28 私の名前は杉崎美里、だった・・・
――― 後藤 ―――
「アル、俺が全部収納するから休憩してていいぞ。疲れただろ。」
「何?元に戻っちゃった?えー、さっきの方が良かった。戻ってぇ。」
「うるさい!」
収納し始めた時には辺りは既に暗くなっていた。こっちの世界へ来た時には月は満月だった。既に8日目。月は真夜中あたりに顔を出すだろうから、暫くは真っ暗だろう。
帰り道は『ぐるぐる異世界』で分かるが、取敢えずアルに任せて、分からない時は勘で分かった振りして教えながら帰ろう。
やっとオークを『亜空間収納』に入れ終わった。次は宝だ。『ライト』の魔法で建物の中を明るく照らし『鑑定』しながら収納していった。
「大していい武器は無いな。すべてイサド会長に買い取って貰うか。」
「どうしたの、さっきは会長に売りつけるって言ってたのに。突然下手に出始めたわ。」
「あんまりいいのがなかったからな。」
「もしかして『鑑定』のスキル持ってるの?」
「実は持ってるけど、内緒にしろよ。」
「だから先日の盗賊の剣を誤魔化したからがめついとか言ってるわけね。」
「いや、それだけじゃないだろ?それがなくても十分がめついぞ。自分で気づいてないのか。」
「あ”-、もう。疲れたわ。さっさと帰るわ。」
「取り敢えずコーヒー飲んで帰るか?」
「え?飲みたい、飲みたいわ。砂糖もある?」
「無いよ、そんな高級品。どっかの貴族のお嬢様と勘違いしてないか。」
「いや、あなたお姫様でしょ。持ってて当然じゃないの?」
「はい、どうぞ。熱いから気を付けろよ。」
「って、なんで熱いのよ。アイテムボックスでしょ?普通冷めるわよ。何か隠してるでしょ。教えてよ。」
「いずれな。」
熱いコーヒーを飲んで帰途に就いた。未だ月は昇ってはいないが既にほんのり明るく大地を照らし始めていた。
帰りながらステータスを確認した。勿論あれだけのオークを倒したのだから期待した為だ。100体以上のオークとオークジェネラル四体、オークキング一体を倒した、ターニャが。しかし今は俺もターニャだから。
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名前 : ターニャ
性別 : 女性
レベル: 12
体力量 : 262/262
魔素量 : 340/340
物理攻撃力 : 28
物理防御力 : 20
敏速 : 28
魔力 : ∞
魔法防御力 : 34
幸運 : 18
スキルポイント:15
ユニークスキル 『亜空間収納』『ぐるぐる異世界』Lv2『アブストラクト』Lv2
スキル 『鑑定』Lv2『剣術』Lv1
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レベルが10上がった。と言っても12だけど。ターニャの『獲得経験値100倍』のスキルが俺にも効果があったのだろう。でなければ、これほど上がらないのではないだろうか。
流石に魔法使いなだけあって体力より魔素の方が上がっている。
これで中級魔法も使える様になった。
未だ上級魔法の魔素を1,000mp使う切れた手足をも元に戻してしまうマキシマムリカバリーの魔法は使えないが、フルリカバリーは500mpでもうすぐ使える。毒を完全に治療するマキシマムデトクシケイションも250mpだから使える様になった。
まぁ、以前使ったメテオストライクは2000mp以上必要で使用魔素量によって効果が変わる。その最低量が2000mpだ。使える様になるのはいつの日だろうか。
その他にもアンチマターアナイアレイションと言うのがあるが100,000mp以上使用するが、これが何なのかヘルプでも『鑑定』で調べても分からなかった。
ニュークリアエクスプロージョンは意味は分かるが10,000mp以上も使用する。とても夏休み中に使える様になるとは思えない。
帰還の為に必要な転移魔法については300mp以上で既に使える様になった。しかし近くに転移するのに300mp必要で距離に応じて必要量が多くなるとヘルプで表示された。
他世界への帰還に至ってはどれだけの魔素が必要か考えたくもない。
【ねぇ、王都まで暇でしょ?私の話を聞いてもらってもいい?】
良いよ。何。
【私の過去よ。黙って聞いてて。私の名前は杉崎美里、だった・・・】
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私の名前は杉崎美里、だった。過去においては確かにそうだった。思い出したくも無い過去だ。しかし、こうなってしまった状況では嫌でも思い出してしまう。
また、同じことになるなんて・・・
日本のそれほど大きくはない大都市で生まれた私は先天的に心臓が悪かった。ずっと運動を制限され普通に遊ぶ事さえ出来なかった。
運動がしたかった、普通に遊びたかった。
何より制限された短い人生よりも制限のない長い人生を送りたかった。
宣告されたのは15歳の時。
急速に心臓が悪化した。臓器移植が必要だと言われた。移植しなければ長くは生きられないだろうと。
でも生きたかった。健康になって普通の楽しいと思える人生を送りたかった。
移植は暫くは順番が来ない。しかし、心臓は悪化し続ける。悪化を回避するために暫定的な手術を受けた。
手術が功を奏し暫く心臓は持つそうで移植までの時間が稼げた。
安静にしていれば暫くは生きて行けそうだった。
運動できないから映画や小説を見るしかなかった。そこに喜びを求めるしかなかった。そんな時見た映画がある。
初恋をささげる映画。
見た後で怒りがわいて来た。
私だったら絶対諦めない。土下座でも何をしてでもドナーの親にお願いして心臓を貰う。心臓だけでもあなたの息子が生きていける、あなたは息子の全てを消し去らないと気が済まないのか、あなたは息子の事を考えていない、あなたが考えているのはあなたの感情をいかに乱さないかであり、息子のことではない。
そうドナーの親に言いたかった。
息子の事を本当に考えているのなら、息子に少しでも長く生きていて欲しいのなら心臓を提供すべきだ。そうすればあなたの息子はその一部だけでも生きていける。此の侭では息子の全てが無に帰されてしまう。だからこそ、息子の生を望むのなら、息子の為を思うのなら、猶更、心臓を提供すべきだ。
そう主張して心臓を貰って生き残る。
私ならそうする。
誰だってそうする。
だからこそ、映画の綺麗過ぎる行為に反吐が出た。
本も読んだ。
小説はラノベに嵌まった。
単純で面白かった。それまで小説は読んではいたが面白いと思った事はなかった。ただの薬のように必要だと思ったから読んでいただけだ。
でも、ラノベは面白かった。続きが気になり時間を忘れて読み続けた。それほど面白かった。
だから死んでラノベのように転生することが出来るのなら魔法使いではなく剣を使う剣士や勇者になってみたかった。
健康な体を動かし敵を倒すジョブに憧れた。健康に生まれ剣が振るえる事が単純に羨ましかった。もし本当に来世と言うものが存在するのだとしたら今度こそ健康で生まれて来たい。出来るなら異世界に生まれて剣と共に生きていきたい。
そう常に考えていた。
私は二十歳を越えても生きていた。学校を卒業し、事務のような仕事なら働けると医者の許可を貰い働き始めた。
しかし、入社した会社がブラック企業だった。
過度の残業が私の心臓に負担をかけていった。
そして、私の心臓は止まった。
これで終わりだ、来世なんかある訳がない。
ただ、もし、本当に来世があるのだとしたら健康に生まれて来たいな。
出来たら、剣と魔法の世界に。
そしてチートな力で凄まじい剣士として周りに評価されたい。
そして、望めるならスタイルの良い美人に生まれて来たいな。
《その願叶えましょう。》
んー、何か聞こえたけど死者の最後に見る夢かな、三途の川もお花畑も最後にドーパミンが脳に見せる幻覚だと言う話もあるし。
でも本当ならいいな・・
期待しないで待ってるよ・・・
そして私の意識は霧散した。




