いたしました。ではレストランを開けますのでそちらでお話を聞いて頂けますか。」
「じゃあ、お風呂入って来るからその間に準備しておいて。ってまだお風呂大丈夫?入れるの?」
「大丈夫で御座いますよ。ごゆっくりお風呂につかられてからまたお越しください。」
「じゃあ、アル、お風呂に行くわよ。」
「ねぇ、あなた、すっかり王女様キャラ前面に押し出して隠しもしてないわね。」
「なぜ隠す必要があるの?王女様は我儘がスタンダードよ。」
「すたんだーど?・・・」




